鍋には金をかけるべし!! 其の一
十五年ほど前、初めてビタクラフトの片手鍋を購入したときは、崖から飛び降りるような気がしたものだ。 鍋に1万以上だぁ~!? 正気の沙汰ではない、と思っていた。 家族全員どっちかと言うとズボラ型。お歳暮だか何かで銅鍋を貰った時、一日カレーを入れてただけで、もうアウト。味は変わるわ、鍋は錆びるわ変色するわ。高級な鍋なんて一般人には無用の長物と、一発で固く信じ込んで疑わなくなった。 だから親友がこの手の鍋のセールスを始めた時、大丈夫かいなコイツ、と冷やかに見ていた。当然、買おうなどとは思いもよらない。 鍋に対する考えが急に変わったのは、アルツハイマーの研究記事とミートソースのせいだった。 「アルツハイマー症の患者の脳の患部には、アルミが溜まっている」というような意味の記事(すみません、何年も前なんで正確には覚えてません)で、アルミ鍋はもとよりアルミ箔まで毛嫌いし出したのが一つ。 自分でミートソースを作っていて、薄手のアルミ鍋に穴を開けた&超厚手(1cm以上)のアルミ鍋は、ミートソースやトマトソースを作るたび、一皮ムけたように銀白色に美しく輝きを増すという、オソロシイ事実がその次。 その頃、大学の図書館に置いてあった『微量元素』という本を、門外漢のくせに読みふけっていたのだが、「アルミニウムは最もありふれた元素の一つでありながら、なぜか生物がまず利用していない」というような、極めて人を不安にさせる内容の記述……。 いかーん、アルミはひょっとするとメチャヤバイかも知れん、と勝手に思い込み、それ以外の鍋を探せば、そりゃ、ステンレスの鍋に最も多く行き当たりますわいな…。 ところが、これが料理してみると余りおいしくない。煮込み料理など、どうやっても1cm厚のアルミ鍋に勝てない。なんでだろう~。違うというと、熱の回り具合か保温性か……。 探究心(もとい食い意地とも言う、この場合)に負けて、ビタクラフトに手を出した。 使ってみて驚いた! 根菜の火の通りの速さが全く違う。半分以下の調理時間で済む。これが遠赤外線の力ってヤツか、とひたすら驚嘆した。 水気ほとんどナシで野菜が茹でられる。これは好みの問題で、実は私は余り利用しないのだが、本当に宣伝通り、味の濃い、栄養価の高い茹で野菜ができる。 何を調理しても美味。しかも時間がかからない。もう、理屈の問題ではない。本当に美味いのだから仕方がない。米を炊こうが、煮物を作ろうが、肉を焼こうが、何をしても美味しい。目からウロコである。 「これで1~2万円なら安いっ」と完全に感覚がイッてしまい、高級ン層構造鍋遍歴が始まった……。