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カテゴリ:ノンフィクション
“心にナイフをしのばせて” 評価:★★★★☆
1969年、高校一年生の加賀美洋君が、同級生の少年Aにめった刺しにして殺害されたうえ、首を切り落とされた。その後、犯人だとされる少年Aは犯行を偽証し、証言を二転三転させたのち、渋々犯行を認めた。被害者の家族はこの事件を機に、母は精神が崩壊し、妹は反抗に走り、関係が瓦解し始めた。事件後30年以上たっても事件からたちなおれない家族。しかしその一方、少年Aは少年院を出て、大学を二つも卒業し弁護士となり、地元の名士にまでなっていた!!事件後の家族崩壊から、少年Aの足取りまでを綴った衝撃のルポ。少年法とは?少年の更生とはなんなのか?を問う。
よくできた作品。よくここまでの証言や、少年Aの足取が調べられたものだと思う。 これには、少年法とは何かを真剣に考えさせられた。 現在の少年法は、罪を犯しても、それは「前歴」にはなっても「前科」にはならない。犯罪者は少年院を出れば誰に後ろ指さされることもなく、人生のリスタートができるのだ。 これを読む限り、少年法は「更正」の名のもとに、「免罪符」になっているように思う。少年院では、過去のことを忘れて社会復帰ができるように指導される。 私はかねがね思っていた。少年法が制定されたときより時代はものすごい勢いでかわっており、犯罪の質が劇的にかわっている。それなのに抜本的改定がなされていないのはあまりにもおかしいのではないか。 どんな残忍な罪を犯した者でも、少年というだけでプライバシーが異常なほど保護される。少年院を出れば、堂々と街を歩け、好きな仕事にも就ける。対して、被害者は全国に顔を知られ、マスコミに取材攻撃をされる。しかし犯人の顔を知ることもできず、裁判にも参加できない。そして、家族は事件後も街をあるけば指を指される。事件を忘れることは決してできず、生涯にわたって遺族や関係者に深い傷跡を残す。 加害者の人権保護ばかりが厚い。被害者のアフターケアにはなか×2手が回っていないのが実情だ。実際、日本政府の加害者の更正にかける支出は年間466億円。これに対し、被害者のための予算が11億円。 この差はなんだろう。死んだ人間より、これから生きていく人間の方が大事だということだろうか? 私は思う。「社会復帰後少年の人生に差し支えるから」と加害者を異常なまで保護するのは、その理想は素晴らしいのだが、人を傷つけた人間に、はたして社会復帰の権利があるのだろうか?被害者は生きる権利を、不当に奪われているのに、それを奪った人間の権利が手厚く保護されるのか?甚だ疑問だ。 また、本来ならば犯した罪を一生背負って、贖罪のために生きていかなければならないのに、少年というだけで、その義務を免除されるなんておかしい。したことの責任は少年であろうとなかろうと同じ重さであるし、果たすべきものだと思う。 だいたい、少年のうちから人を殺せる人間に、社会復帰なんて不可能だろう。むしろ、そんな人間に社会復帰の権利はない。 罪を犯した人間は一生その罪を背負っていかなければならないのに、少年院ではその罪を「忘れ」て、新しい人生を始める教育がなされ、その環境も法の下で整備されている。 変。めちゃくちゃ変。そんなおそろしい人間を、数年で社会に出すなんて、その他の人間の安全さえ脅かす。個人法益と社会法益が主客転倒している。確かに、前科で人を判断するのはよくないが、そんな残忍なことをした人間が、もしかしたら、自分の近くをうろついてるかもという恐怖もある。 近年、少年法の抜本的見直しが叫ばれる中、人権派とよばれる弁護士達の反対もあってか、なか×2見直しは進まない。 そして、今も少年犯罪により、一生をむちゃくちゃにされた被害者家族は増え続けている。 少年法について改めて考えさせられる本だった。 ただ、一つ残念だったのは、本の後半で被害者の母親が、自分が経営する喫茶店の経営がたちゆかなくなった途端、加害者に(それまで未払いの)賠償金を支払うことを催促するかのような手紙を送っていることだ。(犯人の元少年Aは、これに対し、金を貸してやるから、実印と印鑑証明を用意しろと言っているが。) 私は、被害者の母が、金の無心のために手紙を書いたとは思えない。だから、なぜ手紙を送る気になったのかという心の変化をもうちょっとつぶさに描いて欲しかったと思う。
蛇足ではあるが、この本、なぜか最近までどの本屋でも、ネット書店でも売り切れで入手困難になってた。出版元である文藝春秋にも注文したが品切れと言われた。私は運良く、とあるネット書店から入荷のお知らせメールをもらった直後に注文したため手に入ったが、ここでも3時間もしないうちにまた品切れになってた。 ただ、増刷が決まったようで、今は予約注文ができますので、是非読んでみてください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年12月27日 06時37分54秒
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