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February 4, 2007
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 都内某所、閑静な住宅街の一角にある純和風のその家は、時代劇にでも出てきそうな重厚な門と塀に囲まれて、まるで大名屋敷といった佇まいを見せている。
 身の丈の二倍はありそうな門柱には「葉村」と「日本舞踊葉村流」の表札。
 広大な敷地には母屋と葉村流本部、離れが三棟。そして茶室と住み込みの使用人用の住居がある。
 古くから舞踊を継承してきた家柄のせいか土地だけでなく、多種の資産を持つ一族だが、残念なことに現在葉村の一族はたったの四人。
 当主の葉村利神(はむら りかん)。そして従兄弟の葉村眞姫(はむらしんき)。利神の妻麻美(あさみ)と、長男の明神(めいしん)。
 その他の身内は、数年前に出かけた旅先での事故で亡くなっている。
「それでは、今日の稽古はここまで」
 葉村眞姫は本部一階の稽古場で、ぱちんと扇子を畳むと門下生に声をかけた。
「ありがとうございました」
 畳の上で正座をし、深々と頭を下げた彼らに鷹揚に頷いて眞姫は稽古場を後にする。
 長い渡り廊下を進み母屋へ入っていくと、甲高い赤ん坊の声が響いていた。まだ生後六ヵ月の明神の声だった。
「ご機嫌斜めのようだね」
 眞姫はリビングに入っていくと、明神をあやす女性に声を掛けた。と言っても、この女性は麻美ではなく、通いのベビーシッターだ。
 当の麻美は産後一ヵ月で職場復帰したやり手のキャリアウーマンで、ほとんど家には寝に帰るだけの生活が続いている。
「オムツが濡れたらしくて。今換えますね」
 ベビーシッターは子供部屋に改装した隣の部屋に入っていくとベッドに明神を寝かせ、慣れた手つきでオムツを交換した。
「これで暫くは大丈夫だと思いますけど」
 彼女は抱き上げた明神をあやすように揺すり上げながら、ちらりと横目で時計を見た。
「ああ……。もう六時を過ぎるね」
 彼女の契約時間は九時から六時まで。
 時間で区切られた勤務時間が過ぎれば余程のことがない限り、子供の親が不在だろうが帰っていく。
「それじゃあ、お疲れ様でした」
 彼女の腕から明神を受け取りながら、眞姫はこの小さな甥っ子に同情してしまった。
 可哀想な明神。殆ど母親に構ってもらえず、ベビーシッターや家政婦とばかり過して、これで幸せなのかと眞姫は時々いたたまれなくなる。
「……もうすぐパパは帰ってくるはずだよ。今は本部で打ち合わせしてるから」
 眞姫は腕の中の明神に話しかけながら、オモチャ箱を物色する。
「あら、眞姫さん。お戻りだったんですか」
 顔を出したのは住み込みの家政婦の佳代子だった。
「ああ。明神の泣き声が聞こえたから、そのままこっちに来たんだ」
 本当なら母屋を通り抜け、離れにある自室で先に稽古着を着替えるのだが、つい泣き声が気になってしまった。
「これでは誰が親だかわかりませんねぇ」
 佳代子は困ったように肩を竦めると、眞姫の腕の中の明神を覗き込んだ。
 眞姫が生まれる前から、この家の世話をしている佳代子は、自分の息子とも言える眞姫や利神のことが気になって仕方がないらしい。
「利神さんも、いくら奥様を家庭に縛りたくないといっても、これではただ子供を生むためだけに嫁いで来られた気がしますね」
「まぁ、今時の夫婦ってこんなものかもね」
 眞姫はなんでもない振りで笑って見せるが、事実は佳代子の言うとおりだった。
 二人とも家庭に縛られるのを嫌っていたが、利神は後継者を周囲に急かされ、麻美は仕事ばかりで結婚もしないと親に嘆かれ続けた。
 愛情や家庭は必要ないが子供は必要だと、友人だった二人の利害が一致した上での共犯めいた友情婚。
 それを知っているからこそ、眞姫は明神が可哀想でならない。
「それよりお風呂が沸いてますけど、先に入られます?」
「いや……。後にするよ。明神一人にしとくのも可哀想だし」
 もちろん、佳代子にとっても明神は可愛いのだろうけれど、既に還暦近い彼女にあまり負担はかけたくなかった。
「そうですか? じゃあ、もうすぐご飯の用意できますからね」
 キッチンに戻っていく佳代子を見送りながら、眞姫はハァ…と溜息を吐く。
 リビングのソファーに腰を下ろして明神を抱えなおすと、その目の前にぬいぐるみをかざして見せた。
「ほら、犬のぬいぐるみだよ。好きだろ?」
 大きな瞳をきらきらさせて、ぬいぐるみに手を伸ばす明神を微笑ましい気持ちで見やるのは、自分も結婚していたらこんな子供がいたかもしれないと思うせいだ。
 何せ明神の父、利神と眞姫は同い年の二十九歳。
 同じように後援会や葉村流幹部からは結婚を急かされたものの、眞姫自身結婚したいほど愛している女性がいなかった。それに、そのためだけに見合いを繰り返すのも馬鹿らしくて無視したままだ。
 それでも許されているのは、利神に子供ができたことと、その利神が「眞姫は気が弱くて甘いから、どこぞの財産目当ての女に捕まって、有り金全部巻き上げられるのがオチだ」と大笑いしたせいだ。
 産まれた時から共に育ったせいで、兄弟以上に互いを知っている仲だから、周囲の誰もが利神の言葉が正しいのだと頷いた。
 眞姫自身はそこまでお人好しじゃないと思うものの、その誤解のおかげでこうして気ままな生活が送れているのだからありがたい。
「でも、明神見てると子供は欲しい気がするな」
 絹糸よりもずっと細い髪を撫でてやりながら、眞姫はそれだけ自分が老けたのかと苦笑した。
「何、もうぬいぐるみは飽きたのか? 子供は飽きるの早いなぁ」
 握り締めていたぬいぐるみよりも、目の前で揺れる眞姫の髪の方に興味を示した明神が手を伸ばしてくる。
 そんな明神を抱え上げて高い高いしてやると、子供特有の高い笑い声が響いた。
「そうしてると、まるでお前が産んだ子みたいだな」
「あ?」
 開けた襖にもたれるようにした利神が、面白がるような表情をして眞姫を見ていた。
「後ろから見てたら、完璧に母と子だよ」
「髪が長いからか?」
 眞姫の髪は男としては少し長めの肩辺りまでだから、確かに後ろから見ればそう見えるのかもしれない。
「眞姫はそこらの女より細身だからな。しかも女舞もやるから、その気になれば他のどの女よりたおやかな所作をする」
「けど、女にしてはデカイよ」
 確かに利神の言うとおりだが、三十歳を目の前にして、女のようだと言われるのは決まりが悪い。
「デカイと言っても、百八十はないしな。女でもショーモデルなら、それくらいの身長はいるさ」
 利神は笑い含みに言って、眞姫の横に腰を下ろした。
「ま。外見はともかく、殆ど家にいない麻美よりは、余程お前の方が世話をしてるんじゃないか」
 眞姫の腕の中の明神を撫でながら、利神はそう言って他人事のように笑った。
「笑いことじゃないだろ。そりゃ、二人に必要だったのは子供って存在だけかもしれないけど、それでもこの子が生まれた以上、あれこれ構ってやるのは義務だろう」
「俺は出来るだけのことはしてる。むしろ麻美の方が放ったらかしにしてるさ」
「どっちもどっちってことだろ」
 似たもの夫婦だと笑って眞姫は利神にしせんを向ける。この場合の笑いは苦いという字が付く方の笑顔だったりするのだけれど。
「大体、彼女には産むだけでいいって言ったんだろ。お前の妻らしいことも葉村流家元夫人らしいことも、母親らしいことも一切しなくていいって」
 眞姫は疲れたように溜息を漏らすと、腕の中の明神をぎゅっと抱き締めた。
「何でお前が疲れるんだよ。そんなに明神が気に入ったか?」
「それもあるけど。……正直言って、彼女がここまで我が子に無関心だと思わなかった。普通自分が痛い思いして産んだんだから、それなりに気にかけないか?」
「さぁ? けど、世の中には産んですぐ絞め殺して放置するような女もいるからな。ま、麻美のことだから、こんな風に契約ができずに産んだ子なら、施設に放り込んだだろうけど」
「契約って……」
 あっさりとそんな言葉を吐いた利神の冷めた様子に、胸が軋む。
 最初から分かっていたことではあるけれど、想像以上に割り切っていることがあまりに痛々しい。
 明神も利神自身も、あまりに痛々しい。きっと利神はそんなこと考えてもいないだろうけれど、ここまで心の繋がりを排除した関係が、眞姫からすれば納得がいかなかった。
「契約だろ。あいつは社会的に仕事だけの堅物じゃなく、ちゃんと恋もして愛する男の子供も生む、硬軟併せ持つ女として世間にアピールしたかった。その為にはうるさいことを言わない、かつ子供の面倒を他の誰かに押し付けられるだけの財産のある男が好ましかった」
眞姫はうんざりして気分で立ち上がると、明神を抱えたまま利神に背を向けた。
「どこに行くんだ?」
「こんな話、聞いてられない。明神、風呂に入れてくる」
 眞姫は廊下に出ると後ろ手で襖を閉めた。
「だからお前は弱いって言うんだよ。……甘ちゃんが」
 部屋に残った利神がポツリと呟いた言葉は、襖を隔てた眞姫には届かなかった。

                                               (つづく)





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Last updated  February 5, 2007 01:34:48 AM
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