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テーマ:小説日記(233)
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ユジノサハリンスク。
この街の存在は知っていた。 小樽とこの街は古くから貿易で繋がっていた。 そしてナバノフとりつ子は愛情で繋がっていた。 私は50年以上前、りつ子が身につけていた琥珀のペンダントを胸にこの地に立った。 函館から出たアエロフロート機は途中、間宮海峡で揺れたが無事についた。 私はロシア語が話せないので、いんちきな英語を使って空港から役場へとタクシーを飛ばした。 もっと廃れた街なのかと思っていた。 街はごく普通の欧米の中核都市といった感じだった。 人々のいでたちは日本と変わらない。ブルネットの髪の者もいれば、ナバノフのように漆黒の髪色にアメジスト色の瞳の者も居た。 役場でナバノフについて調べようとすると意外なことにすぐにわかった。もっと困難を極めると思っていた。もしくは不明のままかもしれないと思っていたのだ。 彼は帰国後、モスクワ大学へ教授としての招聘が決まっていたらしいが、それを断ってこの地に居続けた。 そして、戦争で身寄りのなくなった子供や老人や手の施しようのない病気の者の最後の場所として、福祉施設の開設者となっていた。 平和を求め続けた社会学者の彼らしい、人生だと勝手に思った。 その関連書類のりつ子とおぼしき名前は見つけられなかった。 私には読めないその施設の名前を、英語のわかる職員に翻訳してもらったとき、私はこの謎と向き合って初めて泣いた。 「ひかりのいえ」これが施設の名前だった。 私はナバノフのりつ子への愛情をいやでも感じずにはいられなかった。 私は、ひかりのいえにタクシーを走らせた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004.02.14 02:36:48
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