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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2012.08.14
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ 携帯用 目次へ
<1>

店を出た儀礼。帰り道がてら、アナザーにメッセージを送る。

手袋につけた小型のキーを叩き、モニター(色眼鏡)に文字をつづる。

”アナザー、剣の眠る町ってわかる?”

”ドルエド国のトロウって町だろ、『光の剣』が封印されてる。”

すぐに答えが返ってくる。

”そこで行方不明になってる人と、コレクターの老人を調べられない?”

”なんだそれ? 俺は探偵でも警備兵でもないぞ。”

そう言いながらも、今頃検索をかけてくれているのだろう。

”僕はもう、この町を出ないといけないから。”

”また何かやったのか……?”

”……犯人ぽいじいさん眠らして来ちゃったよ。”

”そのまましょっ引け。”

”無茶言うなよ~、アナザ、頼む。”

”どこにいるって?”

”管理局の待合室に寝かせてきた。家は近いって、60超えたじいさん。”

”あぁ、こいつだな。人はわかった。行方不明者は若い女3人と子供1人だな。”

”子供?”

”浮浪児が一人消えたみたいだ。画像が有る、見た目はいいな。”

”……たぶん、蝋人形収集家だ。ごめん、一仕事できたみたい。”

”こらっ! お前、自分も子供だってわかってんのか? 行くの禁止。”

”でも……。子供じゃないし……”

歩いていた足を止め、悔しそうに唇をかむ儀礼。

”俺より10歳も小さいじゃねぇか。今トロウの警備に証拠送って要請出したから。”

”……わかった。サンキュ、アナザー。”

少しほっとしたような顔をする儀礼。

アナザーが、出動要請すっとばして、強制突入にデータ改ざんしたことは儀礼に内緒だ。


<2>

”そんで? 仕事料は?”

しっかり請求してくるあたりもアナザーだ。苦笑する儀礼。

再び足を動かしながら、メッセージをつづる。

”情報で、どう? 獅子が光の剣を抜いた。”

口の端から笑みがもれてしまう儀礼。

”・・・は??”

やはり信じられないらしい。

”疑うなよ、本当だって。獅子が抜いちゃったんだよ、『光の剣』。”

”特級情報じゃねぇかよ、いつだ?”

”今日の夕方。獅子はランクBに昇格したよ。ランクBの人型魔物倒したから。”

”……ちょっと待て。まじで待て。何やってんだお前ら。”

宙に浮かぶ文字からでも、アナザーが動揺しているのがわかる。

くすくすと、一人笑う儀礼は、はたから見ると怪しい人だろう。

その横を、物々しい様子で、町の警備兵たちが駆け抜けて行った。

”人型って、悪魔だろ。高位モンスターじゃねぇか。それを獅子が倒したって?!”

”そう。僕も参戦したけどね。”

”……さすが『黒鬼』の子だな。『黒獅子』は伊達じゃないってか。”

”『黒獅子』(くろじし)? って獅子のこと?”

”そ。なんだ、知らないのか? 最近言われてきたんだけどな。ドルエドで武術大会優勝したとか、ランクCの魔物狩りまくってるとか、有望視されてるぜ。”

”へぇ、知らなかった。『黒獅子』か。結構合うかもね。もう二つ名がつくって、すごいな。”

”まぁ、『黒鬼』が有名すぎるからな。ギレイだって、『蜃気楼』持ってんじゃん。”

『蜃気楼』とは、管理局ランクSの儀礼に誰かがつけたものだ。

追いかけても、追いかけても、追いつかない。そんな意味らしい。

派遣される護衛を次々巻いているからだろうか。

”もっともあんまり名が売れすぎるのも困り物だけどな。ましてや『光の剣』って……お前ら危ねぇじゃねぇか!!”

語尾の強くなったアナザー。

ちなみに『アナザー』も二つ名だ。ハンドルネームは「穴兎」。

神出鬼没で、掴んだと思っても丸きりの別人だという、ネットの超人。

お互い少々違法ぎりぎり(?)の所にいるが、すでに10年程になるネット仲間だ。

”大丈夫、ちゃんと対処するから。黒獅子の連れって、僕と黒髪の女の子だけ?”

”許婚の長い黒髪少女と、金髪の少女と、金髪の少年だな。”

「そこまで流れてるのか……っていうか金髪の少女って訂正してよ」

つぶやく言葉は独り言になる。まぁ、そっちはどうでもいい。連れと認識されているのがまずい。

”ありがと。そしたらしばらく連絡できないかも”

”わかった。こっちも気が向いたらフォローしとくよ。”

”きっと会いに行くから。その時は名前教えてね。”

”オッケ、気が向いた。待ってるからな。迷子になるなよ。”

”ちょっと待って、何、その扱い・・・。”

”はは、じゃあな。”

”うん、ありがとう。”

ちょうど、どこかの家と、管理局の待合室での捕り物が終わったところだった。


千夜 作2008年2月11日   (2012年10月4日改)

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最終更新日  2013.07.18 11:03:25
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