≪インド≫国境の街・ラクソール≪九月十四日≫ -燦-橋を渡りきると、インド側の監視所があり、同じ手続き(入国手続き)をす ることになる。 荷物は馬車に置いたまま、いつ馬車に逃げられるかと思うと心配にな る。 馬車の方を見ながら、渡された書類に書き込んでいくという、落ち着 きのない入国手続きとなる。 馬車と御者のじいさんは、俺が手続きを済ませるまで、暗闇の中でジッ と待っていてくれる。 外が真っ暗なせいか、監視所が暗闇の中に浮かび上がって見える。 荷物も調べない、簡単な手続きを済ませると、じいさんの待っている 馬車に戻った。 俺「じいさん!どこか近くのホテルまで行って よ!」 じいさんは、分ったのか・・・・わかっていないのか、馬に鞭 を入れた。 監視所を後にすると、周りがだんだん寂しくなってくる。 星が出ていればもっと明るいだろうに、月明かりもない暗闇の中を、 馬車はしっかりとした足取りで進んで行く。 馬車とは言え、後ろに荷車のような荷台をつけていて、その上に後ろ 向きに座って乗っている。 道が悪いのか、揺れまくる。 ネパールの国境の街”ビールガンジー”が、だんだんと遠うざかって 行く。 * どのくらい馬車に揺られただろうか。 灯りが少し漏れている建物の中に、馬車は吸い込まれていった。 ”○○○ Lodge”と書かれてある。 暗くてよく読めない。 御者「着いたよ。」 俺 「有難う。・・・・で、いくらだい?」 御者のじいさんは、手のひらを広げて、そこに指で数字を書き 始めた。 御者「12+8」 俺 「その”8”ってのはなんだい?」 御者「国境で二度も待ってやったチップさ!」 俺 「OK!有難う!」 御者のじいさんに、20Rs(680円)渡すと、じいさん嬉しそうに 礼をした。 たぶん、正規の値段の三倍ぐらいの金額を渡したのだろう。 でも、俺はあの暗闇の中、俺の荷物をしっかりと守ってくれていたじ いさんに、感謝の意味も込めて、三倍の料金を渡したのだ。 早速、ロッジのサービス係りの人が来て、部屋に案内される。 気のせいかも知れないが、ネパールと比べて態度がでかいような気が する。 とにかく、今晩はここで泊まるしかないのだ。 シングルベッドが二つ置かれてあった。 部屋の汚さと造りは、カトマンズのロッジとあまり変わりないが、頑 丈さと部屋の広さはここが良い。 とは言え、まるで刑務所にでも入っているような心持なのはどういう 事なのか。 いやいや、日本の刑務所は,ここよりずっと待遇も設備も良いはずだ から、それ以下なんだろう。 何日も泊まれる部屋ではないと言える。 * 部屋に荷物を置いて、ビスケット以外の食事にありつくことに なる。 インドのお金は5ルピー(170円)しか持っていない。 とにかく両替をしていないので、部屋代も払えない。 明日まで待ってもらうことにした。 ホテルのレストランも暗くて嫌になってくる。 その上、あまり良いものを食べれない。 何しろ、5ルピーでは、ろくな物が食えないのである。 空腹だったので、アッ!という間に平らげてしまったが、スープは不 味くて食えたもんではない。 簡単な食事を済ませて、外へ出ようとしても、外は真っ暗で一 歩も足を踏み出せない。 身動きが取れないのだ。 今自分が何処にいるやら、全く分らない始末なのだ。 まるで機能を果たさない電球と扇風機。 サービス係りの青年が、ローソクを部屋まで持って来てくれた。 頼りはこのローソクの明かりだけ。 窓の外を見ると、影のように薄っすらと見え出した。 暗さに目が慣れてきたせいだろう。 建物の外は湿地帯のようで、蓮の葉のような植物が群生しているよう に見えた。 荷物からシュラフを取り出して、シュラフのなかに潜り込む。 何時だろうか? 時計は九時を指しているが、この懐中時計もあまり当てには出来な い。 バスで山道を十時間も揺られたので、今夜は汚くても虫が身体の上を 這おうと、顔の上を踏みつけようと、ぐっすり眠れそうだ。 まだ、身体が揺れている。 ”それでは、お休みなさい!” =インド= 「好きだ!と言う人と、嫌いだ!と言う人の、この くらいはっきりと分れる国も珍しいでしょう。好きだ と言う人は、インドの美しい自然と荘厳な遺跡を、パ ック旅行や飛行機で旅してきた人たちです。 嫌いだと言う人は、悪夢の三等列車に乗ってきて、 インドの最下層級民と、じかに触れ合って旅をしてき た人たちでしょう。 街では綺麗なサリーを着込んだ婦人が、大根のよ うな腕を出して歩いている道端に、鉛筆くらいの細い 手足をした、貧民がボロを纏って寝転んでいる光景 に、きっと君達は考え、悩む事でしょう。 カースト制は、昔と同様絶対的なもので、貧民に生 まれた子は一生貧民でしか生きていけないのです。 この国の人力車夫の一日の稼ぎは300円です。 ところが、子どもが物乞いをして稼ぐ金も、大都市 ではそのくらいになります。 子供は一家の収入を大きく支える宝として、親が子 に頼り、そのため食べる物がなくても、親はドンドン 子供を生み続けるのです。 通貨は、インドルピーです。 US$1≒8.8Rp・1Rp=100パイサ≒34円 インドの宗教はヒンズー教・イスラム教・キリスト 教・仏教・ジャイナ教・シーク教・拝火教などがあり ます。 ヒンズー教は、インド全人口の80%以上と言われ、 派が多数に分かれています。 第二の宗教がイスラム教で、一千万人を越えると言 われています。 キリスト教・仏教は、一パーセントに満たない少数 派なのです。」 ジャンル別一覧
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