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灯台

舞台 5

      *






  患者が死ぬとわかっていて

  治療するのはどうしてだとおもう?


   × × ×


 「大変長らくお待たせ致しました ! 機長のニシザワです、当機はこれより三時間遅れ

の運行を開始いたします。お急ぎのところ、まことに申し訳ございませんでした。皆さまに

は本社と連絡等相談をした結果、当機の運賃を、払い戻しにするという決定がでました。ど

うぞこれからも、どうかこれからも、スペースアラウンド社、宇宙一安全な宇宙旅行会社、

ご贔屓くださいませ」


   × × ×


 待合室の超大型テレビ画面にうつしだされた機長は、

 どこからどうみても間違った決定をくだしていた。

 こんな奴等ひとりとして生き残る価値はない。

 先程まで不平不満を口ぐちに言い募っていた。 


   × × ×


 排水孔。印刷機。紙幣が浮く、虹。栞を挟み、コンドームを装着し、

 黒曜石の鏡だ。ゴミ箱に煙草のソフトを捻りつぶして棄て、

 前々から気に入らなかった窓を蹴破る、

 アーガイルチェックの靴下で !

 そしてそこからディズニー・ワールドの、

 キャラクター達が這入ってくる。すると、白雪姫も、

 人魚のアリエルも、

 ランプの精のジーニーも、

 醜い野獣の姿の王子もすべて現実になった。

 空っぽのビール壜、死魚の鱗、思考の断片。

 口腔のあかさ、攻撃慾、ガランドウの甲冑。廃坑、午後の卵、
               うつ
 餌の欠乏、帰巣本能。投影る倉庫、

 ドラム罐、衝動、闇の生存者・・・・・・


   × × ×


 それにしてもどうして画家の先生みたいに、あのひとは、

 ――せんせえ、「あのひと」なんて呼んでごめんなさい

 でも、こどものお絵かき帳には

 鉄格子と柵がお似合いみたいな「こと」よ

 ・・・ひと目見た時に、せんせえに、

 似てる、と言ったわ。

 あのデスクの三段目に隠した三頁目のひと

 恋人かと思ったけれど――


   × × ×


 ああ、姉はどうしてあんな死にざまをみせたのだろう。

 姉のことを思うと、ときどきスカートやルーズソックスの女の子を、

 思い出してしまって歯がゆい。

 リアサスペンションがほしかった、

 蟹のように泡をぶくぶくとさせて、

 窓を開けると闇を楕円にくりぬいた月の、
 
 あわき光のはごろも、(想い出せそうなんです、)

 死後硬直とはしりながら、カッと眼をみひらいて、

 海のにおい、なつかしい町のやさしい感じ、

 夏のあかるさ、――あかるく、それもあっけなく、・・

 死神のcard! 

 何故わたしに呪いを?

 ハウスガーデンを夢見ている女の子であった姉

 きっといまごろは眠れないとこぼし、

 充血まぬこ、パンダ隈、吸血鬼のあおじろい顔

 ファーストフードの専門家、コンビニの王様、

 店員には、よきにはからえという軽口。

 みんな、姉のことを愛した――

 そして、いま、知りたい、

 わたしと同じ立場であった姉に、

 四次元ポケットをのぞむような気持ち

 姉は病気の進行と、その経過について、

 おそろしく冷静にかたった ! 

 学年始まって以来の秀才にして知的美女、

 (そんな、)姉が医者を志し、両親は鼻が高かった。

 インフォームド・コンセントは彼女の決めゼリフ、

 尊厳死は彼女の一生のテーマ。

 まるで来たるべきその日にそなえていたように・・・。

 
   × × ×


 そんな風に正直に言いなさい

 「君の胸がみたい」と。
       てい
 ぶつくさの態。

 ヘイヘイヘーイ、そこのカレシイ、

 ちょっとカレッジまであたしとトーデ(注、デート)

 しない・・・?

 「(君って奴はわからない奴だ・・・)」

 せんせえ、電卓で計算するのが

 お好き? 割り切れないものはきらい?


   × × ×

               ベンチ
 鳩の糞が落ちていそうな共同椅子に寝転がりながら、

 ずぶ濡れの彼は、腕時計のベルトを外し、

 ポケット・ウィスキーを口に含む。

 そしてYシャツのボタンを一つ一つ外していき、

 チャイムの鳴り方の異常な雨のリズムを思い出している、

 それは原始的な。それは秩序の。それは文明。


   疑え、疑え、疑え

      ((( 疑う心よ )))

    ――それは慢心からは来ない、

    迷いが生じ、因縁を植え付けない

           色あってこその人生のうすまりをうむ

          あらゆるものをおさめたとき、

       そのうすまりをうむ

 ふる
 篩い。焼却または埋立処理。粉砕機。

 スクラップ・アームをそなえた浄化装置。

 沈殿槽。浮遊分離。消化。散水濾床法。エアレーション。

 活性汚泥法。酸化池法。汚泥。空気乾燥。肥料。

 溶解している固体は、浸透や電気泳動。

 塩素処理やオゾン処理。再利用。処理水の放流。


   夜は更けてゆく

   夜は更け(「物はかえってよく見えるようになる

   世界は初めてのように噛みしめられる」)

     まだ来ない未来を導く手をもて、ふみしめてゆけ、

         知恵は汚れがない


 「やがて僕等は芸術なんていうものが、雨の姿から、

 たとえば数十秒後の雨上がりや、黄昏の滲んだ空の色合いや、

 降っては止みを繰返すことを知らなくなる。

 そう、雨の表情を!」


   ねがいのなかにやわらかくねそべれ

   すべては過ちを説くためにあるのではない、向うためにある

     縛られるな、むやみに心を寄せるな、

     何事にも光をもとめたいなら、

       まずじっくりと、この世を去る準備からはじめよ

  言うところは言ったまま残るだろう、

   すべてが認めたまま、うつるまま

    ホワイトノイズ
 それは無色雑音

 我等が友、エルフは一体、

 これをどんな風に見つめているんだろう?

 鋼鉄へとその姿を硬化させる門、カーテンの閉ざされた窓、

 人通りの絶えた大通り、

 スクランブル交差点のあるゴースト・タウン。

 電線に止まる雀もいない、

 すべてがfakeだ、それはdollだ。


   × × ×


 ねえ、姉さん、

 病院で飼われているわけでもない野良猫が、

 毛並みはよかったから

 「飼い猫よ、きっと」

 (姉さんの、)ボディーガードのように居ついたね。

 都会の空気を吸い過ぎたんだね、きっと
 
 あんなに嬉しそうな姉さん、

 どれくらいぶりだろう

 姉さんのデスクの必需品だった、

 クリップをひっくり返して、プリック、

 ・・・正確に言うと、ひっくり返して、

 行きつ戻りつなのに、――

 まあ、なんでもよかったよ


   姉さんの人徳の放射線
 
   電磁波の混乱? 吾輩は猫であるぞよ

   猫はすっかり姉さんのしもべ(で、)


 姉さんの心を和ましてくれた。

 夢に挫折しそうな人生のうるおいを、

 与えてくれた

 優しくしてくれた

 (それが、)嬉しかった


 プリックを膝にのせながら饒舌な姉さん

 日本ではけして認可されない薬のこと、
 
 まことしやかにささやかれる試薬とニンゲン実験の噂、

 ・・・いまはね、姉さん、宇宙なんだ

 もう科学力が違うんだ、(でも、)

 いまでも思い出すんだ


     まだまだ混沌たる状態にとどまっている偶像
   
     貴重な文書を閉じ込めた石窟寺院のように

     UFOを想起するのは  いたずらか

     新しい傾向か  くっきり  姿をとどめずに


   (不幸にも、)志し半ばにして逝こうとする医者が、
 
   大学病院の裏側アンダーグラウンド、実習生たちのミス、

   看護婦たちの猥談から、患者たちの性欲処理方法まで

   語る姉さん。姉さんはいつもうれしそうに語った。

 
  ―――今日も生きている、目覚まし時計で目を醒ます、

  フローリングの床にすりっぱが歩く、寝ぼけ声がきこえる、

  身体中の温度で  湿度で  眼がしらが熱くなる、

  その愛しさで  そのやさしさで

  時計の針の動きが鈍くなる、―――


   × × ×


 ―――ある者が言った、天上の世界に煩わされるな、悩ますな、

 足りないパーツを電卓が処理する、宇宙の破片さえも、  

 基礎づけることさえも、―――


 美しい模様  太陽の軌道  

 夕方と朝と真昼との関係をつづけながら

 神を否定する

 神は宇宙全体を反映している


   × × ×


 姉さん、

 プリックは姉さんより数日前に死んでたよ。

 失踪した、さてはプリックのやつ、

 女をつくりやがったな、とおどけたけど、

 笑ってごまかしたけど

 (病院の裏庭に、)鈴が転がってたと言ったけど

 それも嘘。

 亡骸から取ったんだ

 姉さんがお守りにと生涯大事にしてきた鈴

 手元にかえってきたとき、

 たしかに子供や、何者かによる悪意、

 さまざまなケース・バイ・ケースを

 想像するべきかもしれないが

 死神の鎌。 プリックは死神だ

 姉はひっそりと

 死を悟ったのかもしれない。


   × × ×



 奥の座敷にとおしてよ、そう
     いおり
 どこかの庵 
             まねえ       わな  わな
 江戸時代みたいなMONEYで WANNA陥穽ふるえながら

 「見せてよ」

 その。心の澱。その心の固いしこり

 せんせえ、好きじゃないわ

 電波時計みたいなしかめっ面

 どうせ、わたし死ぬのよ・・・

 ちょっとくらい、官能小説の世界にふれてみたいわあ、

 すっ裸になったあたしに、せんせえは、

 なんておげれつなデザイン、といいなさい

 白磁器なボディーカラー! ひゅー、草笛ならしまくるぜ

 インディアンの舞いを披露するぜ


   × × ×


 そしてこの世の遺書はどこにも見つかりもせぬまま

 まばゆく壊れ  みちびかれ

 僕の胸にコーヒー・ショップを残す

 ひとつなくした  綻びは  さいごの信号

 この配線は  もうつなげられることがない

 世界はほんとうに白かった


   × × ×


 ヴェランダに見えた花。種蒔きは九月だったのに、

 スカビオーサ―――
        いつ
 枯れるのは例も七月。


 陽射しに映える華やかな―――

 むらさきの色、

 スカビオーサ。グロテスクなくちびる。

 まるで無人島の海岸で咲くような、

 エキゾチックな横顔。


 「スカビオーサ、いたずらな風も、

 永遠に変わることのない空も、

 小鳥も、すべてが幻のように消えるヴィジョンに、

 どんな足音も聞こえない、スカビオーサ!」 


   × × ×


 「ねえ、そこの彼女、・・・揉みしだくって限定なの?」

 ボタンを散らせてね

 おい、あ、こいつ話無視しやがった

 ――興奮してね、息を荒くしてね、それで(すごく、すごく、)

 いやらしい顔をしてね、

 あ、こんな人じゃないのにって思うくらい、ヘンな顔をしてね、

 「ねえ、そこの彼女、もしもし、――もしもし」

 おまえのいない人生は淋しすぎるから!って・・

 (ちゃんと、)言ってね――


   × × ×


 ヴェランダもいつしか濡れて、温度計は壊れた、

 スカビオーサ―――

 玩具みたいな夏。


 まるで船で乗りつけた侵略者だね、

 ああ、でも、

 この僕を、

 憂鬱にさせないで―――

 もつれたような、

 スカビオーサ。


 「スカビオーサ、ゆれゆれる波も、
 ドア
 扉とめくるめくだけの脳も、樹々も、

 ささやかな滑り台のてっぺんに戻って、

 滑り降りていくだけなんだろう、スカビオーサ?」 


 逢いたい。ひと目逢いたい。

 始発のベル。

 夢の中でいい。

 交叉点。歩道橋。

 プラットフォームでもいい。

 中吊り広告でもいい。

 幻想でもいい。

 逢いたい。


   × × ×


 ぎゅっと手をのばして聴診器の指にふれ

 萎えきった緊張感――

 ことが。もうできない、別れの

 ・・・搏動はきこえない。

 背筋がすうっと冷たくなる、せんせえ
          リストラ
 通り魔・不採算部門整理・
  ホームレス
 寝泊り浮浪者

 離層社会の実現。高級的平和の実現

 さまよう言葉たち

 「もう声が聞こえないのか!」

 なにかに憑かれたように、

 先生は酸素マスクをはずそうとする、

 看護師にむかって、・・・咽喉の奥から、

 待てッ、 

 ――いつも励ましてもらいました。

 せんせえ、もういい、

 もういいから・・・


   × × ×


 深呼吸をしながら、

 いつもポケットの中のコインを、

 数えているような気持ちになる。
     りんご
 檸檬や、苹果や、パイナップルや、

 葡萄や、パパイアといった果物が、

 魔法にかけられてコインになっているかのように。

 それは睡魔のangelだ。

 それはきっと夢魔のcall me。


 「それはいつもポケットに穴が開いているような錯覚で、

 じゃらじゃら、と床に落ちていく。綻んでいたのだ ! 

 だが、僕はその穴を縫い合わせようとは思わない」


 また、そのコイン達のすこしばかりを?もうとも実の所、

 考えてはいない。それはただ指から滑り抜けて、

 まだ見ぬ急な勾配の坂道で、レースをすればいいのだ。

 そうして僕は大きな世界に呑み込まれていく。

       れんけつ
 廣大無邊への聯結。
 ユニテ
 一致する人相・体格・

 ファッション・経歴・特技・欠点・口癖。

 それは放送され、commercialismに。

 また、knockdownされ。
 あんこく
 闇刻。

 洋服屋で裁断される。

 彷徨 ~Day after tomorrow~

 ゆっくりとしみだしてくる、

 ティー・パックのような渋み・・・・・・


   × × ×


 橋があらわれ、

 あなたのほんとうの瞳を与えてくれる、

 
       すべてに悟るという道を、

         すべてに尊いという道を、


 すべては消滅の道へと続く。

 牛の群れ、羊の群れ、山羊の群れ


           草を毟ること、

         農夫のために植物の芽がふく(未知、)が


   × × ×


 強心剤をはやく、おい、SHOCKはないのか、

 SHOCK は !

    敬うことはもはや敵視することでもあり、

    害をくわえることでもある。

  なににとってかがわかるものなら、

  それは大海をよごすものではない

       より広くのもの、より大きなもののなかで、

           それはただしいおこない、となる

 お前等、頭どっかおかしいんじゃないか

 いまの医学なら、――ほんとうに進んだ医学なら・・

 つながらない言葉

 ――姉。

 ほんの少しの鎖。

 ――せんせえのくるしみがてにとるようにわかるから

    わたしは衣・皮・横糸・縦糸。

   「わたしは、人びとから崇められていた。」

      しかしもうわたしは、それを望むことがなかった。

     わたしはただ、罪をぬぐい去りたい一心で祈った“神よ”――

 なんて使えない奴等だ ! 

 最後の最後には・・・

 それであと何日? それであと何か月?

 せんせえ、ゲームを醜いものにしてはいけない、

 いのちはずっとそのようにしてあった、これから

 両親・親戚・知り合いたちが宴会をする

 ――貴様、そこをどけ、俺の患者だぞ、

 どけ、もうはやく出て行け!  もう、顔も見たくない

      掻き鳴らされる はじけとぶいしき

        わたしは「ひとつのかなしいうたをしっている。」

 ――とたんに、瞳孔と水晶体をとおしている、

 網膜のうえのごく細い血管を見やる

 この世界でたったひと文字で存在している

 類い稀なのろいのことば。

 ―――死。


   × × ×


 尊敬している先輩も看護婦も、

 みんな、口々にいう

 つぐんでいたマイクにも、

 咳や喘えぎ声がきこえることがあるが、

 いま、そこからきこえるのは

 夜空の無音。

 (よぞらのむおん。)


   × × ×


                 何故、断たれたのだ・・・

            /それを望んでいたのは誰か?


   × × ×


 その日の夜、マニピュレーターの駅(で、)

 いつもと違う視点で

 (というのは、皆廃人ばかりで、あるため、

 また、観光地らしいところもない星で、あるため。)

 眺めているひとりの男がおり、

 いつまでも、線路が浮かび上がらないこと、

 またそこから懐かしい機関車たちが

 飛び出そうとしないことを、

 苛立たしく凝視めている、

 ひとりの男がいた。


   × × ×


 口の悪い看護婦がつぶやいた。
 
 あそこは水先案内人。


   × × ×


 それはゆきのようにつもった

 彼にできたのは面会謝絶。

 死、なぐさめの医療。
 
 死、まえもって、患者家族の待機。

 ここでSTOP! それは底しれない孔

 知っていたはずです、せんせえ


   愛されよ、愛されよ、さいわいにし(て、)

  もっとも無心に鎮まるもの、長く長くあるものよ


 (だから、)せんせえ、

 冷静にみなくちゃいけない。

 看護師さんが泣いてしまう、

 いつか、言ってたじゃない、

 運命共同体だって、ボクサーとセカンドの関係だって、

 ねえ、せんせえ、それが医者の務めというもの。


   すべては凹凸のうちに乳となる。

  すべての病めるものをつつむ沈黙となる。・・


   × × ×


                正しい道へ、力へ、愛のわざへ

       進むがよい、進むがよい――「よい、罰のなかへ、

  まるで嘘のようにやさしいやわらかい言葉のなかへ」


   × × ×



 ――ひとつのこだま

 こだまはいう、あなたはさびしいひと


   [すでに]引き裂かれた蛆の中に見た。

  もはや屠られたもののように


 あなたは過去にとらわれたひと

 でも(そんな、)せんせえが「好きだった。」


   わたしはかさぶたにおおわれたものを、羊の群

    れのなかで見た。


 ・・・どうして彼を愛したのか?

 (少しだけ、)いまならわかる気がする


   さびしさにおののきながら、

  何の光もささぬこと(ある、)真っ暗闇の野原で


 このがらんとした部屋を

 ものの見事に潔癖症めかせている、


   (ものは、)よろこび

     不和の生じない、ことばのしま


 地上で見た光の中みたいに、――

 神の非業さにひざまずくサボテン


   せんせえ、ちがう、各種機器類の

  つめたい機械音(は、)知らない


 虫はいつだって感覚遮断(する。)

 苦痛でしかない苦痛(は)――


   (「道」)せんせえはそれを、一生心を尽くして

    味わうの。すべてがみな善なるものであるため


 美人薄命

 ――ちりんちりんちりン。


    どれほど鳴れば気が済むんだ、

   またあの音(「ちがう!」)


 それは  あわれみ (「そして、
 
 せんせえの中にある、やさしさ


   もう取り乱さないでほしい、苦しまないで

   (ほしい、)せんせえ、は


 つかんだ(の、)

 つかむという道が、遺産です


   教育こそが、守護する、

  あなたはあなたの道へ(と、)


 成長してゆかなくちゃいけないの

 でも、わかい苦悩の医者の脳裏(に、)


   見えるはずだ、(わかっていたはずだ、)

    正しいものは太陽のようにかがやく。・・

 
   × × ×


        あのころの、“あなた”のなかへ・・・


   × × ×


 こだわりのないもの、かたくななものだけが分かれていき、

 その精神の純化はいま法律を始める。

 天秤に掛けられたものは磁石の対極。


 求めながら、離れ合うことを想っていた。

 相違うものだ、嘘をつけないものだ。

 信じていることは裏切られる。


 「躊躇い描く無情の場面。

 カルマ摘み取るほどのイデオロギーはない。No thank you、

 幻滅の秒読みを創めるイデア。No thank you、

 紅顔に染む水面下のトルク。地図を破り捨てたあとで気付く、
                 みちのり
 どうにもならないほど遥かな道程。

 家路へと続く道は消えた後でも、僕は目的地へと―――」


 音のない夜に紛れていく時の不安は、

 色のない生活そのものだ。

 街燈はそして歌わない。

 歌う言葉を持てない。


 立っていることでさえ色褪せてゆく血液のにじりが、

 混じり気のない嘘をつかせないなら、

 人を癒やす喜びは何処から生まれるの。

     なないろ
 「そして七彩の流れ星が見えるよ。

 黛≪まゆずみ≫のように薄く淡くやさしくね。

 孤独は、I believe meの律と色と香、
                  そら
 また目的地へと―――どんな宇宙を漂うにしても、

 メロウさ、洒落たポーズで舞踏るのさ、take me。
                カオス
 人生は氷みたいに冷たい混沌のなかを melancholy。

 そしてその汽車に乗るんだよ、Are you ready? 

 そう、永い戦争は終る、不朽の詩も、
 いま
 現在の僕にはもういらない。

 Why、そして僕は問い掛ける。

 楽園へと続くパスポートを求めながら、

 愛とは何かと静かに語り掛ける、誠実さを拳に握り締めて。

 Why、そして僕は叫び続ける。
                       あす
 手に入れようのない自由という名の明日が、

 苦しめている躰を鞭打って、
          こころ
 それでもまだ心臓を信じてる―――」

         かお
 誰もが違う表情をうかべている街で、

 どうしてそんな作り笑いをするんだ。
 うつむ
 俯向いてしまうんだ。


 僕が君に求めているのはそんなに難しいことじゃない、

 愛ではない、友情でもない、それはただ一つ、

 正義の眼差しだ !


   × × ×


         何度も何度も、死んで生まれかわり、強く生きるがよい


   <時はすべておまえのものになる>


       魂よ! わたしのこえがきこえるか」)

    (「いつでもあなたと共に


                  それが」)


            遠い日


   × × ×


 ナース・ステーションのまえでは、

 ひそひそとあの子が死んだみたいよ

 という話をやっている。


   × × ×


 宮沢賢治の銀河鉄道の夜が好きだったあのひとは、

 いまどんな駅に到着して、

 きゃっきゃっと無邪気に喜んでいるのやら。

 ああ、また、ひとりの女の子が


 ――そこへと行く。


   × × ×


 腕時計をみながら時刻をしらべる。

 そしてまたお決まりの文句をいって、

 医者はさがらなくてはいけない。

 舞台からその瞬間におりるのだ。

 カルテには演出家の名前がかかれている。

 しかしもはや、俳優のひとりにすらなれない。


   × × ×


 舗道は街燈にてらされてキラキラと光っている

 若い医者にはそれが、

 (無数の星のように思える。)

      やわらげよ、やわらげよ

         遠ざけよ、遠ざけよ

       いまや、教えなどない。

    ひとすじの煙となった野辺のおくり

    ベッドの傍、いいや、その部屋のドアのまえを、

    通り過ぎるたび(に、)踏切の音。

 僕はそこでいつも遮断機がおろされるのを待つ。

 誰が飛び込んだのかはすぐにわかる。

 それは“わたし”だ

 “かのじょ”ではない。

       あるとき、悟りを得るものは美しくあった

     妻となれ。恋人となれ。夫となれ

   どこからか鈴の音が鈍く

   ぢりン

   ときこえた気がしたが、

   気のせいだろう

   ここはマニピュレーター

 もう行かねばならない

 (と。そこに、)翼をすくめしヌメランとした

 しっこくの鴉。

   すべての欲深さからはなれ、

   かべのなかにじぶんのほねをいれてやること

     心をうつし、あなたと一体化せよ。

 眼がくらんで物の色さえわからない宝石を

 目ざとく確認し、捕獲する――嘴をとがらせ、

 バッと羽根をひろげたかとおもうと、

 硝子をくわえて飛去る

 ああ、ふしぎな因縁のヤタのもの!

    死に脅かされるほどに。
 
      強い誘惑があった。世のならわしがあった。

        物の上にも、人の姿があった。

       受けた施しが自分の道理のなかにあった。

     苦しみを救う道(に、)

        生殺与奪が息づいていた。

   さまたげのない心に孤独があり深うあれ、

 というささやき

    あくまでも

  (神のため、)すべての祭儀となる。国事となる。

 すべての宇宙の礎となる

   ああ、そして人よ、

   きみはどんな蝋燭で光と闇を浮かび上がらせ、

   この舗道の血脈に気付く。

   そこにどんな輸血?

 ああ、ゆえにカルテの所見のように、

 X線フィルムのように、ときおり、 

 わたしは服を線路になげすててしまいたくなる。

   信じることからうまれるもの(とは、)

     さかえるその道のみ。よろこびがのこされるのみ。

    いつくしみの中にあたえられ、あたえつづけるのみ。

  もろもろの王の道がすべてくずれるほどに

 [しがみついたものの指の食い込み、]は不吉な地を教えるが、

 不浄ではなかった土地など、どこにもありはしない

   食い違うこと、訪ねて歩くこと、

     破れた布をつくろってやること、

    あしふきを、雑巾にしてやること、

 ゆえに想像は宇宙へと放たれた。

   マニピュレーターへと

 そしていま、くねくねとした白いうじ虫が

 (が。)あらわれる。
    やまたのおろち
 それも八俣遠呂智を髣髴とさせるしろい雪原、林、

   えいえんにくらべられることのないせかいへ、

       門を開いて自由に出ていける世界

      (よ、)それはただ、あらゆるものを許すだろう。

    人によろこびの言葉を述べさせる

 そのつンとするような空気が、

 オーソドキシカルな想像力をうむ

   マニピュレーター(へと、)

          隠れて燃えよ、

       仰いで仕えよ

  溝をつくるも、賢くする、教えととのえさせる

     はるかにすぐれている。

    老いることに花を飾ることとは何か?

  死をより多く知ることか? 生か?
        ひと
 ――愛する女におやすみなさいと言うんだ、

 病、生きねばならぬ病! ・・・紋切型の幽霊に、

 愛してると言うため。

   答えはわがもののなかにこそある。

     楽しみに偽りはない。無明の無垢

    (に、)他人を傷つける虞などない。

  閑けさをあじわえ、

       ひとときもゆるがせにせず、じっと考え

      わたしはかまどで焼いた。

 ――わたしは地獄へと落ちた(い)
           
 (落ち続けた「い」)
 いや
 癒されることはないのに、

 歌うんだ。カナリーヤのように、

 処方箋や、免罪符のように、

 (ただ、)夢を見るため・・・

  (「かわったのは、あなたである」)

     知っている、

    遠くまで、あるいていくことが、大切にする

   (ことを、)教えてくれるだろう。

  歩くための靴を、暑さ寒さのための服を

      それ、虚飾か? ああそれ、俗か?

 いまでも僕は自分を責めてる
 さみ
 淋しくて―――

 尽きることがない。(すべてをささげることで、)

 こころを得ようなどおもうな、

 (よりも強く、)

 あなたを開眼させるもの、歴史、栄枯盛衰

 あなたは随喜の涙をこぼし、

 祈願(する、)

 すべてのさいはひのため。・・






      *






 となりに女性がすわった。

 (「マナーの悪い客だ。)

 いきなり足をどかっとのせてくる。

 「あの、失礼ですが・・・」

 (僕等は二度驚く。)

 「せんせえ、なんだか、泣きそうな顔をしてるわ」

 どうしたの? あら、どうしたの?

 ・・・こういう時(になって、)

 芯はくびれている林檎でなきゃいけないな、

 ミロのヴィーナスは両腕がないといけないな、

 (「と」)思っていたりしている。

 「イレズミしたくなった?」

 「・・・俺はお前のような奴は知らない」

 「知らないんだったら、足どけないわよ」

 「というか、おろせよ」

 「・・・命令。ね。」

 きらり、と瞳がかがやく。

 「ちがう、礼儀だよ」

 「・・・それはつまり」

 わかった。もういい。・・

 僕等は少しハリウッドを観過ぎたのだ。

 「どうしておまえ、生きてるんだ?」

 「ああ、そんなことから聞くのね」

 「わかった、どうしておまえ急に齢をとってるんだ」

 推定十七-八(と、)言ったところかも知れない。

 「宇宙人・・・はやさしかったのであった!」

 「ああ、そうですか」

 「・・・せんせえ、リアクション薄くない?」

 「いや。おれは、宇宙連邦に抗議しに行くよ」

 「――愛。ね」

 きらり、と猫みたい夜の眼になる。

 「せんせえは、ロリコンだから!」

 (なんで、こいつ死ななかったんだろう、と思う。)

 「(ドスの利いた声で、)だから抗議だよ」

 「ああ、そうですか」

 つまんないなー、チキショゥーッ、

 と。はなはだヒロインらしくない、

 声があがった。

 (この物語をこいつひとりで、

 ぶち壊してるよなあ、と作者は思った。)

 「・・・で、両親にはちゃんと伝えたんだろうな」

 「はっ! 国家機密のプロジェクトに参加しております!」

 「嘘つけ!」

 「でも、せんせえの奥さんになるのは、国家機密より難題だわ」

 ほれほれ言うてみい、となにを思ったか、このコンチキ娘、

 顎をごろごろやってくる。

 「・・・死んでいる間に、たっぷり聞いたでえ」

 「あれ、ぜんぶ、嘘です」

 「グヘヘ、越後屋、おぬしもワルよのう」

 「ああ、そうですか」

 もうさっきから、それしか言ってないような気がする。

 「・・・まあ、とりあえずイレズミ星にいこうか」

 ――そんなの聞いたこともない。

 「ひやあ、そんな星あるのね」

 でも、なんだか、そう言った途端、色んなものがあるのだ、

 きっと、自分ひとりくらいすっぽりおさめてしまうようなものが、

 (たとえば、)あらゆる人が救われるような道が・・。

 「あるとも、宇宙には星の数ほどおもしろいことがあるんだ」

 「せんせえは、――休暇中だものね!」

 「ちがう、・・・」

 しかし、自分は一体何をしにやって来たのだろう? 

 (もう、)思いだせないくらい遠くまで来たような気がした。

 「愛ね、ああ、なやめる医者は愛を切り裂きジャック!」

 「うまいこというな、といいたいが、おれは外科じゃない」

 ・・・そういう時代の話である。

 「でも両刀づかいだって噂ですよ」

 「そんな風にはいわないよ」

 「でも、前から聞きたかったんだが・・」

 「なんですか?」

 あなたは、と一瞬改まって言いそうになって引っ込めた。

 「――どうして、お前、俺のことがそんなに好きなんだ?」

 たぶん、こいつも同じようなもの、

 もしかしたら一生解けないパズルを見つけたような気持ちになって、

 そのひと言を呟いたのかも知れない。

 長い時間、長い時間をもって(人は、)

 そこに宇宙のことわりを見出すほど(に。)

 「・・・永遠に、ひみつです」






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