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カテゴリ:小説集~笑いの玉手箱
「これを飲んでごらん」
ビクトール博士は、ホアキンに錠剤を差し出した。 ホアキンがそれを飲むと、彼の体はたちまち小さくなっていった。 「どうだね、小さくなった気分は」 「なんだか不思議です。それにすべてのものが巨大に見えます」 「ははは、そうだろうとも。せっかくだから、私の体の中でも探検したらいかがかな」 ビクトール博士が笑いながら言うと、 「じゃあ、早速探検してみます」 ホアキンはビクトール博士の右目のまつ毛にぶら下がると、濡れた瞳へ向かって飛び込んだ。やがてすき間に入り込み、体内へ消えて行ったのである。 ホアキンは眼球の裏側にやって来た。 「なんだか熱いなあ」 気温は40℃くらいだろう、異常な蒸し暑さだ。どくどくと血液の流れる音がする。 「場所を変えてみよう」 眼の裏側から、崖のようなところを降りていくと、鼻腔までやって来た。 鼻腔は呼吸の関係で、強風が吹いている。 「結構、風がきついなあ」 ごうごうと大きな音が響き渡っている。ホアキンは強風が吹くたびに、鼻腔から生えている毛につかまって、飛ばされないように踏ん張った。すると、 「ハークショーンッ」 轟音とともに突風に襲われ、ホアキンは体外へ飛ばされてしまった。 吹っ飛ばされたホアキンは、テーブルの上に着地した。振り返ると巨大なビクトール博士がこちらを見て、にこにこ笑っている。 「ホアキン君、おかえり」 「いやあ、貴重な経験をしましたよ」 「それにしても君はお利口だ。目から鼻に抜けたからね」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.12.29 06:20:02
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