髪を縫うミシン
浅草の雷門に程近いところ、浅草公会堂近くに老舗のカツラ製造メーカーがあります。ワケあって7年ほど前にお付き合いすることになり、古くなったミシンを新しくするということで納品しました。今回このブログに紹介したくて取材してきました。カツラとミシンが結びつかない人が多いと思いますが、私もカツラ製作の作業を初めて見たときは驚きました。いったい誰がこんな製造方法を考えたものか?と‥人毛や化繊のバラバラな毛の真ん中を二本針ミシンで縫うのですが、上糸と下糸で編んでいくような、ちょうどスダレにする感じでしょうか?横に引っ張れば抜けてしまうのですが熟練の職業婦人の絶妙な手さばきで均等な密度で薄くミシンに送り込んでその毛のスダレができていきます。ロックミシンみたいな2重環縫いというミシンだとカラカンといって縫製物がないところでも糸だけが絡んでいくのですが、使っているミシンは本縫いの2本針だということがすごいのです。本縫いミシンは縫製物が無いと糸だけを絡めていくのは非常に難しい事なのです。髪の毛なんて有るのか無いのかスカスカの状態なのに、これが縫えるものという認識が私にはありませんでした。ちょっと失敗すればミシンの釜に毛を引き込んでしまってカラッマってしまったり、縫い糸が切れたりしてミシン屋から見ればあまりに無謀な作業なのです。そこで一定したテンションで先の方へ縫った糸を引っ張るためにミシンに連動した大きなゴムローラーがテーブルの先に付いています。昔、初めて設備した時の苦労の跡がわかります。さて、スダレにした毛をこんどは半分に折り、これまた絶妙にオフセットした2連のミシンで連続巻き縫いをします。すると出来上がったものは毛のノレンのようになっています。4本の縫い糸で毛を絡めてあるのでかなりしっかりしていて引っ張っても抜けません。こうして出来た毛のノレンをポストミシンで頭の形のカツラの土台へビッシリ縫い付けていくとカツラになるのです。この頭の形のような立体縫製物に威力を発揮するのが現在靴用として多く使われるポストミシンなのです。ただ、生え際などは一本づつ手作業で刺して自然な感じを出さなければならずミシン以外のところに多くの手間が費やされているようです。おそらく昔はすべて手作業でおこなっていたカツラ作りを何とか機械化して、効率よく生産するために当時の作業者とミシン屋さんが試行錯誤で現在の技法になったのではないかと思うのです。何とかしようという先人の知恵と情熱にただただ感服するのでした。