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灯台

灯台

初期作品 6

  65 遠足








出発は延期された

なので浮かれムードの服を脱がなくちゃいけない

体操服を! 熱があるのに登校しました少年よ

そうと知りながら 中止するのは雨のせいです

ある条件が揃えば 悲しいけれど 泣きだすのです

しゅっぱつ は えんき された・・・・・・

しかしリュックサックも しおりも お菓子も

 ビニール・シートも お弁当も 君の両肩にある

そして誰もがランドセルをるんるん背負ってきた

うらやましいなアと思うくせに 天の邪鬼め

きれいな空だなアとすっとぼけたことを ぬけぬけと

ああ そういう強がりはよせ

サンタを信じてるなんて!

きっと行くとも そうとも 

なんて請け合うのもよせ

みっともないったらありゃしない

そうとも 滑り台が濡れているわけじゃない

いいかい 砂場だけ濡れているわけでもない

いま町全体がびしょびしょになっているんだ

だから助け舟は来ないだろう! そしてこの事件は

君のこころに深い傷として残る

トラウマとして

今日という遠足の日を

地獄の一日として・・・・・・

思うことは叶わないと肌身を持って知るだろう

地球なんて 壊れてくれちゃっていいと思うだろう

穴ン中にかくれてしまいたいと思うだろう

先生に指摘されて! 君は赤ッ恥をかくンだ

でもきみは まだバスが来な いと思って 

いる教室中がば かだと思ってる・・・・・・ 

なかには労りをみせてくれる者もいるだろう

おお 花こそ咲きけれ 

しかし 雪ぞ降りける 雪ぞ降りける

そしてガラガラと開く教室の君をのこして

十畳くらいのキッチンのことを 不意に ロック・オン

冷蔵庫があって 左隣に台があって湯沸かし 炊飯器

その真上に電子レンジがあるような キッチンのことさ

そう それは君の家のキッチンだ・・・・・・

食器棚にならべられた いろいろな皿のうちの一枚を

さも手に取るような UFOキャッチャーの手で

君はいま 犬の頭を撫でている時間を思い出してた

父親がすわっているような安楽椅子で

スツールに足をのっけて いぬっころを抱きかかえる

  やわらかく てなでてたんだ そしたら夕

   日が暮れてね櫛 で髪を持ち上げ

  てよしよし ぐわつぐわつと 押し上げて

   そのリズムで愛 犬を撫でていた。

日没ってかなしいね はかないね さびしいね

そんな風にしずかに歳を取ってしまうみたいだから

お爺さんになった僕がそこにはいて 

お婆さんになった 初恋の君がいるような気がした

安らかにあの世へ旅立つシーンが不意によぎった

 かどうかはさておくとしても センチメンタルな追憶

僕はその瞬間 ふっと微笑んだ

でもきみは まだバスが来な いと思って 

いる教室中がば かだと思ってる・・・・・・ 

きっとこの一場面に 素直に想いを馳せられたら

こんな過ちを どこにでもある一瞬間に微笑めたら

ああ それはどんなに幸せなことでしょう

たしかに出発は延期された! バスは来ない

けれどこんな瞬間を積み重ねて 僕らは生きている

それを笑える奴なんて もう誰もいるわけがない

そしてその時に君は それが幸せだったとおもう

あの時の傷手が 君の人生史に投影したもの

それはいい歳の取り方をしたねってことかもしれない

 ああ若かったって おもえることかもしれない

でも次の日にはリュックサックも しおりも お菓子も

 ビニール・シートも お弁当も 君の両肩からはずれる

もう誰も笑わない もう誰も覚えていない

みんなそのことを知らない

悲しいほどに・・・・・・

そして馬鹿はうじゃうじゃ増殖して

毎日に文句をつける 子供を叱りとばすアホもいる

お前が一体どれほどの人間であると言うのか?

お前が負う傷などたかが知れている

出発は延期した! たったそれだけのことに何故悩める

いまの僕は 照れ笑いして誤魔化す 言い訳だってする

 きっとそれの対処方法だって すぐに思いつく

でも出発は延期された!

というその一言があたえる ヘビー級のパンチは


たしかに脳味噌をくらりくらりさせるのだ

もちろん僕にではない その子供において

受け取る者が どれほどの痛みを負うかなどもわからずに

相手が気に病んで ことあるごとに ああ ああと

思い出すかもしれないのに・・・・・・

僕らはあまりにそのことに無頓着だ

彼は遠足にどんな風に行くのだろう 

延期された遠足は来週か 再来週だろうか

けれどきっと締まりの悪い顔をして はにかみを覚えて

なアんだ つまんない遠足だって思うだろう

いや きっと そう思って遠足を嫌いになるだろう

彼は行事を嫌いになるだろう 

大人になればモンスター・ペアレントになるだろう

しかし一体だれがそれを予知できるのか!

たかが遠足だなんて もう誰も思えない

かくして大人達が与える影響は 途轍もなく大きい

歳をとればみんなわかる 僕の言っていることが

 いかに本当のことであるのか、と・・・・・・

けれど大人達はけっしてそれを認めたりはしないだろう

 それはオトナ教の敬虔な信者として かくあるべしだから






  66 夏の思い出






ある日うろうろ町を歩いていると

きれいな女の子がやってきて

そっと耳打ちした

あたし今日パンティーをはいてないの・・・・・・

蝉のように じ じ じっ と

ふしだらな映画館をして

ごにょごにょ

こころにひびいてきた

きゅうりをかじっていた 

ぼくのヒューズが飛ぶ

アイスクリームを食べると 

ちべたくて

おもわず膝に

ぼとり おとしてしまう

というわけにもいかないよ

でも なんだか どきどきして

バッタとりの名人だと うそをつきたくなる 

そんな あこがれにこがれて

からかわれているのなら

ぶかぶかの帽子を まぶかにかぶりたい

蚊取り線香をかぎたい

そしてアナコンダ・カラーに

うろたえたい

さそわれているのなら

回数券がほしい

なにはなくとも

ポケットにしまいそうになっている

定期券はかなしくて

シミってきえるのに

クリーニング屋に出せばすむのに

買い替えるなんて ジェントルマン

ずきずきする虫歯

のようなシミ

もしかして 流行りのストーカーで

ぬれている耳朶の未知の場所で

いこう いこう いこうが

こだまする

ひきかえしたくなった!

あとからきたひとには

かくもありきで

みていてもらおう

でもそれならそれで

願ったり叶ったり

ぼくには恋人だっていないのだし

小便もそうとう長い間

我慢できるし

腕立て伏せは得意ではないけど

目をつむるのは とくい

おしまいまでみなくっちゃいけないけど

小説家の夢というのがこれであるのだから

これくらいの女性は

おねつなのよ!

よくわかる色っぽさ

よし 草叢にいこう

そこでおはなしをするのだ!

きよいのである

などと考えている内に

いつのまにか点景になり

いささか天気のよい

ざっと百メートル向こうを

てくてくあるいていた

その背中をみつめながら

なにひとつおぼえてないけど

これといっておぼえてないけど

すぷうんが きららめき

あったかい夏の思い出は

まるで神話みたいに

新しいシャツがほしいなと

ふと思ったのよ、ワタシ・・・・・・






  67 舞台の踊り子






  一 うつけ詩人の批評

                                 きらめき
 ○花火のように飛び上った。そのしゃりしゃりとした氷の精華の向こうに、恍惚という名
         シーリングライト
の天井に取り付ける電灯。観者が踊り子を上から見下ろすという構図には、日本の浮世絵の

奇抜な構図構成に影響を受け、さながら擂鉢の底の好奇心の窓。おお、たとふるならば、氷
            まぼろし
雪地帯に咲かんとする幻影の花に憧るる心持ち。おお、たとふるならば差し出された人工光
      ロリーポップ
という名の棒付きあめ。豊満なる女を描きしヴォリューム・ドガとわれがなづけし女の印象

とは異なる、いささか少女趣味の、しかしその純潔、また清廉な印象のどこから絵具箱を無

断で持ち出したような噎せ返る、体内に脈々とながるる血汐のもゆる、おお、きらびやかな
                                         しめり
羽根を隠し持っていたのか。それどころか、おお、かすかなあの唇の湿潤のエロティカルリ
                   
ックな余韻の入江はどうだろう。なんたる梔子なオ メコ!


  二 うつけ詩人の保護者


 ○私は再三再四に及んで止めたまえと言ったのだが、なにしろ、君は詩人であって美術評

論家ではない。また君は技量はあるにしても、余計なことに首を突っ込みすぎる嫌いがあ

る。その挙げ句が、これである。私は秋の欲情のようなミステリーサークルは好かない。お

お、しかし彼は途轍もなくいじらしい男であり、おお、さながら竹と性向さえしかねん萩原

朔太郎に憧れる、下司ではない純粋獰猛な奥ゆかしい二面性の男であるが、君の勘違いは、

まずこれがスケートではなく、バレエであるということにすら目をあてぬことに端を発す

る。またヴォリューム・ドガ、またエロティカルリックにいたっては造語癖の極まれり、

だ。これは何のことだねときくと、感情の発露の平行線からくる、強靭な脚の筋肉の暴虐な

る殺戮なのだとのたまう。すこし私も頭にきていたので、ポカン、とぶん殴って正気にかえ

しておいた。


  三 うつけ詩人の挿絵画家


 ○対象が瞬間的に見せる美に惹きつけられる時のファンは、さながら演劇の俳優に惚れる

ようなものだろう。画面奥のカーネーションたち、夜会服のパトロンや、脇役の踊り子たち

も素晴らしく、またくっきりとした対比なのだろう。画家の性格や、製作態度というものは

常に斯うした細かな部分に対してもひろがっている。たとえば、これは執念深い男が描出す

るところのはなやかな舞台ではなく、隠し絵のように、はなやかな世界の裏舞台もまた描出

されている。伝統を愛したドガがみせた一瞬のかなしい百合。かろやかに舞う花の背後で、

風がじっと吹き続けているということに、図案化された自然の一現象を見る。


  四 うつけ詩人をよむ売れぬ画家


 ○俺は前から言ってたんだけどさ、ある種の肉体の運動性、たとえば稲穂がゆれるとか、

腰を曲げるとか、乳 房がゆれるとか、陰影とか、あるいはそういうものの躍動感ってのは

さ、いわば粗削りで、実は不細工だって気がすんだよね。いびつなことを、とりとめのない

ことをさ、いきなり写真の中に収めて時を止めちゃおうっていうんだから、そこがいわば、

絵のズルッこくて、しなやかで、ひらひらと身を躱わしちゃうところでさ、そこに画家の技

巧だの、あたらしい表現方法だのってごじゃごじゃしたものを織り交ぜて、あたかも一つの

完成品のようにしちゃうでしょ。逆なんだよね、完成してんのはさ、その運動性とか、たと

えば躍動感の方でさ、絵の方じゃないのよ。絵はやっぱりうねうねとした寄生虫感覚で、奇

妙なユウユツがあってさ、丹念に描けば描くほど本質から離れていくってことだって気がす

るのね。いわば、絵って絶望からの脱出ってニュアンスが正しい気がするのね。なんでっか

ってえと、創作行為自体が抽象の受容で、従順な自己世界の構築だからなのね。つまり焦点

を合わせた瞬間に、もう枯れ葉みたいな生活に嘘はつけないでしょ?


  五 うつけ詩人に便乗し悪口をいう根暗男


 ○この詩作の意図は古典的画家の看板をもつドガが、みせた版画技法のモノタイプのこと

ですね。わかります、つまりこの野獣の爪のフレッシュな昂ぶりの意図は、紙に下描きされ

ているその上に、そのパステルで描きくわえられていることを暗示しているのですね。口の

悪い人達はアマチュア丸出しの難解辟易する出来栄えのうつけと呼びますが、なあに、そん

な糞の蠅集りは目先のことだけを見ていればよいでしょう。そもそも、この詩のニュアンス

も劇場で最も高い桟敷席から捉えたものを暗示しているのでしょう。あえて浮世絵だとか、

ジャポニズム研究だとかいった要素を活写しないのが実に粋ですなあ。あんなのはアカデミ

ックの一手口なわけですよ。あんなのは働かずにいる貴族ですな、銅像のように腰が重い漬

物石ですな。ははは、皆さんこの詩人に万雷の拍手を。光と影を。またドガはアングルを終

世尊敬していたとか。アングルだけに、あんぐり、なんちってね。


  六 うつけ詩人のまぶしがり症の奥さんの評価


 ○ええ、わたし、実は本屋で雑誌に掲載されてるのを、ぱらぱらぱらぱらって読んでて、
               とまと
かっ、と頬が火照りました。蕃茄みたいに熟れて、そのまま、ケチャップみたいに床をよご

して、塵取りで、あるいは掃除機で吸い込まれたい気持ちでした。あの人はきっと、その山
   ピーピーピー
梔子な放送禁止用語がよっぽど好きなんでしょうね。ええ、家帰ったら、口はききません。

というか、ドガさんにも失礼でしょう。いくら、芸術といってもねえ・・・・・・。


  七 うつけ詩人の友だちの名言オタク


 ○わたしはドガの画面の継ぎ足しにの問題について、何処かで読んだのだが、それはモテ

ィーフが画面に収まらなくなってやむなく紙を足したというところの急場しのぎか、それと

もジャポニズム研究のいうところの継ぎ足しなのか。なんにせよ彼は即興的に製作するのを

嫌っていたともいう。ドガはなにしろ古典的な男だからね。古典的な男というのはなぜかし

ら種々さまざまな実験をするものさ、功名心とか、また責任感とかじゃなくてね、単純に納

得のいくまでつくりたくてたまらなくなる。ほら昔の詩人が何ン度も詩を書き直すみたいな

もんさ。歴史を毎年のように変更する教科書も古典的なのかもしれないなあ。リビジョニズ

ム。ここでしめくくりの名言。古典とは斬新を狙うところのアトリエである。


  八 うつけ詩人をよむ早熟なエキセントリック少年


 ○なるほどマングローブの森でいうところのマロングラッセなのだな。実にレット・イッ

ト・ビーでいうところのレトルト食品だ。これはいわば医療制度でいうところのインフォー

ムド・コンセント鼻の穴にさしこまないで下さいなのだな。臓器移植OK。献血はごめんだ

ぜ、リビングウィルもアイムおーらい。なんたる梔子なオ メコ!


  九 うつけ詩人と芸術評論家ダレモシランヨ

                        はいえな
 ○ああ、あれね、知ったかぶりの底の浅い鬣狗みたいなモウレツな臭さだったね。実に
モノトーン
一本調子で、じっさいアイツなんか貧乏くささがにじみでて芸術かぶれの一典型なひがみ根

性。ありゃあひどい出来栄えだったね、読んだ瞬間、モラリストとして芸術をなめるなこの

糞ガキがと思ったね。いや、別に嫉妬しちゃいないよ、あんなのは小学生だって書けるから

ね。大体あの絵だって、画家にはメランコリックな観客の批判もあったのさ。おい君、なん

だその口のきき方は、この業界で仕事をできなくしてやろうか。だいたい文学者ってのはど

うも何かしら芸術に好奇の眼差しをおくる。眼薬病だな、あれは。たんなる欲情ではない

か。たんなる自慰行為ではないか。画家の気持ちというのがわかっとらんね、評論家として

は評論的小宇宙の構築でなければ全部偽物さ、モンキービジネスというものさ君。追及の姿

勢というものが実にひねくれまがって、そう、言語空間における情緒的な、むっつりとし

た、不機嫌なムード音楽の生クリームといったところさ。おい君、なんだ、その馬鹿にしき

った眼つきは。頭が悪い奴はそれだ、すぐわかり易い言語でうんぬんとやりおる。おい待た

んか、待てと言ってるだろうが。なんて不愉快な奴だ。え、あの詩人?






  68 嵐 ある海乗り






 うつくしかった船、寄せては砕けての波は末も永きに、いまは雪の音を聴かせている。う

ら悲しげに、景色の最深部にうっすらと、像も影もわからずに、ただ、うっすらと積もって

いく侘びしい雪。

 子供の頃、港や磯での魚釣りをした。海水浴、またボトルシップ作りに精を出し、あひる

のボートでイメージをふくらませ、大学ではボート競技のレガッタに・・・・・・

 船員職業を目指すために国立海員学校といった専門の教育機関や、船員教育の学科を持つ

高等専門学校・大学をさがした。外国航路の船、内航貨物船・旅客船・長距離フェリーなど

の国内航路。漁船の遠洋海域に操業する船、近海・沿岸で操業する船。また両親のすすめ

で、海上自衛隊のことも考えた。

 その頃、丸山薫をよく読んだ。海への深い理解が私の心を何度も捉えた。

 また、職種も航海士・機関士・通信士などの海技資格の職員。甲板員・機関員・司厨員・

事務員など資格を、必要としない部員で乗る場合なども考えた。

 たまにぼうっとしながら、夜の寝床で、地球の表面の約四分の三なんだな、つまり七十パ

ーセントくらいが海で占められているんだな、太陽系の惑星でこの水溜まりが存在するのは

地球だけなんだな、と思って胸が熱くなることがあった。大昔、海は垂れ流しの滝状のもの

と思われていた。その頃、海を渡る手段として丸太が利用され、くりぬき、また束ねて筏と

して海へと出ていった。古代エジプトでは、パピルスという、地方特有の植物でつくられた

船もあったそうだ。コロンブスの大航海のこと、風力から蒸気船へと変わっていったこと、

木造から鉄製へと変わっていったこと、幕末の日本におとずれたペリー艦隊のこと。やがて

造船技術の進歩で鋼鉄製の大型船建造が可能となり、燃料も固形の石炭から液体燃料の石油

に変わり、動力装置もレシプロ機関から蒸気タービン・ディーゼル機関へ高馬力・高出力化

が進むと大型で高速力の船がたくさん建造されるようになった。職業として船員を選択した

のは、何故だったのだろう?

 うつくしかった船、寄せては砕けての波は末も永きに、いまは雪の音を聴かせている。う

ら悲しげに、景色の最深部にうっすらと、像も影もわからずに、ただ、うっすらと積もって

いく侘びしい雪。
               プランクトン
 海底堆積物のあこがれ、浮遊生物、チョウチンアンコウ、そして無数の深海魚達を観察す

る潜水艦。そして沈没船へのあこがれ、一攫千金の気持ちなどを捨て、私は某社の外航船の

四航士として原油タンカーに乗った。先輩達は尊敬できる人もいれば、できない人もいた

が、いつか船長になることを夢見た。
 しけ
 風波と船酔いになやまされ、時には嘔吐し、それでもいつかは慣れてしまい、私は海を心

の底から愛するようになった。陸上勤務や有給休暇などで、陸上ですごした期間を除いても

ほとんどを私は海で過ごした。屏風からでてきたように優雅に飛翔ぶ?、イルカ、船に驚い

て三日月にゆれるトビウオ、眞晝の月、そしてかぞえきれないほど、おびただしい無数の

星・・・・・・そして日没の荘厳さ。ターナーの「吹雪」

 サイレンの音が聴こえると、ふしぎに澄みきった口笛が起こった。それは牙を剥きだした

感情です。それは堅冰を破って突進するものです。羅針盤の尖鋭角は、煤惚けた帆のひとつ

かみを指している。

 稲刈り機のように足を踏みならすと、タップ・ダンスが起こった。ヴィーォリンが奏でら

れると、ブルース・ギター、アコースティック・ギターが併せて反応する。シンセサイザー

が鳴り始めると、自働車のクラクションが鳴る。ことンことンと電車が通り過ぎると、馬が

警笛をまねて嘶いてみせる。リズムを取るように手を叩くと、二枚の金属製ユーフォーをう

ちならす相互打奏体鳴楽器しんばる、木製の胴部に鉄玉のチェーンをまいたラテンアメリカ

のカバサが反応して、ボクシングの終了を告げるゴングまでも鳴る。マラカという植物の実

を乾燥させ、中の種子で音を出すようにした振奏体鳴楽器、まらかす木製や合成樹脂製のも

のも多く、封入物も石や金属のものがある。まらかす。ああ、マラカスが鳴ると、ピッァー

ノが蜘蛛の糸をかける。そうして、わたしは、しずかに、ないてい、たのだ―――

 船室では死を覚悟し。なつかしい緑蔭の夢を見。うつくしいことまで、ああ、くるしくさ

みしかったことまで、私はこの響きの中に委ねている。サイレンが聴こえると、稲刈り機の

ような足踏みを起こした。それがタップ・ダンスへとつづいていく、スパイラルのうずまき

にのまれていき、いまこの船は影形なく消え行くのみだ。

 いくつかの記憶が、私の脳裏に閃いているのがわかった。

 船長になってから様々な国に碇をおろし、寸暇を惜しんでシリンダーヘッドの修理をした

。どこをさわっても熱い、まるで、太陽に触れているような感覚だった。ゴキブリの騒動に

巻き込まれたこと、看護師不在のため、怪我をした船員の治療をしたこと。仲間と一緒に食

堂でさわいだこと、そのままカラオケ大会へ移行したこと。海にながれている空き缶のコー

ラが他国のものであると気付いたこと、船員同士の揉め事にサヴァンナの奥地でおこなわれ

る大雑把な裁判をし、こちらが悪い、こちらが正しいと意見を言って、より大事になってし

まい船の活気がうしなわれてしまったこと。妻子を陸に残したまま死んでしまうこと。船の

上のベンジョ・タイム。よからぬ感慨にふけったあまり、海へとジャアジャアやってしまっ

たこと。そうして、わたしは、しずかに、ないてい、たのだ―――

 うつくしかった船、寄せては砕けての波は末も永きに、いまは雪の音を聴かせている。う

ら悲しげに、景色の最深部にうっすらと、像も影もわからずに、ただ、うっすらと積もって

いく侘びしい雪。

 ラジオを点けると、哄笑イ声がきこえ、航海日記のある机の窓の向こうに、そっくりその

まま再現されている。何かがおかしいと思っても、静かに湧きあがってくる絶望の前では、

孤独のリズムを叩くしか、泣きながら、手で夢を奏でるしか、もうないのだと私は悟る。

エピソードに付きまとう感情を注意深く拾い集めながら、作品に一貫した一つの流れを与え

ている。情景的なうつくしさが、キー・ポイント。あえて細部にまで論及せず、ただ生活的

なものが反映された指向性マイクを頼りに、ブロークン・イングリッシュ! でたらめな英

語をつづけている、素養のない者にとって、知識を持たない者にとってこれは判断すること

は難しい。しかもネィティブであればあるほど、われわれはどちらなのか判断・判別をつけ

られなくなる。その時、それは梁や、柱の一部である。すると、そこは宗教画のような荘厳

さを覗かせて、蓮の華、と形容するべき啓示的な自然のこもれびがあたる。だが、それは月

の光のように侘びしい、森にひっそりと匿われた奥床しさ。そのヴァージニティーは陰陽に

あてはまらない第三の原理として、アミニズムの気配をただよわせながら、非業な宿命の暴

風雨が彼の心の中をかけめぐる。むなしく、やるせなく、そして、どこまでも尽き果てるこ

とのない希望や夢に、なぜ自分はこういう立場にいるのか、こういう状況に追い込まれてし

まったのか、と嘆いている。丹念におりたたまれていた回想感覚に、きちんとした答えをも

たらすべきではない、いや、できうるならそういうフリーズ・ドライもあってもよいのでは

ないか、と思う。それは惨憺たる空の下でおこなわれた、かなしいひとつの虐殺である。か

なしいひとつの虐殺である。






  69 angel






 車が通過する度に、水玉模様のてんとう虫がぐしゃりと踏み潰されているのを見る。
             
 ありきたりなやさしさで、情慾の実体を、御名の本質を、また愛情の箴言を知ろうとして
                      つるぎ            シムボル
はならない。光炎菩薩太陽よ! この長劔こそ無益な殺戮の象徴であり、巨きな自然という
   むこ                  
名の無辜の民、愛玩動物の咽喉を抉り、また皮膚に死の風を吹込むものである。
 、、、、、、、、、
 ペンは剣よりも強し。

 補助装置をつかわない潜水は、古来より真珠や海綿をとるためにおこなわれてきた。
 プロフェッサー         はっきり
 大学教授は言う。かくて、明瞭と眼をあいて歩いている頁人の真っ白なあしのひとよ、殆

とんど消えてゆく、斯ういう種類の堪え難くも呪わしくまた類いまれなひとよ、いま、いっ

しょに人類史に踏み込もう、と。

 「補助装置をつかわない潜水は、前四世紀以来、ダイバーに空気をおくり、水中にとどま

る時間を長くするために、さまざまな器具がためされてきた」
                         ダイビング・ベル
 見究めよ、ギリシャのアレクサンドロス王の潜水鐘を!

 見究めよ、アリストテレスの水中呼気装置の言及を!

 蛞蝓のようなマウスが走り回って検索しているような高揚感、炭酸カルシウムは蝸牛では
        くらげ                   なまこ
ないシェル。水母もいない地上の深海には海鼠もいない、シーラカンスも。
      タイタニック               アトランティス
 海に沈みし豪華客船を、そしてまた失われた大陸を、ノアの方舟を。それらすべてわたし
         ともだち
のとおいとおい同朋。彼等はunicornを、またdragonを、そしてけして名付けられることのな
     エーテル
かった、光素のしみだした進化と退化の二重螺旋の滅亡びの種族たちを知っていた!

 脆弱な生き物はこのようにして殺される。Water pressure、液体ではどの方向にも均等に

力がつたわり、水圧は下向きだけではなく、どの方向にもはたらきかけ、触れ合った時に、

パスカルはパステルになり、瞬間、イソギンチャクのように見える。おびただしい宝石よ、

ちりばめられた化石よ、それらすべて氷塊と熱砂に、また雷鳴と風声に、そしてこの地上と
                 アースシャイン
いう庭園に。adamとeveのため、地球照ぷりずむはれるや屈折率おるがんなれるや屈折率!

 しかし実用的な装備が開発されるのは、十八世紀。英吉利の天文学者エドマンド・ハリー
          ダイビング・ベル
が最初の実用的な潜水鐘を開発した。大きな風呂桶をふせたような木製の装置、天井に光を

とりいれる硝子窓、空気たるから革製の管で、たるに水がはいると潜水鐘の上部におくりこ

まれる空気。やがて科学者は水深最高一○○メートルの海底でも時間制限なしに調査が可能

になった。水中居住室、もしくは水中基地。内部気圧と外部水圧を同じ値に設定する、飽和

潜水。潜水病にかかることもなく、基地周辺の作業が可能。ダイバーの呼吸源はヘリウムな

どの軽い不活性ガスと酸素の混合ガス。ダイバーの血液中のヘリウムが飽和状態になると、

一定時間の減圧が必要。

 そして一九八八年、アメリカ海洋大気局(NOAA)が、全長約一三メートルの実験用水

中居住室をカリブ海にしずめた。定員六名、付属の海底基地で一日に九時間の作業が可能に

なったアクエリアスとよばれた基地。そしてずいぶんとしばらくぶりの、浮上。

 わたしたちは何処へ向かうというのだろう、色とりどりのカラーの傘を差して。個性は風

船にぼかされるとしりながら、なぜ胸の内を潤ませる風鈴をならすのだろう。
 きのう おととい
 昨日、一昨日と、雨が降った。海苔巻きのように、筐底ふかく秘するように・・・・・・

 水が跳ねる度に、ズボンの裾が濡れないようにするのさえ、風向きを気にするのさえ、わ

たしにはもうnostalgicな教会や、神父や、鐘を聴くのと同義である。夜通しふりそそぐあめ

たちは、悲しみを背負い込んでいる。鳴り止まない動悸、呼吸器、杞憂にはおわらずに。

 それは天鵞絨のやみ、数キロにもおよぶtunnelだ。骨張った口をあけた橙、うらめしそう
 ひとみ
に明眸くりぬかれた断末魔の悲鳴。ひびきわたるエンジンの咆哮、オイルの芳香、油膜のゆ

め。ここはまるでプラモデルの街のように塗装されている。金属的な外観のまちで、不協和

音と協和音のharmony。だから腕時計も持たず、携帯電話も持たず、日記もわたしはつけな

い。ボイス・レコーダーも動かさない。
               おもいで
 だからカメラで撮らない、追憶だけが、いまも濡れつづけているから・・・・・・
                                  めのまえ
 少年時代にあじわった落雷の音、避雷針もない、矢鱈と眼前で無意味なグラフが形成され

た。数キロの坂道を、わたしは泣きながら走った。瞳に水滴が入る、粒が見える、球形。

それは硫黄酸化物や窒素酸化物がまじっている、檸檬のような、死の雨。

 そしていまわたしは、躓きそうな、引っ掛かりそうな舗石、革靴が教えてくれるバスの停

車位置、密閉容器のような時刻表をみている。呼吸のためのエア・タンクや、レギュレータ
                                      フィン
ー。浮力を調節するためのウエイト・ベルト、推進力をえるための足鰭や、水中ではっきり
            マスク
とものをみるための水中眼鏡。位置確認のための水深計や残圧計、保温と保護のためのウェ

ット・スーツ。非常時にそなえたスペア・タンク。
                                  うた
 しかし水圧でひしゃげてしまったような、あざやかな雨の詩はelegy。

 水浸しにならないよう、水溜まりにはまらないよう、傘を差しながら歩いているわたしと

街路樹。クリーニング屋、カメラ・ショップ、めがね屋。ガラス・ケースに沈澱んでいる豆

腐屋。布団屋、見るものがすべて苦しいくらいのペット・ショップ。雑貨屋、金物屋、まる

でvirtual realityの魔法にかかってしまう。

 ヘッド・マウンテッド・ディスプレー。開け放した傘はコンパスの針。虧けた円周率は、
                       しようか    
旋回する飛行機、生け垣をめぐっている紫陽花。狭隘な十字路ではいつもNやYやXの断片

がぬくもりをもっている。だから猫の小便の臭いが拡散し、また収斂し、曰く言い難い単車

通勤の合羽すがたを目撃する。

 わざわざ知り合いを避け、心の底から描きたいものを探すため、駅の階段の揺らめきに合

わせる。眠りっ放しの蒼の世界で、噴水を取り囲む植込み、鼻孔に飛込む蝶のようなひらめ
  つち            ひたい
き、地のかをり。濡れた頽額はドラマのワン・シーン。虹の気配のする脳細胞の片隅の何処

かに、インプットしてある厖大なデータ、莫大な方法論はミイラ、数えきれないほどのキリ

ストを抱いたマリア像。このscreenに投影るのは、おぼろげながら、探し求めていた、無意

識なる際涯の飛躍。止まない雨の中を熱帯魚が泳いでいるのが見える。蒼の粒子、細胞、括

約筋。それはブラック・ボードに記された名前。せまってくる混凝土の壁も、とけあうこと
                                          いま
のない採光も、つぼみをひらいてみせた暗褐色の夜空のうつくしさも。現在は切なさを誤魔

化す為にある。ジャックナイフ、ヘッド・ファースト潜航。さしたる曲折もなく、小奇麗

に、目の行き届いた海に身をあずける。

 「エンジェル・・・・・・」
       わら
 ニコリと微笑ったような気がした。

 しかしそこには誰もいない。

 そしてそこには君がいない。






  70 地獄の蓋






過去をどうして知っていると言えるの?

わたしは靴を編んでいる


雪とみまごうほどのしろい手をして

わたしはさすらいの船をはしらす


いとおしむ青草が手を振っているわ

瞼がたるんでしまっただけさ


ねえ星影はどうして消え入りそうなの?

小屋をこしらえなかったからさ


ああ! 蜜蜂がとんでいるわ

濡れた落ち葉をひろっているのさ


なんて花のかぐわしいかおりなのかしら

おもむろななげきのかなしみさね


ねえ蝋燭をはこびいれましょう

ガソリンはないけどいいのかい?


蟲の音にうすもやがひろがっていくようだわ

不断の別離にカーテンを閉めよう


もう波の音はきこえてはこないわ

きみが炉辺にいるからさ


ねえそっと愛しているとささやいて―――

どんな留め金がいるというんだい?


日ごと夜ごとわたしたちは悲しい歌をつくった

ことごとくほの暗い砂にしずむように


それはだれかを照らすために作ったのではない

しいては夢の上に道をつくるため


窓の向こうには真珠のような燈台がめぐり

人っ子ひとりいない静かな夜に異彩をはなつ


わたしたちは鼠色の墨色の焼け跡のような空の下

つめたい風に雨がまじるのをきいていた


茂りの時がくれば枯れる時もくるだろうと思い

墓をみながら生きようという願望にふれていた


例外なく辺鄙な田舎はあやしき心臓の音がきこえた

挨拶する者とておらず


わたしとて仲良くするつもりなどこれぽっちもない

だが 情熱の燃えるこころに終焉りはない


わたしは鍬をもち 花々に水をやり

雨が降ればわたしたちは読書に耽ったりした


たよりないわななきのような栄光ある白鳥が

朝しずかにやってくるとき


ここには新聞すらもないのだと微笑むことから始めた

永い年月のあきらめを経てきたからだ―――


やさしい歌にわたしの血が騒ぐことはない

悟るがために龍のまもれる秘宝をうばう冒険譚にも


また裸で行進する新しい時代のムードも

なにより ふん それから というニュース速報も


わたしたちには蝕み減らされたものが

動く術なきものが多くあるのだと気づきはじめていた


はるばるやってきた緑のくらい風に乗って

あわれに乾いた生命の不毛を思い出す


ここには自然信仰がみちている

ゆえにすべてのものに魂というのが宿っていた


無感覚にぶよぶよ根を張った都会で

雨宿りするような追憶の声はきこえない


彼女はあいかわらずおしゃべりのままだし

九官鳥のものまねと南の島への憧憬はきえやしない


ねえ きれいな嘘のつき方っていいものね・・・・・・

だって 無気力にひびきおえるだけだもの


わたしたちはこぼれおちた宝石の砂浜をあるく

しがみついていた手はどんどん離れてゆく


瓦礫だらけの思い出とひと握りのよい記憶!

死にたいほどのよい天気





  71 電話劇






今どこで何をしてるの?

 美味しいシチューを温めてるの

  きみは元気でいるかい?

   さてあなたが思うほどかしら

  新聞紙をよめるようになった?

 漫画はあいかわらず読むわ

わるい男につかまってない?

 知ってるでしょ男運がわるいのよ

  ねえよりを戻したくない?

   いま連絡不通になりました

  きみはずいぶん甚いね

 ご了承してください

ねえ何か変わったことあった?

 かわらないことの方が多いわ

  ちょっと結婚式あげたいとおもわない?

   ごめんなさい今スパゲティーゆでてるの

  きみは村上春樹の読み過ぎだよ

 ほんとうに茹で上がりそうなのよ

って君いま風呂上がりなのかい?

 いやな想像をしないでくれませんか

  ふうむ いいポーズをとってくれたまえ

   カメラマンと話す予定はありません

  そういえばシチューじゃなかったっけ

 いっしょに食べるのよ! いけない?

じつはインターホンおしたいんだけど

 あなた何をしにきたのよ

  贈りものをきみにわたしにさ

   安かったらストーカーで訴えるわよ

    しつこくつけ回す法も恋の手口

   ねぇ愛してるといって?

    チェーンをはずしてくれたらすぐに






  72 叛逆






頭を押さえ付けられた男がいた

指の関節、汗、後頭部の髪の毛を引き抜く力・・・・・・

それがその男には映像でも見るように感じられた

そしてそのてのひらは 岐路であり 

ただひとつの暗示をつたえる光であった

そう そして男は闇の中でふっと息遣いを感じた

ハンマーを持った男は 力いっぱい ひと思いに

振りおろそうと鬼の形相をする

閉め切られたこの家では 黒塗りのマスク

銀行強盗が顔をおおうような その男の頂点部に

ハンマーを持った男は 片足を棺桶のなかに入れるように

ひっそりと その表情を悪魔めいたものにかえる

その男にとって この瞬間のみの生々しいデス・マスク

そのこころの中を ヒッチコック映画が支配する

うかびあがる筋肉と血管と

しずみゆくメドゥーサの髪

カラバッジョの見せた劇的な照明法は

いったい何を伝えようとしているのであろう

たしかに 漆黒の闇のなかにうかぶランプは

あやしくもあでやかに 人のこころの通路を照らす

その内面をおどろくほど 浮き彫りにしてみせる

雷雨の電光によってうかぶ 町の奇怪のように

この血なまぐさい一瞬は パントマイムで表現される

スロー・モーションのうちに 物語のなかへ曳きこむ

そう 真っ暗闇の洞窟の中に見事な動物がいて 

人間がとうとうここまで追い掛けてきた

ちがう それは石器時代の狩猟のワンシーンだ

その再現に彩色せよと野生の本能がめざめる!

さあ農夫に鞭をふるうように

墓の中のそいつを殺さんと企むように

ああ容赦なく そいつを殺せ!

まぶしい朝が来るまでに

チャンスはたったの一度だけ






  73 地球盗マル






アルヒ エイセイ カラ ノ ツウシン

ガ トダエテ シマッタ コショウ カナ

ト オモッタ ヤサキ ニ デンパジャック

サレ ソコ ニ ウチュウジン ガ 



チキュウ ヲ ヌスマセ テ モラッタ

ト イッタ セカイゼンド デ オナジ

ヨ ウ ナ ハツゲン ガ ナ ガ レタ

シンリャクシャ ノ テ ニ ヨッ テ



ダガ カレラ ハ ケッシテ ヨウキュウ

ヲ シナイ アタリマエ ダ チキュウ

ヲ ヌスム ヨウ ナ コウド ナ ブンメイ

ト コウショウ スル コト ナド デキナイ



ダガ カレラ ハ ヌスンダ ワケ デハ

ナ イ ノダ チキュウ ノ アオサ ハ

ソノ キョジン ノ オンナ ニハ オドロク

ホド ヨク ニアウ ホウセキ ノ ユビワ






  74 夏






ピストルの音がきこえる

運動会は秋ではなく夏のこと

もくもくとした入道雲

誰があの綿菓子を食べるのかしら?



みずあびをすませたいぬが

ブルブルブルルンとする

鴉の濡れ羽いろめざして

陰影をふかめていこうとする



首輪をひきぬいていった

そんなわけのわからない

おにごっこの眼がいたくて

君の服がやぶけている



ガソリンスタンドでエネルギー補給

ウルトラマンのぴこぴこランプ

こんなにおいしいものほかにある?

光がどんどん蜘蛛の子を散らしていく



飼い犬は飛びかかってくる

いとしいご主人さまめがけ

助走路と化した砂浜に

飛び石のような跡をのこし



しきりにニイニイゼミや

ヒグラシを捕った

草叢のなかでバッタをとり

チョウチョの残像を追った



UFOキャッチャーの手に

むんぎゅともちあげられて

こらこら 甲高い笑いごえ

ようやく呼吸がいりまじる



硝子建築からはなれないでいる

さん・ わすれないでいる 

よん・ なかなか しねないでいる

まだまだ湯気にねむるアクセルGO



もうすぐ我が家につづく赤信号ウ

会社の出入り口から仕事がきえる空間に

はこばれてくる風と陽射しと洗濯もの

すべてしずんだあとの かげのカバー



刈ってはいけない!

いま夏が孵されていく 飛び立って鳴く

ゆめゆめ思わないようなかっこうで
もてな
馳走しをうけているらしい犬の笑顔



ついついお腹を足で踏みたくなる

お前のこころをまさぐってみたいな?

うひーん うひゃあーん・・・・・・

こんな銃弾で 戦争をしてみたくなるから


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