リバーサイド

2007/02/24(土)00:53

ヒヨドリをよろしく 【八】 一羽、足りない!

ヒヨドリをよろしく(17)

                                     台風が去ってみれば  台風が、この地方を直撃すると予想されながら、途中で進路を変えて いきました。 それでも雨風の激しさは相当なものでした。 次の朝、私ははめごろしの小窓の明るさに驚いてベッドから跳ね起 きます。一晩中ヒヨドリの雛たちのことを気にしながら、寝入った のは明け方近くになってからだったのです。もどかしい気持ちで広縁の雨戸の一枚目をくると、おそるおそる白 樺の根方に眼をやりました。 (よかった!) 濡れて光る地面には、ヒヨドリの巣はおろか、一羽のヒナも落ちて いなかったのです。親鳥の騒ぐ声もまったくしません。 (すごい。あんなに雨と風がひどかったのに、なんともないなんて。 白樺が守ってやったんだ)夫も昨夜は、雛たちのことが心配でまんじりともしなかったといい ました。そして、「みんな無事っていうけど...」、と寝不足のはれぼっ たい目をこすりこすり、半信半疑の顔を白樺の上のほうに向け ながらいいました。「巣が遠くに吹き飛ばされているかもしれない」二人で二階に行き、窓からそろって身を乗り出しました。白樺の葉 むらに目を凝らすと、巣は元の位置にちゃんとあるではありませんか。 そればかりか、雛の頭も見え隠れしていたのです。 「たいしたものね。台風にもびくともしないなんて」 ヒヨドリは、大切なわが子を守るために、われわれが想像するより ずっとしっかりした巣を作るようです。 夫はそのあとすぐ、台風の予報で取り外しておいた望遠レンズを、 再び窓にセットしました。ピント合わせをしていた彼が、首をかしげました。 「どうしたの?」 「.........」 「ね、どうしたの?」 「う、うん。どうもヒナが一羽足りないみたいなんだ」 「エーッ、ほんと?」私は彼を押しのけ、レンズをのぞきこみました。  四つあるはずの雛の頭が、たしかに三つしか見えません。 まだ眠っているのがいて、親鳥が餌を運んでくれば、その子もきっ と大きく口を開けて伸び上がるかもしれない。 私たちは、四羽いると信じようとしました。親鳥は二羽ともまだ姿をあらわしません。それもまた心配でした。 ことに母鳥のほうが気になります。あの尾羽では、強い雨風の中で バランスをとるのは難しかっただろう。わが子を守るために力つきて、 いまごろ...? いやなことばかり考えてしまいます。親鳥たちへの心配がいよいよつのって、このまま雛たちだけが残さ れたらどうしようなどと考えているとき、やっと一羽がエサをくわえて 巣にやってきました。 ボロボロの母鳥のほうでした。 雛たちは機械仕掛けのボタンをおされたようにいっせいに大きく口を あけ、またいつものようにピィピィにぎやかに鳴きだしました。 しかし、レンズの中の雛は、いくら数えても、三羽しかいません。姿の見えない一羽は、巣の中で死んでいるのだろうか。それとも昨夜 の雨と風にやられて地面に落ち、猫に食われてしまったのだろうか。 巣立ちまえの、羽ばたきの練習さえもまだだった雛がいないとなれば、 どうしても悲観的な想像をしてしまいます。羽が散っていたり、死骸の一部が残っていたり、むごたらしいあとが ないのがせめてもの救いでした。野鳥には卵のときから危険がいっぱいで、天寿を全うできるのは、よ ほど運がいいとききました。それにしても、あそこまで育ちながら残念 でしかたがありません。 ところが、おそい朝食をすませて、まだ食卓でゆったりしているときでした。 どこからか、チィチィと幼げな弱々しい声がしてきました。それは、白樺と は違う方向からで、しかもどうやら地面から―。

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