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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2012.09.29
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ目次
<1>

「なんだ、俺のためか?」

大会への準備運動をしながら、ちゃかしてやろうと笑いながら儀礼に言う。

さっきの検査を断ったことだろうか。

「何言ってんだよ、獅子の体調べられたらいろいろっ……!」

そこまで言って慌てて口を塞ぐ儀礼。

ぴくりと獅子の眉が動く。

「いろいろ……なんだ?」

恐ろしい顔をして近づいてくる獅子。

口を押さえたまま必死に首を振る儀礼。首がもげるのでは、という勢いだ。

「何をしたんだ……?」

「僕ぁ、にゃにもしちぇない」

目が回ったせいか舌が回っていない。

「全部、獅子が勝手に入って来て飲んだんだろぉ」

儀礼は眼鏡を外して眉間を押さえている。

「記憶にないな」

「学習しないから研究室を立入禁止にしたんだろうが」

たしかに、獅子はいつも研究室に入るのを儀礼に止められていた。

「あー、記憶にないな……」

頬をかきながら、今度は獅子が視線を反らしていた。

「リョウ・シシクラさん、次出番です」

係りの人が獅子を呼びに来た。

「おぅ」

気合いを入れ直して獅子は会場へと向かう。

「ま、気楽に行ってきな」

軽い応援で、儀礼は見送った。


<2>

 ワーーーッ!!!

会場の歓声を聞きながら、儀礼はパソコンを取り出した。今の宿についての評判を探る。

周囲に聞き込みすれば簡単だが、儀礼の容姿は目立ちすぎるのだ。

馴染みの情報屋(穴兎)から2、3件情報を買い、儀礼は一旦パソコンから目を離す。

穴兎の言うとおりならば、儀礼の泊まっている宿、という以上の問題がありそうだった。

「何でこう毎回面倒なことになるのかなぁ」

こめかみの辺りに頭痛を覚え、儀礼は頭を抑える。それから開き直ったように、天井を見上げた。

「昨日は倍以上入ってたよな……。(睡眠薬)」

(僕、そのうち死ぬかも)

食事直後に薬量を推測して中和薬を飲んだが、間に合わなければ危険きわまりない行為だ。

「外で食ってけばいいか。今のうちに手を打とう」

再びパソコンに目を向けると、今度はこの町の情報屋と幾度かやり取りをする。金の払いを確認すると儀礼はパソコンを消した。


<3>

会場では喧騒が弱まる。昼休みに入ったようだ。午後は準決勝と決勝だ。

「なんだ、ずっとここにいたのか? 俺の活躍見てなかったのか」

獅子が不満そうに言う。

「勝ち進んだんだろ。決勝見れればいいよ」

儀礼の返答は冷たい。

「応援してくれないのかよ、儀礼」

「いらないだろ? 勝つのわかってるのに」

「油断は大敵だぜ」

獅子は真剣な顔をして儀礼を見る。

「じゃ、獅子はあの程度の奴らに負ける?」

儀礼は悪戯っぽく笑う。

「訳無いだろ」

にやっと笑い返す獅子。

大会出場者は決して弱くはない。しかし、ランクAの冒険者と言っても剣術大会で会ったウォールや、アーデス達と比べてしまうと随分と実力に差がある。

Bランクの獅子より強いと思える者がいなかった。いつの間にか、実績が足りないだけで獅子はAランクの実力を身につけていたのだ。

獅子が冒険者ランクAに認められる日も近いだろう。

「昼食べようか」

言うと儀礼は鞄からおにぎりを取り出した。会場へ来る途中で売っていたのでいろいろと買っておいた。

「おー、食う!!」

野菜と肉のスープと、お茶も出し簡単なランチになる。

「今日の夕飯はどっかで食べてかない? あのこともあるし……」

「俺は別に平気なんだろ? だったら安いし手間もないしいいよ」

気にしてる様子もない獅子に儀礼はため息をつく。

大会出場者は宿泊費、食事代等が半値となっている。量を食べる獅子には大事なことなのだろう。

「わかった、僕は食べて帰るから遅くなるよ」

言って、儀礼は久しぶりに薬品の入っていない料理を味わった。

千夜 作2008年1月25日(金)   (2012年10月26日改)ギレイ目次





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最終更新日  2012.10.28 11:34:20
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