2008/01/07(月)23:18
東アジア大戦。その246。愛別離苦 その41
↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!
東アジア大戦。その246。愛別離苦 その41
大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……
その御伽噺第246話です。
加藤たちは乗組員たちに助けられながら艦内に入った。加藤が潜水艦に乗るのは初めてではない。総理大臣のときにも一度観閲のために乗艦していた。そのときは緊急浮上の訓練を体験している。
加藤らはコントロールルームではなく士官食堂に案内された。乗組員が入り口をガードしている。が、表情はやわらかく、雑談に応じていた。昨夜の荒れた天気のことである。潜望鏡深度で海面すれすれに潜航していたのでそれなりに揺れたそうである。
「船酔いしたやつもいました」
と、陽気に話している。
やがて、艦長と表記されたキャップ帽をかぶった人物ともう一人胸の膨らんだ乗組員、つまり女性が入室してきた。加藤は艦長の顔を見てあっと声を上げた。
「陛下……」
「久しぶりだね」
陛下は笑顔で手を挙げた。日本の若き天皇で誘拐され行方不明になり、天皇家直伝の奇跡の技を道々で披露して人気を得、南京で新中華連邦の天王として即位、結局ウラジオストック講和会議の結果、退位して白水党の党首となり名を聖徳太子にちなんで豊聡耳と変え、統一選挙で大勝利をおさめた。上海を拠点とし、政治の主導権を握っている。
選挙以降は滅多に姿を見せなくなったといわれていたが、まさか潜水艦の艦長をしているとは思わなかった。
「一体どういうことが起きたのです」
加藤は聞かずにおれなかった。天皇が黒幕ならわざわざこんな手の込んだ誘拐などせずとも上海に招待状でも出せばいくらでも出向いただろう。そこで拉致でも誘拐でもすれば簡単だったはずだ。
「東アジアの新秩序のためです」
と、天皇は言った。
「キムジョンナム氏が持参した奇跡の石、飛行石が要になります。今私の研究機関でこの石に関してある程度解析が進み、この潜水艦の動力源に試験的に使っています」
加藤はあごを引いた。24時間前にはキム“教授”を空中に浮かせただけの石が既に潜水艦の動力源になっているのだ。
「軍事関連の技術は常に進歩が速い。それより……」
と、天皇は傍らの女性を見た。
「皆さんに紹介したい」
「似ている……」
キムジョンナムがつぶやいた。
「誰にです?」
と、加藤がきいた。だが、キムジョンナムは首を振った。
「まさか、死んだはずだ」
その言葉に加藤はもう一度その女性の顔を見た。が、見覚えはない。そのとき女性が口を開いた。
「私はソン・ナヨンです」
キムジョンナムはほとんど悲鳴を上げそうな顔をした。そしてつぶやいた。
「横田めぐみ……」
加藤は目をむいた。
続く。
あけましておめでとうございます。
再開いたします。今度こそ終盤にもっていきたい。ついに渦中の実在の人物の名を出しました。もちろんフィクションです。ですが、私は横田めぐみさんの生存を信じています。同時に真相にかなり不安がある。それを小説にしています。不条理なのは世の常です。そこからいかに希望を見出し形に出来るかが大切だとマジで考えています。
今年もよろしくお願いします。