好きで好きで、どうしようもない
好きで好きで、どうしようもない。自分の影の中にいてくれる式神たちの事が伏黒恵は好きだ。いつだって呼べば来てくれる頼もしい存在だ。伏黒にはその式神たちだけがいてくれるだけで良いと思っていた。不謹慎だが、幼い伏黒の遊び相手にもなってくれた。もちろん成長してからも、ずっと傍にいてくれる。だから、式神たちだけが特別。そう思っていたのに。いつしか、その心の中に淀みが現れた。それは、ずっといた存在だった。当たり前のように。だから初めは、依存や父性を求めてかと思った。でも、違う。五条が、好きなのだ。想い慕う相手として。何も、秘かに憧れていた「初恋」がこの男でなくても良いではないか。叶うはずもない。万が一もありえない。そう思ったら、可笑しくなってきていっそ玉砕しようと思った。だから言ったのだ。もうこの想いからお別れをしようと、その一心で。何気ないのを装って、五条に「好きです」と。「やーっと気が付いたの?おバカ恵。」「は?」おバカと言う言葉にムッとするが、それよりも何よりも。ーやっと気が付いた、そう言ったのか。この男は。頭が真っ白になる。まさか気づかれていただなんて。どんなに迷惑だったであろう。自分だって気が付いた時は愕然としたのだ。呆然と伏黒が五条の顔を見つめていると、それとは逆に五条は大きく微笑んだ。「僕は、とっくの昔に気が付いていたよ。」「そんな前から好きじゃないです。」五条への想いに伏黒が気が付いたのは、一週間前なのだ。かけられた思いがけない言葉に、まだ頭は混乱するが、それははっきり言わなければ。「でも僕の事が好きなくせに。」飄々とした、その言葉にぐっと声を詰まらせる。悔しそうに目を伏せる伏黒の頭を優しくポンッと叩くと、「ドンマイ。」と五条は笑った。からかうつもりだろうか。やはり言わない方が良かったか。だが、いつまでも抱えているのも辛すぎたのだからこれはこれで良いのかもしれない。「好きでした。」そう言いなおし、もうこの話は終わらせようとすると。また明るい声で、「一人で完結しないの。この子はもー。」と苦笑いをされる。だが決して嫌な笑い方ではない。不快ではないのか?一生徒に、しかも幼い頃から面倒を見てきた相手に懸想をされて。好きだという気持ちはあるが、五条の考えていることは伏黒には全く分からない。「もう良いです。」そう言った伏黒の口に、五条の人差し指が当てられた。それだけで、ドキリと胸は高鳴るのに。ゆっくりと離れていく指が恋しいと思った。これが恋だと。この男の事が、好きで好きで仕方が無いのだと。「僕の片思い歴を甘く見ないでほしいね。」どれだけ傍で見てきたと思ってんの。五条はそう言うと、ふんっと胸を張る仕草をする。五条が片思い。誰にだろう...。そんな遠回しの言葉で、伏黒の気持ちを拒絶しなくてもいいではないか。表情を曇らせる伏黒に気が付いたのか、五条は大きく溜息をつくと。「違う、違う。」「僕の方が恵の事を好きなんだから。」そう言って、その大きなあたたかい手で伏黒の頬を優しく撫でた。