その11(10話)101【白昼に】 寝入りばな、チャイムが鳴った。 誰だ、貴重な昼寝のじゃまをするやつは。 茶の間に行き、インターフォンのボタンを押す。 「はい。どちら様でしょうか?」 「新潟県直送のずわい蟹はいかがですか?」 「間に合ってます!」 まったくもう。もうすこしで眠れそうだったのに。 寝室に戻ると女がいた。 「うわっ! びっくりしたあ!」 うぐいす色の着物姿。楚々とした雰囲気。 ベッドのよこにからだを投げ出し、背中をむけ、うつむいている。 目の錯覚だろうか、輪郭がぼやけている。 「だ、誰だ、あんた」 口にそえている手がふるえている。泣いているようだ。 「わたくしは、あなた様がさきほど見るはずだった、 夢の中の女でございます」 「なんだって!」 女の姿はしだいに薄れていく。 「おい、待て! 待ってくれえ!」 女は顔も上げぬまま、消えた。香木のかすかな残り香。 どんな夢だったのだろう。 ------------------------------------ 102 【スピード狂】 「あんのやろう。 負けてたまるかあ!」 「き、機長ぉー! なにやってんですかあ?!」 「見りゃあ、わかんだろ。 横のハイウェーを並走してるスポーツカーと競争してんだよ」 「は、はやく離陸してください! 滑走路のむこうは海ですぅわあああああああああああ」 ------------------------------------ 103 【推定無罪】 「ピッチャー、ふりかぶってえ、投げたあ。 バッターニチロー、フルスイング! おっと、ボテボテのショートゴロ。 ニチロー、全力疾走。 あっ、ニチロー、お尻のポケットからなにやら取り出したあ。 どうやらトンカチのよう。 あああああ! 一塁を駆け抜けざま、そいつで塁審のあたまをかち割ったあ!」 一塁審判ハワードは即死。 州警察での取調べの際、ニチローは計画的犯行であることを自供。 『妻と浮気をしているハワードに制裁を加えた。 殺す気はなかった』とのこと。 プレイ中の犯行のため、野球ルールが適用され、ニチローは無罪放免。 『審判は石ころ扱い』なのだ。 ------------------------------------ 104 【決闘】 リモコンでテレビを点けた。 一瞬、画面が鏡になったかとおもった。が、違った。 画面におれが映っていた。 リモコンをこちらに突き出している。 『5つ数える』 画面のおれが言った。 『数え終わったら、撃て』 はぁ? 『5,4,3,2,1』 画面のおれの親指がうごいたように見えた。 直後、こちら側のおれは消えた。 えっ、消えたのにどうやってこの文章書いてんだ?って。 そうくるとおもったぜ。 いいかい。 この文章を書いているのは画面のおれだ。 どうせ人生なんてテレビドラマみたいなものだろ。 ぽわ~んとしててさ。そこまで言わせんな、こら! ------------------------------------ 105 【ポ】 いろいろな人への配慮を欠いた発言をしてしまおう。 祖母や両親の介護をしてきて、つくづく、死ぬときはポックリ いきたいなあと思う。 人の死に様など人智の及ぶところではないが、 できることなら、誰にも迷惑をかけず、 自分自身も気づかないうちに、ポ ------------------------------------ 106 【じょしを反乱】 朝刊に見て、驚いた。 「てにをは」でめちゃくちゃなのだ。 やがて、テレビがテロップ、本内も文字、ブログに文字などを 変なのに分った。 川端康成に『雪国』が冒頭をこんな感じ。 ──国境が長いトンネルに抜けるも、雪国だった。 夕方、助詞で代表に声明は出した。 『我々助詞をまともに使えない本が世にあふれかえっている。 それらを本屋の棚から駆逐し、アホな作家を追放しろ。 そうすれば、我々は反乱をやめ、元にもどってやる』 ともこと。 出版社をこれの抵抗した。 「てにをは」へ多少おかしくてに、ケータイ小説やブログ小説に 売レセン(ドル箱)なのだ。 直木賞や芥川賞候補でだってなっている。 ほどなくして、小説家や記者たちで助詞で使わなくなったのに 当然を帰結だ。 それらは文章を例で、ここでを記さない。 ブログがちょっと覗けば、分かるでしょう。 ------------------------------------ 107 【あの世~善之助の場合】 善之助が温泉の脱衣場でころりと逝くと── 「逮捕する!」 刑事がいた。 「わっ! な、なんだなんだあ?」 「あんたは殺人鬼だ。 ここにくるまでに、数え切れないほど、 自分自身を殺してきたろう」 ほどなく裁判にかけられ、くだった処罰は、 ‘死刑’ならぬ‘生刑’だった。 ------------------------------------ 108 【あの世~一郎の場合】 代議士小沢一郎がしゃっくりをしたショックで 絶命すると── 「だめだめえ! そんなに持ってきちゃあ」 アパート管理人のあばちゃんがいた。 「それでよく墓場を通過できたわねえ。 手荷物はトランク3個まで!」 ------------------------------------ 109 【来世~意次の場合】 天明8年(1788年)、 69年の生涯を閉じた田沼意次の魂は、3つに分れ、 百数十年後に生まれ変わった。 すなわち、 田中角栄、金丸信、額賀福志郎。 いやはや、本性は変わらなかったようだ。 ------------------------------------ 110 【あの世~健之介の場合】 健之介が親族に見守られながら静かに息を引き取ると── 「ふぅ~。極楽、極楽」 湯船につかっていた。 「はぁ~。生き返るなあ」 湯から出てヒノキのいすにすわると、 「旦那ァ。お背中流しやしょう」 うしろに背中流しのにいさんがいた。 「お。たのむよ」 「へいっ。おや、だいぶ肩が凝ってるようですぜえ」 「そうかい」 「さんざん踊らされやしたね」 |