その17(10話)161【あの世~弓枝の場合】 身寄りのない弓枝が老人ホームでひっそりと他界すると── 「なにボサっとしてんの」「ほら、肩もんで」「お茶ちょーだい」…… 両親や祖父母その他直系家族がいた。 あの世は血縁者による年功序列だった。 子供のいない弓枝は永遠に下っ端でこき使われ続ける。 --------------------------------------------------- 162 【あの世~大作の場合】 池之田大作が信者の中学生と交接中に 心臓麻痺で遂に黄泉の客となると── 極楽浄土にいた。 「おお、ここは極楽じゃあ。信心の甲斐があったぞ」 喜びのあまり叫んだ。 その時、どこからともなく仏様の声が聞こえてきた。 「善人すら往生す。いわんや悪人をや」 --------------------------------------------------- 163 【あの世~三郎さんの場合】 斉藤三郎さんが孫をあやしている最中に 脳卒中でこの世とおさらばすると── 法廷の被告席にいた。 原告席にも自分がいた。 さっきから罪状が読み上げられている。 際限が無さそうだ。 罪名は詐欺。 --------------------------------------------------- 164 【あの世~人々の場合】 ミサイルが落ちて人々が爆死すると── あの世は無かった。 人々は完全に消滅した。 もともと‘自分’というものが無かったから。 --------------------------------------------------- 165 【ニッポン人の定義12】 スポンサーの奴隷。 --------------------------------------------------- 166 【人生とは~吾郎さんの場合】 サラリーマンの吾郎さんが自宅の居間で、 「ああ、人生なんて所詮妥協の連続さ」 と、ぼやいていると── 「おう、オヤジどうしたほらあ。なにげに落ち込んで。 やばくね? でぇーじか? 元気出せや」 妥協の産物に励まされた。 --------------------------------------------------- 167 【来世~五右衛門の場合】 文禄三(一五九四)年八月、石川五右衛門が 京都三条河原にて釜茹での刑に処されると── 「あっちぃ~!」 たけし軍団の一員となって熱湯風呂に入っていた。 「あっちちぃ~、あっちちぃ~……あっ知事ぃ~」 そのとき彼は政治に目覚めた、かどうかは定かではない。 --------------------------------------------------- 168 【来世~自転車の場合】 放置自転車が廃棄されてばらばらになると── 分身して一輪車になり、なかよし姉妹をのせてたわむれていた。 --------------------------------------------------- 169 【ダジャレの日】 トイレに入ろうとすると、 『とってもいいわあ~ん』 ドアの取っ手がしゃべった。 あ、そうか、今日はダジャレの日だったっけ。 昨夜のテレビで、 「あすは関東地方にダジャレ注意報が出るでしょう」 って言ってたな。 『便器ですかあー!』 ブハ! この便器、猪木のマネかよ。 『コックろうさあ~ん』 コックまでしゃべったぞ。 『テーブルらんぷ(テールランプ)』 『パンだふる!』 『トースターんだあ?』 『バターふらい』 うるさいなあ。 気が散って食事どころじゃないな。 いっぷくするか。 うっ! 痛てえ…… た、たばこの、ピ、ピース缶を、取ったら…… た、弾が出た…… ま、まさか、ピースを取る、で、ピストルか。 こ、こんなんで、死ぬのか…… しゃれんなんねえ…… --------------------------------------------------- 170 【ニッポン人の定義13】 災害ニュースと芸能ニュースを同等に扱う人種。 |