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<1> 店を出た儀礼。帰り道がてら、アナザーにメッセージを送る。 手袋につけた小型のキーを叩き、モニター(色眼鏡)に文字をつづる。 ”アナザー、剣の眠る町ってわかる?” ”ドルエド国のトロウって町だろ、『光の剣』が封印されてる。” すぐに答えが返ってくる。 ”そこで行方不明になってる人と、コレクターの老人を調べられない?” ”なんだそれ? 俺は探偵でも警備兵でもないぞ。” そう言いながらも、今頃検索をかけてくれているのだろう。 ”僕はもう、この町を出ないといけないから。” ”また何かやったのか……?” ”……犯人ぽいじいさん眠らして来ちゃったよ。” ”そのまましょっ引け。” ”無茶言うなよ~、アナザ、頼む。” ”どこにいるって?” ”管理局の待合室に寝かせてきた。家は近いって、60超えたじいさん。” ”あぁ、こいつだな。人はわかった。行方不明者は若い女3人と子供1人だな。” ”子供?” ”浮浪児が一人消えたみたいだ。画像が有る、見た目はいいな。” ”……たぶん、蝋人形収集家だ。ごめん、一仕事できたみたい。” ”こらっ! お前、自分も子供だってわかってんのか? 行くの禁止。” ”でも……。子供じゃないし……” 歩いていた足を止め、悔しそうに唇をかむ儀礼。 ”俺より10歳も小さいじゃねぇか。今トロウの警備に証拠送って要請出したから。” ”……わかった。サンキュ、アナザー。” 少しほっとしたような顔をする儀礼。 アナザーが、出動要請すっとばして、強制突入にデータ改ざんしたことは儀礼に内緒だ。 <2> ”そんで? 仕事料は?” しっかり請求してくるあたりもアナザーだ。苦笑する儀礼。 再び足を動かしながら、メッセージをつづる。 ”情報で、どう? 獅子が光の剣を抜いた。” 口の端から笑みがもれてしまう儀礼。 ”・・・は??” やはり信じられないらしい。 ”疑うなよ、本当だって。獅子が抜いちゃったんだよ、『光の剣』。” ”特級情報じゃねぇかよ、いつだ?” ”今日の夕方。獅子はランクBに昇格したよ。ランクBの人型魔物倒したから。” ”……ちょっと待て。まじで待て。何やってんだお前ら。” 宙に浮かぶ文字からでも、アナザーが動揺しているのがわかる。 くすくすと、一人笑う儀礼は、はたから見ると怪しい人だろう。 その横を、物々しい様子で、町の警備兵たちが駆け抜けて行った。 ”人型って、悪魔だろ。高位モンスターじゃねぇか。それを獅子が倒したって?!” ”そう。僕も参戦したけどね。” ”……さすが『黒鬼』の子だな。『黒獅子』は伊達じゃないってか。” ”『黒獅子』(くろじし)? って獅子のこと?” ”そ。なんだ、知らないのか? 最近言われてきたんだけどな。ドルエドで武術大会優勝したとか、ランクCの魔物狩りまくってるとか、有望視されてるぜ。” ”へぇ、知らなかった。『黒獅子』か。結構合うかもね。もう二つ名がつくって、すごいな。” ”まぁ、『黒鬼』が有名すぎるからな。ギレイだって、『蜃気楼』持ってんじゃん。” 『蜃気楼』とは、管理局ランクSの儀礼に誰かがつけたものだ。 追いかけても、追いかけても、追いつかない。そんな意味らしい。 派遣される護衛を次々巻いているからだろうか。 ”もっともあんまり名が売れすぎるのも困り物だけどな。ましてや『光の剣』って……お前ら危ねぇじゃねぇか!!” 語尾の強くなったアナザー。 ちなみに『アナザー』も二つ名だ。ハンドルネームは「穴兎」。 神出鬼没で、掴んだと思っても丸きりの別人だという、ネットの超人。 お互い少々違法ぎりぎり(?)の所にいるが、すでに10年程になるネット仲間だ。 ”大丈夫、ちゃんと対処するから。黒獅子の連れって、僕と黒髪の女の子だけ?” ”許婚の長い黒髪少女と、金髪の少女と、金髪の少年だな。” 「そこまで流れてるのか……っていうか金髪の少女って訂正してよ」 つぶやく言葉は独り言になる。まぁ、そっちはどうでもいい。連れと認識されているのがまずい。 ”ありがと。そしたらしばらく連絡できないかも” ”わかった。こっちも気が向いたらフォローしとくよ。” ”きっと会いに行くから。その時は名前教えてね。” ”オッケ、気が向いた。待ってるからな。迷子になるなよ。” ”ちょっと待って、何、その扱い・・・。” ”はは、じゃあな。” ”うん、ありがとう。” ちょうど、どこかの家と、管理局の待合室での捕り物が終わったところだった。 千夜 作2008年2月11日 (2012年10月4日改) ←前へ■ギレイ目次■次へ→ 小説を読もう!「ギレイの旅」内容はほぼ同じです。 NEWVEL:「ギレイ」に投票 ネット小説ランキング「ギレイ」に投票 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.07.18 11:03:25
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