2009/01/07(水)22:23
日本と韓国の近未来小説「時のそよかぜ」第66話
2025年8月19日 PM8時 西大門・独立門 料亭「豊森閣」
ここはソウル市西大門区の刑務所跡歴史記念館に程近い、地下鉄独立門駅のそばである。
昔はキーセンハウスだった建物を料亭として使っていて風情のある造りになっていた。
君島と小村は事務所に帰ったあとク・ハンテ観光部部長に連れられ豊森閣に来た。
部屋に通されると、楽園グループ会長、8ラックを運営しているコレアトレード理事長、東洋グループ会長の3人が君島たちを待っていた。
「あ、どうも、この方達が開発事業団の?ク・ハンテ部長」
「はい、そうです、開発事業団の君島理事長と施設管理担当理事の小村さんです」
「はじめまして、君島です」
「小村です」
「今日はようこそお越しくださいました」
楽園グループとは韓国で一番最初に出来たカジノのグループで、長くソウルには君子洞クァンナルにあるウォーキング・ヒルしかカジノはなかった。
政府の息のかかった8ラックカジノは楽園グループに比べると歴史はまだまだ浅い、東洋グループは地方の済州島や慶州のカジノを経営している。
今までは優秀な営業職員の引き抜き合戦をしたり、敵対する関係であった。
やはり一番歴史の長い楽園グループの会長が話を始めた。
「ク・ハンテ部長から話は聞いていただいてもらっていると思いますが・・・」
「ご存知の通り我々は今までお客の争奪でしのぎを削ってきたのですが、今回の38度線開発の話を聞いて、今回は力を合わせて韓国にお客さんを引き付けるチャンスだと・・そのためには3者が協力し、同じ場所に3件のホテルを建てそれぞれにカジノを運営すれば相乗効果でホンコンやマカオに取られたお客さんを取り戻せるのではという事なのです」
「確かに今までそういった場所は韓国には無かったですよね」
「そうなのです、済州島が広い意味ではカジノが集中していましたが、結局弱い資本は淘汰され最高10軒あったカジノが今は3軒しかありません、その失敗を糧にして今回は協力し合おうという事なのです」
「なるほど・・」
「で、これをご覧ください」
渡された計画書には、ソクチョから北へ20キロほどの高城の北、金剛山の東に特一級ホテル(客室500室クラス)を6軒誘致し、そのうちの半分にカジノを併設する。
その他、海水浴場、遊園地、乗馬、射撃場などの滞在型リゾート施設を建設する。
またアクセスについてはKRの京元線を使い、仁川空港及びソウルから直通のKTXを1日3本~5本走らせる。
また新しくできるモノレールの駅からもアクセスできるようにしてもらいたいとの要望である。
すでに政府機関からは開発計画の許可を取っているらしく、開発事業団にはモノレール駅と自然公園などの施設の一部を、カジノリゾートから行けるように便宜を図ってもらいたいという内容であった。
「小村さん、どうですか?」
「私はカジノリゾートに関しては問題ないと思います、すでに政府の認可が出ているということですから・・ところでホテルはどこを誘致するのでしょうね?」
「ホテルは今のところの予定では、ロッチ、朝鮮、ラマド、ヘイアット、ヒレトンです」
「一流ばかりですね、どうです君島さん?」
「いや、そっちの方はまったく問題ないのですが・・どうせならモノレール駅からカジノリゾートの間に免税店を誘致すれば?」
「免税店はホテルに併設する予定ですが・・」
「こちらとしても自然公園へのアクセス通路は店舗など計画変更しなければなりませんし、せっかくですから事業団としても、一方的に協力するという事ではなくて、この計画に花を添えるような案を考えなければいけませんね」
「小村さん、今度大統領に会ったときに話してみましょう、いずれにしても東海岸まで開発が進むのは5年後くらいになりますからね」
「そうしましょう、今度大統領に会うのは・・・」
「明日ですよ、起工式で」
「そうでしたね、じゃあさっそく明日話してみましょうか?」
「ところで以前君島さんは私達3つのカジノグループでVIPだったらしいですね」
「もうずいぶん昔の話ですよ」
8ラックの会長が言った。
「私どもとは仕事上のお付き合いがあったと・・」
「はい、8ラックカジノの紹介をさせていただいた事があります」
「そうなのですか?」
「君島さんは無償で宣伝していたのですよ、ねえ君島さん」
「はい、その通りです」
「無料ですか?」
「そうです、韓国観光公社のブース内での宣伝でしたからね」
「なぜそんな商売にならないことを?」
「あの時は韓国が好きで、韓国のいいところをとにかく日本人に紹介したい、いいイベントを開催したいと言う気持ちが大きかったのです、8ラックカジノも出来たばかりで知っている人が少なかったですから・・」
「しかし・・」
「領事館なんかに後援して頂いたりしていましたから、あまりお金お金と言うのも・・」
「そうですか、君島さんは我々の知名度がないときに助けていただいたわけですね、その時の我が社の担当は誰でした?」
「チョンさんでしたね、まだ30代の青年でした」
「チョンなんと言いました?」
「すみません、忘れてしまいました」
「会社に帰ったら調べてみます、今はカジノはどこへ行かれているのですか?」
「今はどこにも行っていません、もう行かなくなって10年以上たちます、でもカジノの魅力は分かりますし、たしかに集客が期待できる分野ではありますね、いまだに日本ではカジノは認められていないので、日本人観光客を呼ぶという意味では有力なコンテンツだと思います」
「何かほかにアイデアはありませんか?」
「そうですね・・・」
君島は以前から思っていたことをいくつか会長に話をした。
「ありがとうございます、これからも是非いい友人でいてください」
「こちらこそ」
「では明日も早いのでそろそろ・・・」
「そうしましょう、今日はありがとうございました、明日の起工式の成功をお祈りいたします」
「ありがとうございます」
つづく