最近、気になっているのはきれいにネイルされた爪である。昨年の秋、東京駅の地下街でネイルサロンがあるのを見つけてびっくりした。40年以上も前の短い結婚生活の中で、一度だけ真っ赤なマニキュアを買い求めたことがある。つけてみる勇気もなく、時々眺めていただけだったが、夫(離婚後に死別)に見つかり「こんなものは男の機嫌を取る仕事をする女がつけるものだ」と捨てられてしまった。思い出すと笑ってしまいそうであるが、そんな時代だったのである。
あれから40年以上が過ぎた今まで、ただの一度もマニキュアをしようと考えたこともない暮らしぶりになった。今では80歳を過ぎた女の人でもきれいにマニキュアをしている人も見かける。マニキュアだけでなく爪に貼りつける付け爪というものもあるらしい。週に一度、都内での仕事に出かける時の通勤電車の中でついつい女のひとの手を見てしまう。カラーだけでなく小さなパールや色石のついたデザインに、思わず見とれてしまうこともあるが、最近は色のバリエーションが多くなってきて必ずしもきれいだと思えないこともある。しかし、鑑賞している分にはきれいだが、あの爪では生活するのに不自由なのではないかと思う。
料理の準備から片づけ洗い物、洗濯干しからたたむまで、掃除も含め、どんな暮らし方をしているのだろうかと想像を掻き立てられる。時として小さな子どもを連れているお母さんらしき人にも遭遇することがある。その爪でおむつを替えるのと訊いてみたくなる。私自身は生活に追われてネイルなどしたこともない、現実的な暮らしが続いて今日まできたが、特にうらやましいと思ったこともない。爪のことなど気にせずに思い切り手を使い、美味しい料理を作るのが私の幸せなのだから…。