2008/06/14(土)12:05
【本】俺たち文化系プロレス DDT
俺たち文化系プロレス DDT
高木三四郎太田出版1575円Amazonで購入
書評/ビジネス
この本には期待していなかった。私はプロレスはあまり好きじゃない。小学校の時に親がテレビで見ていたのを横で一緒に見ていたぐらいだ。ましてやプロレス会場に行ったことはなかった。中学校に入って、「プロレスにはシナリオがあってそのシナリオに沿って演技をしているだけだ」という話を聞いて、裏切られた気持ちになった。命をかけて戦っていると信じていたのに、実はそのように見せるだけで中身がないというのは許せなかった。中学校のときは世の中が良くなってほしいというという気持ちが先走りしていて、世の中が薄汚く汚れていると思い、その一つがプロレスだと思っていた。友だちがテレビで猪木などのプロレスの話題をしたり、プロレスごっこをしているのは嫌気がさした。「どうせ、適当に演技をしているんだろ」と。大人になって、いろいろな大人の事情が分かってきた。世の中には汚いこともあればきれいなこともある。それが混じり合っていて、見方を変えれば何でもできておもしろいし、別の見方をすれば競争が激しくて大変な世の中だと見える。もし自分がプロレスをやるとすると、身体を酷使して事故を起こさないようにするのに、どれだけトレーニングを積んで大変なことかと捉える事ができる。そう思いはじめると、プロレスに対して先入観はなくなった。私も著者の高木さんと同じように、アメリカのプロレス団体WWEを初めて見たときに感動した。こんなにわかりやすい演出で、人を楽しませるという手法に驚いた。表現者のすべてを表現して人々を楽しませている。虚構なのだが、とことん虚構を演じているので、どこが真実なのかわからないというところがあった。団体の社長、奥さん、娘が総出演でプロレスラーであり、浮気役も、いろいろ日常的な話題をすべてプロレスに入れて、問題解決はお互いにプロレスで戦って決着をつけるというめちゃくちゃなストーリーだ。ミュージカルや演劇、オペラなどの話は、日常的ではない。あちらの世界の話に、美しい俳優と演劇、音楽の混じった話だ。コメディは日常生活の中で「ばかだなぁ」と思わせて自分を高くさせるというやりかただ。このWWEは、あちらの世界の話をこちらの世界につなげて、最後はプロレスというやり方であちらの世界に昇華させる。 日本のプロレスはぅっと、あちらの世界になっていた。プロレスファンはみんなプロレスラーを尊敬していて日常的ではない。著者はそれを日本で最初にやり、さらに日本独自の路線を進めようとしている。 よくよく読んでみたら、プロレスの本じゃない。起業の本じゃないか!!プロレスという既存の市場で、ニッチを狙い新しいプロレスをしかけていく。顧客層も分析して、中間業者を挟まず直接お客と接する、インターネット戦略だった。 著者の高木さんは、大学の時からイベントプロデューサー的な仕事をしており、親分肌である。彼が自らプロレスラーとしての素質がある。イベント屋としての企画力、プロデューサー能力がある。人を束ねていくマネージメント能力がある。時代のチャンスもあるが、彼がここまでプロレス団体を率いてきたのは大変であったが、彼でなければここまでできなかったろう。 ちょっと持ちあげすぎたので、本の中を読んでいく。・DDTを立ち上げたとき 無名の時で、自ら興業をするには資金も人も何もない時代があった。屋台村やビアガーデンでの興業をしたり、他の団体と一緒になって模索していく。その中で既存のプロレスのやり方を離れ、顧客重視のエンターテイナメント志向でイベント的な色彩を加えていくという独自のスタイルを打ち出す。逆にいえばプロレスの技において有名プロレス団体には勝てないという弱みから、強みを見出したのかもしれない。・成長期だんだんと有名団体と一緒に興行し始めて、有名プロレスラーと絡み、名前が知れ渡り規模が大きくなっていく。ただ最初のファンが離れる。団体の性格が変わったのでしかたないと思わず、別のブランドを打ち上げて最初のファンの受け皿の用意をするいまもどんどんあらゆる可能性に対して挑戦していっている。