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テーマ:小説日記(233)
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2月8日
おとといの6日、いつもの時間にナバノフの研究室をノックしても返事がありませんでした。 扉は開いていました。 わたしは、開けた扉を見て震えがきました。 部屋はめちゃくちゃに荒らされていました。 あちこちに差し押さえの紙が貼り付けてありました。 世間知らずなわたしにもどういうことかすぐにわかりました。 ナバノフは思想犯として、特高につかまってしまったのです。表向きは語学指導をしていた彼ですが、社会学という目をつけられやすい学問を専攻し、外国からの招聘教官であることがこういうことになるのは、ちょっと考えれば当たり前のことでした。 きっとナバノフも予想していたのだと思います。 争った形跡はありませんでした。 その瞬間わたしは足元がぞくぞくしました。 もし、わたしがナバノフとあっていたことが明らかになればきっとわたしも捕まってしまう・・・ どんないいわけも通用しない・・・ わたしは恐ろしくなって、すぐに家に帰りました。 でも、何日かしても特高は家に来ませんでした。 わたしは、安堵して、そしてはじめて自分の身勝手さに泣きました。 きっとナバノフはもっと恐ろしい目にあっているに違いないのに、わたしは自分の保身ばかり考えていたなんて。 そして、特高が家にやってこないのは、ナバノフが完璧にわたしとの関わりを隠していてくれるからに違いありません。 ナバノフは、こんなときなのに、わたしを守ってくれることを忘れなかったのです。 何もできない、自分にわたしは泣くことしかできませんでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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