ウツボと歩んだ半生
“当たり前”を失うのはいつも突然だ。そしてそれは失う手前になってようやくありがたみを実感する。3年前も同じだった。正直思い出すのは辛いけど、少し落ち着いたのでやはり書き残しておこうと思う。先週リビングの90cm水槽が崩壊した。もちろん物理的にではないが。原因はなんだろうか。内臓系の病気な気はしているけど。今まで危なげを全く見せなかったユリウツボとキジハタは呼吸が荒くなり目がやや白濁し、明らかに辛そうに、力なくぐったりしてしまった。こうなった元の行動が何かは見当がつかず、それまではいつも通りだったため大量換水で水質改善を図ったもののウツボが粘液を放出してやまず。投薬するにも隔離ができるサイズではなく、一度も薬品を使ってこなかった彼らにこの状態になってから使うのは余計に悪化させそうな気がして。結局、色々手を付け始めてから二日三日ほどユリウツボは6/14、キジハタは6/16に息を引き取った。キジハタは5年8カ月。ユリウツボは14年。これだけ飼育していればもはや魚も親族同様。9年8カ月飼育したトラウツボが亡くなってから3年。そしてここに水槽を始めてユリウツボを入れてから14年。ついに誰もいなくなってしまった。6/14はユリウツボを家に迎えた日。だからちょうど14年だった。前日前々日に終わってしまってもおかしくなかったのに、この子はこの日に逝った。自分も人間なので勝手な解釈をしてしまうのだが、この日まで無理やり持ちこたえていたんじゃないか。そう思ったら涙が零れた。毎年お祝いにマグロをあげてたけど、最後にあげられなかった。ごめん。14年という月日はあまりに長すぎた。30も近い自分にとっては人生のほぼ半分。その半生をウツボと歩んできた。若かりし頃の黒歴史を進んでいた高校時代も、大学に合格した時も、最初で最後の誰かと付き合った時も、ラボや研究室に明け暮れていた時も、スーパーに就職した時も、怒られ残業で死にそうになっていた時も、意を決して会社を辞めた時も、ニートでぶらぶらして、水族館にアルバイトで入って、それすら5年の月日を消化して今に至るまで。全部一緒だったんだよ、家に帰ればお前たちがいたんだ。その間たくさんの魚がやってきて、去っていった。元々中学でウツボが好きになって、ユリウツボを迎えた後にはアミウツボ、ハワイウツボ、ウツボ、そしてトラウツボが。広い水槽と思い切って導入したでかいクーラーを利用して隔離ケースに入れていたスイやキュウセン。餌用に釣ってきたネンブツダイやササノハベラ。混泳に失敗してしまったネコザメ、アイゴ、オトヒメエビ、逆に全然大丈夫だったカワハギ、ウスバハギ。初代ハタのアカハタ、キジハタにやられてしまったクエ。潮干狩りで採ってきたタイワンガザミ。誕生日に買ってもらったイセエビ。仲の良かった高校の生物の先生にいただいたボウシュウボラ。長井で買ったイズカサゴ、イシガキダイ。あとはなんだっけ、とにかくたくさんいた。全部思い出。イラストもたくさん描いたっけ。へったくそな腕で。ニコニコ静画とかに上げてた気がする。あとはmixiか、今はやってないけどこないだログインしたらちゃんとアカウントは存在していた。そういえば直近ではユリウツボが残っていた唯一の購入魚だった。大阪のルクール(今はなくなってると思う)というお店の通販で買った。たしかもろもろ込みで6000円くらい。三重のアクアマリンズをよく利用していた割にこの子は別の出身。どこ産なのかもわからない。写真は2008年の家に来てすぐ撮ったもの。キジハタもいなくなってしまって、先日ハクテンハタも亡くなった。ハタも家から消えてしまった。今自分の元にいるのは2019年以降の自家採集のメンバーたちですべて相模湾産。ヒーター事故の生き残りだった2018年以前のメンバーももういない。そう考えると、ユリウツボだけでなく全員の思い出が蘇ってくるようで。多すぎてとてもここでは話しきれない。ここまでやってきて自分は一向に飼育が上手くなった気はしない。が、ほんの少しずつでも前に進んでいると信じたい。だって彼らがいたから。ここまで生きてこられたから。未熟な自分でごめんなさい、でも本当にありがとう。ユリウツボとキジハタは、トラウツボの隣に土葬した。以前と同じく煮沸し、土には石灰を混ぜ、プラスチック容器で保護した。小さな魚や自力で採ったものは記録として標本に残しているが、彼らはどうか土に還ってほしい、そしてこの家にいてほしいという想いが強くこのような形となった。魚(他の生き物もだけど)をすべて供養する場所には顎の一部をいただいて、トラウツボと同じ容器へ。あまりにも大きな悲しみに、たくさんの花を買ってきて。魚には通じないかもしれないけど、人間は誰かを弔うために花を手向けるんだよ。あなたの名前と同じ、綺麗なユリの花がこの想いと共に届きますように。あなたに会えて、一緒に過ごせて本当によかった。ゆっくり休んで、待っていて。いつか俺がそっちに行ったらまた会えるように。その時はアジとマグロを持っていくから一緒に食べよう。死んでも忘れない、親愛なる魚たちへ。2022/6/21 Tue. Pardalis(ISSCY)