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<1> 「なんだ、俺のためか?」 大会への準備運動をしながら、ちゃかしてやろうと笑いながら儀礼に言う。 さっきの検査を断ったことだろうか。 「何言ってんだよ、獅子の体調べられたらいろいろっ……!」 そこまで言って慌てて口を塞ぐ儀礼。 ぴくりと獅子の眉が動く。 「いろいろ……なんだ?」 恐ろしい顔をして近づいてくる獅子。 口を押さえたまま必死に首を振る儀礼。首がもげるのでは、という勢いだ。 「何をしたんだ……?」 「僕ぁ、にゃにもしちぇない」 目が回ったせいか舌が回っていない。 「全部、獅子が勝手に入って来て飲んだんだろぉ」 儀礼は眼鏡を外して眉間を押さえている。 「記憶にないな」 「学習しないから研究室を立入禁止にしたんだろうが」 たしかに、獅子はいつも研究室に入るのを儀礼に止められていた。 「あー、記憶にないな……」 頬をかきながら、今度は獅子が視線を反らしていた。 「リョウ・シシクラさん、次出番です」 係りの人が獅子を呼びに来た。 「おぅ」 気合いを入れ直して獅子は会場へと向かう。 「ま、気楽に行ってきな」 軽い応援で、儀礼は見送った。 <2> ワーーーッ!!! 会場の歓声を聞きながら、儀礼はパソコンを取り出した。今の宿についての評判を探る。 周囲に聞き込みすれば簡単だが、儀礼の容姿は目立ちすぎるのだ。 馴染みの情報屋(穴兎)から2、3件情報を買い、儀礼は一旦パソコンから目を離す。 穴兎の言うとおりならば、儀礼の泊まっている宿、という以上の問題がありそうだった。 「何でこう毎回面倒なことになるのかなぁ」 こめかみの辺りに頭痛を覚え、儀礼は頭を抑える。それから開き直ったように、天井を見上げた。 「昨日は倍以上入ってたよな……。(睡眠薬)」 (僕、そのうち死ぬかも) 食事直後に薬量を推測して中和薬を飲んだが、間に合わなければ危険きわまりない行為だ。 「外で食ってけばいいか。今のうちに手を打とう」 再びパソコンに目を向けると、今度はこの町の情報屋と幾度かやり取りをする。金の払いを確認すると儀礼はパソコンを消した。 <3> 会場では喧騒が弱まる。昼休みに入ったようだ。午後は準決勝と決勝だ。 「なんだ、ずっとここにいたのか? 俺の活躍見てなかったのか」 獅子が不満そうに言う。 「勝ち進んだんだろ。決勝見れればいいよ」 儀礼の返答は冷たい。 「応援してくれないのかよ、儀礼」 「いらないだろ? 勝つのわかってるのに」 「油断は大敵だぜ」 獅子は真剣な顔をして儀礼を見る。 「じゃ、獅子はあの程度の奴らに負ける?」 儀礼は悪戯っぽく笑う。 「訳無いだろ」 にやっと笑い返す獅子。 大会出場者は決して弱くはない。しかし、ランクAの冒険者と言っても剣術大会で会ったウォールや、アーデス達と比べてしまうと随分と実力に差がある。 Bランクの獅子より強いと思える者がいなかった。いつの間にか、実績が足りないだけで獅子はAランクの実力を身につけていたのだ。 獅子が冒険者ランクAに認められる日も近いだろう。 「昼食べようか」 言うと儀礼は鞄からおにぎりを取り出した。会場へ来る途中で売っていたのでいろいろと買っておいた。 「おー、食う!!」 野菜と肉のスープと、お茶も出し簡単なランチになる。 「今日の夕飯はどっかで食べてかない? あのこともあるし……」 「俺は別に平気なんだろ? だったら安いし手間もないしいいよ」 気にしてる様子もない獅子に儀礼はため息をつく。 大会出場者は宿泊費、食事代等が半値となっている。量を食べる獅子には大事なことなのだろう。 「わかった、僕は食べて帰るから遅くなるよ」 言って、儀礼は久しぶりに薬品の入っていない料理を味わった。 千夜 作2008年1月25日(金) (2012年10月26日改)ギレイ目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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