知的漫遊紀行

2018/05/31(木)11:34

「観光客と留学生 『安くておいしい国』の限界」歴史社会学者・小熊英二氏筆・31日朝日新聞・「論壇時評」欄

私:日本だけでなく外国でも観光客が急増しているという。   国連世界観光機関(UNWTO)の統計では、2000年から17年に世界の国際観光客到着数は2倍に増え、17年は7%の「高度成長」ぶり。   A氏:16年のランキングだと、日本は国際観光客到着数で世界16位だが、増加率が高く、12年から17年に3倍以上になった。   今や観光は日本第5位の産業だが、多すぎる観光客のせいで「観光公害」が出ているほど。   私:日本の国際観光客到着数の急増の原因を小熊氏は、世界各地を訪ねた経験からいうと、観光客からみれば、日本は「安くておいしい国」になったからだという。    ここ20年で、世界の物価は上がり、欧米の大都市だと、サンドイッチとコーヒーで約千円は珍しくないし、香港やバンコクでもランチ千円が当然になりつつある。   ところが、東京では、その3分の1で牛丼が食べられる。   それでも味はおいしく、店はきれいでサービスはよく、ホテルなども同様で、これなら外国人観光客に人気が出る。   1990年代の日本は観光客にとって物価の高い国だったが、今では「安くておいしい国」なのだと小熊氏は指摘する。   A氏:なお、00年から16年に、フランスは国際観光客数が7%しか伸びていないのに、日本は400%の伸び。   国際観光客数ランキング30位までの国で400%以上伸びたのは、日本・インド・ハンガリーの三つ。   この三カ国は、外国人観光客からみて「安くておいしい国」だといえるだろうと小熊氏はいう。   私:ここで小熊氏は、視点をGDPに置く。    「安くておいしい国」ということは、日本の1人当たりGDPが、95年の世界3位から17年の25位まで落ちたことと関連しているという。   「安くておいしい店」は、千客万来で忙しいだろうが、利益や賃金はあまり上がらず、観光客や消費者には天国かもしれないが、労働者にとっては地獄だろうという。   元経産省官僚の古賀茂明氏は「日本には、20代、30代で高度な知識・能力を有する若者が、高賃金で働く職場が少ない。稼げないから、食べ物も安くなるのだろう」という。   A氏:一方で日本では、観光客だけでなく留学生も増え、12年度の約16万人が、17年度には約27万人。   もっとも世界全体でも00年の約210万人が14年の約500万人に伸びてはいるがこれまた日本の増え方には特徴がある。   日本は非英語圏で、日本語習得は難しいのに、それでも留学生が集まるのは、「働ける国」だからだという。   日本では就労ビザのない留学生でも週に28時間まで働けるが、米国では留学生は就労禁止で、独仏や豪州、韓国は留学生でも就労して生活費の足しにできるが、日本より時間制限が厳しい。   そのため日本に来る留学生の層は、おのずと途上国からの「苦学生」が多くなるという。   私:いま日本では年に30万人、週に6千人の人口が減っていて、17年末の在留外国人は前年末から7%増えたが、外国人の労働者で就労ビザを持つ人は18%。 残りは技能実習生、留学生、日系人など。   こうした外国人が、コンビニや配送、建設、農業など、低賃金で日本人が働きたがらない業種を支えている。   外国人のあり方は、日本社会の鏡で、外国人観光客が喜ぶ「安くておいしい日本」は、労働者には過酷な国ということで、そしてその最底辺は、外国人によって支えられている。   そこで、小熊氏は、もう「安くておいしい日本」はやめるべきだと提言する。   客数ばかり増やすより、良いサービスには適正価格をつけた方が、観光業はもっと成長でき、牛丼も千円で売り、最低賃金は時給1500円以上にすべきだという。   そうしないと、低賃金の長時間労働で「安くて良質な」サービスを提供させるブラック企業の問題も、外国人の人権侵害も解決しないし、デフレからの脱却もできないし、出生率も上がらないだろうという。   A氏:小熊氏は、「日本の人々は、良いサービスを安く提供する労働に耐えながら、そのストレスを、安くて良いサービスを消費することで晴らしてきた。そんな生き方は、もう世界から取り残されている」という。   私:しかし、日本のこれらの背景には、日本の現在の実質賃金の低下や社会保障の将来不安という経済構造や、さらに少子高齢化問題が基底にあり、移民問題など簡単にいかない難しい問題が多いね。。    

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る