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2006年07月02日
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カテゴリ:パパの作品
◎ まだの方は、まず第1話からどうぞ
第1話
第2話「償い」

第3話 「流転」
○ 良介
良介は18歳になっていた。交通事故で一命を取り留め、その後の検査で身体機能は、どこも異常がなかったにもかかわらず、良介は言葉を発する機能を失っていた。

オレのせいだ。すべてはオレのせいなんだ。
良介を、自分が殺した男の子供だと思いこみ、呪い続けてきた自分。

「貴船君、君は間違っている。良介君があの男の子ならば憎い。自分の子だから憎くない。そんなことは間違っているんだよ。僕は職業柄、犯罪者の子供も多く知っている。しかし、彼らに何の罪もない。何の罪もないんだよ。人が生まれてくること自体に罪があるなんて誰が決めたんだっ!」

あの時、嵐山は孝介の着衣の両襟をつかみ、強く揺さぶりながら叫んだ。
折しもそれは、良介が自分の子供であると判明した直後でもあったのだが、嵐山の声に孝介は「生まれること自体が罪であるはずがない」ということに初めて気づかされたのだった。

あの日、東京に戻ってきた孝介を待っていたのはうつろに目を開く良介であった。

それから今日まで8年間、孝介は人脈を頼りに名だたる医師に良介を診せたが、良介が言葉を失った理由については、皆一様に首を傾げるばかりだった。

その一方で家族は、良介の言葉にならない気持を思いやるということで、気持を1つにし、以前は会話さえなかった孝介と由理子の間にも笑い声が戻り、いつしか「あなた」は「孝ちゃん」に戻っていた。
良介の2歳下の咲子は高校1年で、将来は福祉関係の仕事に就くんだという夢を持っていた。孝介は自分が家族をないがしろにしてきた長い期間があったにもかかわらず、よくここまで明るく優しい娘に育ってくれたと、いつもうれしく思うのであった。


○ 危機一髪
良介は小さな頃のように包丁の音を怖がったりすることはなくなっていたが、彼に関係して不思議な出来事が起こった

良介が養護施設の高等部1年の夏休みだった。
同級生の家族とともに川原でキャンプをした。
孝介と由理子は飯ごうで夕食の準備を始めていた。良介と咲子は水辺で遊んでいた。
「キャーーッ、お兄ちゃん、ダメ!お父さん、お母さ~ん!」
咲子の悲鳴に近い大声が聞こえてきた。

孝介達が声の方を向くと、良介が滝に向かって歩いているのが見えた。あと数メートルで滝に落ちる。
「良介!止まれ!何をしているんだ!」
「良介、止まりなさい。孝ちゃん早く!」

2人が良介に向かって駆けだしたその時である。
ズンッッ、ドドドーンという大音響と共に、山肌の道路から、大型のトレーラーが川原に転落し、孝介達のテントと夕食の準備をしていた焚き火を踏みつぶし水しぶきを上げて川の中で止まった

その直後良介は、トレーラーに走り寄り、足がすくんで動かない孝介達を尻目に、運転席の窓から運転手を引っ張り出したのだ

良介はどちらかと言えば慎重派で、自分から滝に向かって歩いていくことなど普段では考えられないことであった。
もし、良介が滝の方に歩いていなければ良介と由理子は確実にトレーラーの下敷きになっていただろう。



○ 咲子
それから2年が経った。
咲子は高校で弓道部に入っていた。
試合のあったある日の夕方、咲子はなかなか帰ってこなかった。
学校まで迎えに行った由理子に咲子は、暗くなった部室で泣いていた
「お母さん、お父さんって悪い人じゃないよね」
「当たり前じゃない。お父さんはいつもお母さんやあなた達を何より大事にして下さってるのよ。悪い人な訳ないじゃない、でもどうして?」

咲子は、弦の切れた弓と、背中に「私の父は殺人者です」と赤いマジックで書かれた真っ白な道着を由理子に見せた

「まあ、嫌なことをする人がいるものね。咲ちゃん、あなたのお父さんが悪い人な訳ないでしょ。あなたが一番分かってるんじゃなくって?」
「う、うん、お母さん。ごめんなさい。もう大丈夫だから・・、ごめんね」

次の朝、いつまで経ってもリビングに下りてこない咲子の様子を見に部屋に入った由理子の目に映ったのは、机の上の置き手紙だった
…お母さん、ごめんなさい。ちょっと1人にさせて下さい。本当にごめんなさい。…

手紙の脇に添えられていたのは、古い週刊誌のコピーだった



○ 週刊誌
…「エリート社員はこうして殺人鬼になった」
   『大企業に巣くう裏事情』

金成商事元社員貴船孝介(30)は、19日の夜、自室で愛人の夫である小野雄二さん(35)を包丁で刺殺した
貴船は、以前東京本社勤務当時ライバル会社の裏事情を取るためA子さん(25)に近づき、産業スパイとして利用し、その価値がなくなったと見るや妊娠中の彼女をいとも簡単に捨てた

本社も本社でスパイ事情が露見するのをおそれ、貴船を今回の事件の舞台のある町の出張所に匿っていた。
その出張所の近くで料理店を営んでいたのが、今回殺された小野さんの妻B子さん(32)である。
彼女は、店を営む一方で、とある事情で服役していた小野さんの帰りを待ち望んでいた。
そこに客として現れたのが、貴船。

東京で産業スパイをしていた彼に取っては、B子さんをたぶらかすのは赤子の手をひねるよりもたやすかったに違いない。
罪を償い満期出所してきた小野さんは、愛しい妻の待つ町へ向かった。
しかし、そこに待ち受けていたのは、プレーボーイにすっかりだまされ、身も心も捧げ尽くしたB子さんの姿だった

男なら小野さんでなくても、頭に血が上り、冷静でいられないことは想像に難くない
小野さんは、妻を追いかけて貴船の部屋に行った

しかし、そこに待ちかまえていたのは、妻を背後に回し、包丁を手に彼を挑発する貴船だった
貴船は剣道二段。冷静さを欠いて襲いかかった小野さんの心臓を冷静に包丁でひと突きするのはそう難しいことではなかった。
こうして、エリートと呼ばれた男は、人生をやり直そうとしていた一組の夫婦の絆をいとも簡単に断ち切ったのである…



○ 捜索願
  「由理子…」
週刊誌のコピーを持って立ちつくす由理子の後ろで孝介はすべてを理解した。
「孝ちゃん…」

「すまない…、咲子にまで…」
「どうして孝ちゃんが謝るのよ!あなたは何も…、何も悪いことなどしてないでしょ。…どうして今頃…、ひどい」

孝介には何となく心当たりがあった。先月同期では一番に課長に就任してから、同期や先輩の間に口には出さないが、強い妬みが感じられたのだ。
咲子の高校にも数多く彼らの子供が通学していた。

孝介と由理子は警察に咲子の捜索願を出した。

それから2日目の晩、電話がかかった。
「ああ、貴船君かね?オレだぁ」
懐かしい声はあの嵐山刑事だった。
「咲子さんというのは、君の娘さんかね?え?大丈夫大丈夫、娘さんは無事にしてるよ」

嵐山は、刑事を退職後、児童相談所の嘱託をしていた。
「でね、警察から連絡があったんじゃよ。家出してきたらしい女の子がいるってね?名前と顔ですぐお嬢ちゃんだって分かったよ、由理子さんそっくりだからねえ。え?大丈夫だよ。自殺したりはせんよ、あの子は。でもなあ、何があったか知らんが、心のケアは必要だよ」

「孝ちゃん、私が行ってくる。分かってくれるまで時間をかけて話してくる。安心して!」
「由理子…」

由理子は翌朝、嵐山の待つ海辺の町の児童相談所に向け出発した



○ 後悔
オレは、あの時冷静に男を刺したのだ。その男の名前が「小野」であったことなど、記事を読むまで忘れていたことであった。オレはまだ35歳の男のその後続いたであろう人生をこの手で終わらせてしまったのだ。

それでいながら、何の罪を償いこともなく、反対に英雄気取りで本社に返り咲き、2人の子供にも恵まれ、それでいながら一時期は妻と息子を疑い、憎みして生きてきたのだ
その罪を自分が償うことなく、息子が事故に遭い言葉を失い、また今度は娘が父の十字架を背負って心に深い傷を負ってしまったのだ

孝介は、どうにかして小野に対する罪を償わなければならないと思った。

つづく

パパの作ったお話





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最終更新日  2006年07月09日 23時07分35秒
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