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2005年10月20日
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カテゴリ:主に法律関連
 先週の土曜ですが,近傍の某大学で,やはり某有名教授(元検察官。テレビや新聞における露出度が高い)監修による模擬裁判が行われました。

 事前に裁判員として希望していたところ,見事に(?)選任されたので,先方から1週間ほど前に送られてきた資料を2度ほど読み,メモを作成して準備万端で臨みました。

<模擬裁判の流れ>
 問題点を述べる前に,実際の模擬裁判の簡単な流れをご紹介しておきましょう。
 まず事件について。
 事件は青年(X。ちなみにこの青年は酒好きなものの酒に弱く,酔うと意識を失い,暴力的になることもあります)が,婚約者である女性(A)が彼女の勤め先である上司(Y)と不倫しているのではないか,という疑念を持ったところから始まりました。
 勿論,何の根拠もなく疑念をもったのではなく,AとYが二人で歩いているところをXが目撃していたり,酔っ払ったAを家の前までYが送ってきたりという状況があり,そしてそれをXがYに問い詰めてもきちんとした回答が得られなかった等,Xが疑念を持っても致し方ないような状況がありました。
 XはYにだんだんと良い感情を抱かなくなり,行きつけの飲み屋のマスターに殺意をほのめかしたり,具体的な殺害方法を説明してみせたりしていました。
 ある日,XはAの携帯電話からYの番号を調べ,Yに話し合いをもちかけ,Xの行きつけの飲み屋を場所に指定。電話後,Xは刃渡り20センチのナイフを購入しました(話し合い当日,Xはこのナイフを所携)。
 Yとの話し合いの当日。XはYと話しつつ,結構な量の酒をかなり速いスピードで飲んでいました。
 結局話し合いは決裂。Yは店を出,Xもその後を追って店を出ました。
 マスターが心配でXの後を追ってみると,Xは既にYの腹にナイフを突き刺し,さらにYの頸部をナイフで切りつけていたところでした。
 マスターはXを取り押さえ,警察に通報し,Xは逮捕。

 以上が事件の概要です。
 実際の公判では,検察は原因において自由な行為(ちょっと難しいですし,内容はあまりこれからやろうとする問題点の指摘には関連がないので,説明は省略します)による殺人罪を主張。
 これに対し弁護側は無罪を主張しました。
 公判では,両当事者による興味深い攻防が行われました。裁判員も,さすが志願者で構成されているだけあって,積極的に当事者に質問する等能動的に模擬裁判に参加していました。
 ただその再現をここではしません。
 というのも,記事で書きたい「裁判員制度の問題点」とあまり関連が深くないですし,これを再現すると長くなるからです。

 証拠調べ後,裁判官3名と裁判員6名(男性5名,女性1名)で評議をしましたが,そこでの争点は4つ。
 1つ目は,Xに責任能力があったか否か。2つ目は,Xには殺意があったか否か。3つ目は,殺意はないとして,暴行又は傷害の故意があったか否か。4つ目はXに対して科せられるべき刑罰如何。
 証拠調べが予想以上に長くかかったので,評議はかなり簡潔にしかできませんでしたが,1つ目については責任能力なし。2つ目については殺意は認められない。3つ目については暴行又は傷害の故意はあった。4つ目については,懲役8年,とそれぞれ結論が出ました。
 そしてこれに基いて判決が下されました。

<裁判員制度の問題点>
 模擬とはいえ,裁判員というものを体験することが出来,大変良い経験が出来ました。
 そして,実際に体験することにより,制度が孕む問題点についても,以前よりよくかつ的確に認識できるようになったと思います。 
 
 そこで早速裁判員制度が孕む問題点について模擬裁判と関連する限りにおいて書いていきたいと思います。

1:法律用語は法律に携わっていない方々には難しすぎる
   朝日新聞の地方版に,今回の模擬裁判が取り上げられ,インタヴューを受けた裁判員の方が「法律用語が難しかった」と話しておられます。
   平成21年以降,刑事の重大事件について裁判に裁判員が参加することにはなりましたが,これにより今までの刑法,刑訴の理論や用語が改められるということは考えられていません。
   勿論,今までよりも分りやすく,という点については最大限の配慮がされるようですが,しかし,その程度の対処で,法律に携わっておられない方々にどれだけ理解してもらえるか,というのはかなり疑問です。
   現在考えられている制度では,証拠の証拠能力(証拠として法廷で使うことができる資格。これがなければその物は証拠とすることはできない)等の問題は事前の争点整理で裁判所が適切に判断してくれることになっていますし,具体的な事案における判断で,法律問題が浮上してきた場合は裁判官が適切に判断することになっています(裁判員はこれらの問題には関与できません)。
   しかし,仮に裁判官が適切に判断してくれたとしても,それらの事項について全く理解しないまま事実認定をしなければならないというのは,裁判員としても消化不良でしょうし,スッキリと事実認定をすることは出来ないのではないかと思います。
   これに対する対応策としては,法律の教育を行うこと,裁判員として選任された方々に対し,当該事件に関連する法律問題だけでも理解してもらえるよう,事前にレクチャーすること等が考えられますが,前者は今からしても遅いでしょうし,後者は裁判員が社会人を想定している以上,日程の調整が困難でないはずがなく,実際上難しいと思われます。
   かといって法律用語や法理論を分りやすいようにがらりと変えるというのでは,本末転倒であって妥当ではないですし,そんなことをしても実務はついてこないでしょう。    
   一体,どうするんでしょうか。 

2:国民からの刑罰権の付託に応える準備はあるのか
   今回の模擬裁判では,簡単な流れの部分において紹介しましたように,裁判員がなかなか積極的・能動的に参加していました。
   しかし,これはあくまで今回の裁判員が希望者から構成されていたからにすぎず,裁判員による裁判のすべてで裁判員が積極的・能動的に参加することは期待できません。
   ましてや,裁判が長期にわたればウンザリするのが人情で,そうなると「早く終わらせてしまいたい」という気持ちが「裁判員をしっかりやろう」という気持ちに勝ってしまうこともありえないとはいえません。
   その場合に,「いや,それでも我々は国民から刑罰権を付託されているのだから,しっかりやらねば」という高い意識をもった裁判員がどれくらいいるか。
   そのような意識の高い立派な方もおられるでしょうが,残念ながらそうでない方も必ずいらっしゃいます。仮にそのようないい加減な人が裁判員の多数を占め,結果裁判がいい加減ににやられてしまったとしたらどうでしょう。罪ある者を逸し,罪なき者を罰してしまうかもしれません。死刑にされるべき被告人が,短い懲役で出てきてしまうかもしれません。逆に,情状の余地ある被告人が重い刑罰を科せられることにもなってしまうかもしれない。
   そんなことになったら困るのは我々国民です。そんなむちゃくちゃな法廷に場合によっては立たされるかも知れません。それでいいという方,どれくらいおられるでしょうか。
   またそんなむちゃくちゃな司法など信頼できません。司法の信頼は地に落ち,刑事裁判はなめられるようになってしまうかもしれません。刑罰の威嚇効果など全く画餅に帰してしまうかもしれません。
   一体どうするつもりでしょうか。

3:裁判が長期にわたる場合はどうするのか
   今回の模擬裁判では,半日以下の時間で裁判が終了しました。
   しかし,実際の裁判ではそんなに短い期間で終了するはずがありません。仮にオウム裁判のような大型裁判にかかわることになったらどうでしょうか。数年単位,下手すると10年単位で裁判員をしなくてはならなくなります。
   まぁ,それは言いすぎだとしても,仮に1ヶ月かかる事件に裁判員としてかかわった場合,その裁判員の扱いはどうなるのか。
   一ヶ所に缶詰にするのか家に返すのか。一ヶ所に缶詰にするとした場合,その宿泊施設はどうするのか,食事はどうするのか。
   まして,それが数年単位の事件であった場合どうするのか。
   何も考えられていません。
   一体どうするつもりでしょうか。

 まだまだいろいろと問題点があります。今回の模擬裁判に関連する問題点だけでも3つも,しかも内容において重要な問題点が含まれています。
 裁判員制度。果たして,上手く運用できるんでしょうか。





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最終更新日  2005年10月20日 18時22分37秒
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