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カテゴリ:政治
「約130兆円の公的年金を保有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は
17日、国内株式での運用比率の目安を12%から20%台半ばに大幅に引き上げる方向で調整に入った。 今月下旬にも運用方針を話し合う運用委員会で決める。低収益の国債中心の運用を改め、 年金給付の原資を増やす狙いだ。麻生太郎財務相との協議を経て塩崎恭久厚生労働相が決定する」 (18日付日本経済新聞 「国内株運用20%台半ば」) GPIFの国内株式への配分比率が20%台半ばまで大幅に引上げられることが決定的になったようです。 「運用は専門家に任せるべきだ」という提言をまとめた 「素人の集まり」である有識者の提言にそったものです。 長年運用に携わって来た立場からすると、 「資産配分は素人が決め、その範囲の中で運用のプロが行う」というのは、全く理に叶わないものです。 GPIFのような巨大な資金の運用は、資産配分が収益のほとんどを決めますから、 そこを素人が決定するというのは全くナンセンスな話しです。 「今まで国債の運用にかたよっていたものを分散投資にすることによって、 安全で効率的な運用するということだ」(9/3日経電子版) 塩崎厚生労働大臣は、大臣就任時にこのように発言されていますが、 この短い発言の中に、大きな誤解、或いは詭弁が含まれています。 塩崎厚労相も有識者会合のメンバーも把握していないはずですが、 確かにGPIFのポートフォリオは「計算上の分散度合い」は低くなっています。 しかし、GPIFが期待通りのパフォーマンスを上げられてこなかったのは、 「計算上の分散度合いが低い」ことが原因ではありません。 むしろ、国債を中心とした「計算上の分散度合いが低い」ポートフォリオであったことで、 厚生年金基金などのように解散に追い込まれずに済んだというのが現実です。 このような現実がある中で、「アベノミクスでインフレになる」という証券会社の セールスマンのような曖昧な理屈で、破綻に追い込まれた厚生年金基金がとって来た 「計算上の分散度合いが高い」ポートフォリオを目指すというのは国民をバカにした話です。 ちなみに、企業年金連合会が公表している統計によると、厚生年金基金は、 運用利回りにおいては1986年度から2012年度までの間21勝6敗、 勝率7割7分7厘の好成績だったにもかかわらず解散に追い込まれました。 こうした現実は、「分散投資」はリターンを拡大するための手法ではないことを示したものです。 「株式投資を増やせば収益を増やしやすくなるが損失が生じる可能性も増す」(同日本経済新聞) GPIFの資産構成を国債偏重から国内株重視に変更することの大きな問題点は、 「損失が生じる可能性が増す」なかで、分散投資効果が得られない状況にあることです。 先週末時点での10年国債利回りは0.48%程度です。ということは、 長期金利の金利低下余地(国債価格の上昇余地)は基本的に0.48%しかないということです。 この0.48%の金利低下(価格の上昇)によって、どれだけの株価下落を補えるのか、 有識者や厚労省は計算したのでしょうか。 話しを単純化するために、ポートフォリオが日本株と日本国債の二つの資産で 構成されていたとして、簡易シミュレーションをしてみましょう。 まず、国内株式の比率25%、残りの75%を国債にしたポートフォリオをPortfolio-Aとします。 このポートフォリオの場合、国内株が先週末の水準14,500から10%、 13,000円を割れる水準まで下落した場合、日本国債の利回りが0%まで低下 (国債価格が上昇)してようやく元本を維持することが出来る計算になります。 換言すれば、国内株が13,000円を大きく割り込むことになれば、国債の金利低下(価格上昇)では 株価の下落を埋め合わせることが出来ないということです。 次に、足下のGPIFの国内株式比率と同じ16.4%の日本株と、 83.6%の日本国債で構成されたポートフォリオをPortfolio-Bとします。 この場合でも、国内株式が先週末時点から15%、日経平均で12,000円程度までの下落までしか、 国債の金利が0%まで低することによる国債の価格上昇によって国内株式下落に伴う損失を カバーできない計算になります。 有識者や厚労省は、株価が上昇する可能性ばかりを強調するばかりで、 何故、現状でも株価が15%下落したら損失をカバーできない可能性の あるポートフォリオであることに一言も触れないのでしょうか。 こうしたことを十分理解した上で国民に何も言わないのであれば、それは犯罪に近い行為ですし、 このような簡易的なシミュレーションもせずに国内株式比率の引上げを主張しているとしたら、 「有識者」と名乗る資格も、GPIFの資産配分に口を出す資格もないということになります。 現状ですら金融的に実質破綻している公的年金は、年金負債がこれ以上拡大したら、 年金制度を維持することさえ難しくなります。こうした現状を国民に知らしめ、 そのうえで公的年金破綻リスクを負ってもリターンをあげるために玉砕覚悟で 10%の株価下落にしか耐えられないポートフォリオに変更して行きますと説明するのが、 国民の大切な年金資産を預かる者としての義務のように思えてなりません。 14日に閣議決定された特定秘密保護法案の運用基準で、厚生労働省も秘密を特定できる 19の行政機関の一つに指定されましたが、厚労省にとって公的年金の運用状況なども 特定秘密に該当するのかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.01.06 21:27:37
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