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カテゴリ:生物
ピンクサーモンの激増、生態系に影響 太平洋に生息するピンクサーモン(和名:カラフトマス、学名:Oncorhynchus gorbuscha)の個体数増加が確認された。その勢いは他の生物の生存を脅かすほどで、原因は気候変動だと指摘されている。 サケ類の個体数は1970年代から増加を続けている。2009年、アジアと北アメリカの母川に回帰したピンクサーモンは推定6億4000万匹という。 最新の研究によると、サケや海鳥のエサの繁殖につながるベーリング海や北太平洋の水温上昇が関係している。そして、増加の影響は、「従来の想定よりはるかに大きい」。 研究を主導したアラスカ大学フェアバンクス校のアラン・スプリンガー(Alan Springer)氏は、勢力範囲が急拡大したピンクサーモンがエサを独占、海鳥の個体数減少につながっている可能性を指摘している。 また、同氏はメールでの取材に対し、「外洋の生態系は未解明の部分が大きいが、野生と養殖に関わらず、サケが及ぼす影響も考慮しなければならない」と答えている。 ◆海鳥のコロニー 魚と鳥の間で繰り広げられるエサの奪い合いを調査するため、研究チームはベーリング海とアリューシャン列島に生息する海鳥のコロニーに注目した。1984年から観察しているコロニーには、ピンクサーモンの増加と連動した変化を確認できたという。 特に海鳥の繁殖状況と、ピンクサーモンの2年サイクルの生活史がリンクする点に着目。サケの個体数は、2年周期で自然変動することがわかっている。 調査の結果、サケの個体数が増える年には、ミツユビカモメやツノメドリの繁殖率が前年より著しく低下する関連性が判明した。種によっては産卵数が5割も減り、卵の孵化も遅れて、ヒナの生存率が低下する。 影響を受けた海鳥は、動物性プランクトンからイカやホッケまで何でも食べる雑食性が特徴だという。これはサケの食性とちょうど重なっている。 研究チームは、海鳥の繁殖状況にはピンクサーモンが大きく影響していると結論付けた。 ◆「驚異的な増加」 アメリカ、ワシントン州シアトルの海面漁業コンサルタント会社、ナチュラル・リソース・コンサルタンツ(Natural Resources Consultants)で太平洋サケを研究するグレッグ・ラガロン(Greg Ruggerone)氏は、今回の研究成果を意外と受け止めていない。 同氏は今回の研究に参加していないが以前、ピンクサーモンの影響について問題提起をした経験がある。この魚種にエサを奪われ、同じ太平洋サケであるベニザケの個体数がアラスカで減少していたからだ。 「1970年代以降の驚異的な増加を、海水温の上昇にからめて説明するのは難しい」とラガロン氏。しかし、春に海へ下る稚魚の習性が謎を解くカギとなるかもしれない。 「稚魚の生存率が、全体的な個体数に大きく影響する」という。水温が高い春はエサが多く、サケの新陳代謝率も向上、豊富なエサを背景に成長のスピードが上がる。 最新の研究によると、2年目のピンクサーモンは約4カ月にわたりエサを大量に摂取し、500%も体重を増やすという。海鳥たちの産卵期と重なるこの4カ月間が問題を顕在化させた。 サケの激増によって北太平洋のエサが枯渇すると、ほかの海洋生物にも直接的または間接的な影響が及ぶ。個体数が回復傾向にあるセミクジラも、無関係ではいられないだろう。 今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に3月31日付けで掲載されている。 増えすぎて困っているのなら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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