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「それは、あなたを苦しめて試し、ついには幸福にするためであった。」

                             聖 書
2008年05月17日
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お茶会は、みんなで何かをするという訳ではなく
ただ、みんな思い思いに話したい人と話し、飲みたい物を飲み、
まったりと過ごすプログラムのようであった。

私は隣の彼女と話をしたり、
ぼんやりと参加者たちの様子を眺めたりしていた。

すると、1人の女の子が
「トトロ唄いまーす!」と手を挙げて椅子から立ち上がった。
彼女は小学校高学年くらいであろうか、
色白で、少しそばかすがあり
栗色の短い髪の毛にふわふわとしたウェーブがかかり
まるで、舞台「アニー」の主人公のようだった。

彼女は、「となりのトトロ」の主題歌を
「トットロ、トットーロー」と、
自己流の振り付けで踊りながら唄いだした。
音程も振り付けも滅茶苦茶だった。
しかし、彼女は、とても幸せそうだった。
みんなの視線は十分に感じているのだろうが
どう思われるのかなどと微塵も考えていないかのように
フワフワの髪の毛を揺らして飛び跳ねながらイキイキと唄う。
彼女の視線の先は
まわりの人々ではないようだ。
彼女は何を見て唄っているのだろう。

これが彼女のトトロなのだ。

私は生きていて嬉しい!
私は今しあわせ!

そんな彼女が伝わってくるようだった。

・・・天使だ・・・

私はそう思った。

そして天使を目の前にした私は

・・・ここは天国だ・・・

そう思った。

私は「心理の先生」なる人を見つめながら思った。
・・・アナタニハワカラナイテンゴクガ、ココニハアルンダヨ・・・


その日の夕食前、
病室のベッドに座っていると
どこからか
「ギャアーーーーーッ!」
という悲鳴が聞こえてきた。
大きな悲鳴で、私もドキッとした。
同室の仲間たちも病室を出て
何事かと廊下をウロウロし、様子をうかがっていた。
「ギャアーーーーーッ」という悲鳴は断続的に続き、
私はあまり騒ぎたてたくなかったが
その悲鳴の声になんとなく聞き覚えがあるような気がして
気になって病室を出てみた。

すると
1人のナースがこわばった表情で
ナースステーションから最も近い病室に入って行くのが見えた。
悲鳴はそこから聞こえてきているようだった。
そしてその病室の患者たちの何人かは
逃げるように病室を出て廊下をウロウロしていた。
1,2分ほどして、ナースが病室から出てきて
ナースステーションに戻って行ったが
すぐにそのナースは注射器を持って病室に引き返した。
しばらくして悲鳴は聞こえなくなった。

悲痛な叫び声だった。
強い恐怖を感じる悲鳴だった。

その病室から出てきた患者たちが口々に
「カオルちゃんが・・・カオルちゃんが・・・」
と言っていた。
私は思わず同室の仲間に
「カオルちゃんて誰?」と聞いた。
すると仲間はせつない表情で
「今日、お茶会でトトロ唄ってた子ですよ。」と言った。

カオルちゃんの悲鳴の原因はわからない。
妄想の傾向があるのかもしれない。
パニックの傾向があるのかもしれない。
フラッシュバックかもしれない。
しかし原因は何であれ、
あれほどの恐怖を感じさせる悲鳴をあげなければならない彼女の苦しみは
どれほどのものだろうか。
悲鳴を聞いた私まで暗い闇の中に突き落とされたような気持ちになった。

・・・ここは地獄だ・・・

そう思った。

再び「心理の先生」の顔が浮かんだ。
・・・アナタニハワカラナイジゴクガ、ココニハアルンダヨ・・・

昼間、天使のように笑っていたあの子が
今は恐怖に顔を歪めている。

ここは天国であり、地獄だ・・・。


・・・1997年4月・・・


















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最終更新日  2008年05月18日 20時53分59秒
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