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カテゴリ:リサーチダイビング入門
潜水士は、使う潜水器がどのような種類であろうとも、ヘルメット式潜水器でも、スクーバでも、フルフェースマスクのフーカーでも潜降索を使って潜降し、浮上しなければならないという決まりがある。 高気圧作業安全衛生規則 (さがり綱)規則では潜降索のことを「さがり綱」というヘルメット潜水用語で規定している。 第33条 事業者は、潜水業務を行うときは、潜水作業者が潜降し、及び浮上するためのさがり綱を備え、これを潜水作業者に使用させなければならない。 2.事業者は、前項のさがり綱には、別表第2(減圧表)の「浮上」欄に掲げる水深ごとに水深を表示する木札又は布などを取り付けておかなければならない。 この潜降索の規則は、元来ヘルメット式潜水器の安全のために設けられた。ヘルメット式潜水器で、特有の事故は墜落と吹き上げである。BCやドライスーツを使うスクーバでも墜落と吹き上げの問題はあるが、ヘルメット式ほどは厳しくは無い。ヘルメット式で潜降する時、スクーバのように前傾姿勢で、浮力調整をしながら降りると、もしもバランスを崩して墜落すると事故になる。墜落を防ごうとして空気を服に入れると、今度は潜水服が風船球のように膨れて水面に吹き上がる。 スクーバでも初心者がバランスを失って、お尻から海底に落ちたり、BCとドライスーツの空気を抜ききれないで水面に跳び上がったりすることがある。急浮上は、肺破裂のおそれがあるし、墜落は耳を傷める。 だから、スクーバでも初心者の講習では潜降索を使い、潜降索につかまって潜降浮上の練習をする。現在のスクーバは、中世浮力で行動するものだから、練習して、中世浮力維持の技術を身につけなければならない。数日の練習で習得できる。 ヘルメット式潜水器は、元来、海底を歩く潜水器である。いったんバランスを崩すと、立て直しにくい。だからこそ、ダイバー、ヘルメット潜水夫は、中性浮力で、水中に浮かび上がり、今のスクーバのフットファースト、(足から先)の潜降のように、前傾姿勢で降りたがる。また、これが出来なければ一人前扱いしてもらえなかった。 読売ランドの水中劇場の発足当時のことを前に書いたが、プロデューサーの近藤玲子先生は、ヘルメット式潜水器を出演させたいと言う。名人だと言われた、千葉県大原の大野さんを呼んで来ようとした。名人はもう、引退したからと、息子さんが来た。30代だったけれど、彼も名人だった。水中劇場の水深は11m、底の方は、観客席からは見えない。底からせり上がるようにして登場し、水深5mあたりで演技する。大野さんは、5mの中層に浮いて、ロックを踊った。 しかし、名人ではないダイバー、特に初心者は、バランスを失って墜落し、吹き上げられ、事故を起こした。事故を起こないように、潜降索を伝わって、潜降と浮上をしなければならないと規則に定めた。だから、潜水士テキスト(旧版)に述べられている潜降索は、潜水士船の梯子の傍らから、船から吊り降ろすようになっていて、潜水士が浮上する時、状況によっては、潜降索に掴まって船の上から引っ張り上げてもらうことも規定されている。この潜降索を潜水器の種類の如何にかかわらず使用しなければならないと言うのだから、めちゃくちゃである。労働安全衛生法は、必要な法律だし、規則によってダイバーの安全も守られることもありがたいことだけれど、その規則、そのテキストが論理的にめちゃくちゃなのは困る。ヘルメット式潜水器の潜降索と、フィンをつけることもあるフーカー式の潜降索は、別のものであるし、自由に泳ぎ、中性浮力で活動することが殆どである現代のスクーバでも、別のものであるべきだ。 かつて、魚のように自由に泳げる。ホースに拘束されない自由が売り物で、スクーバは職業的な潜水士以外の、科学者、写真家、そしてレクリエーションのための潜水機として、潜水機の主流になった。現在、作業潜水のための潜水機として主流になったフーカーも、開放式スクーバの支流である。 墜落、吹き上げの心配が少なく、自由に昇降できる。だから、潜降索など不要とスクーバダイバーのほとんどが考えた。なにしろ、規則には「さがり綱」である。だから、国家試験の問題にも、ことさらに、潜水機の種類を問わずに潜降索を使うようにという記述になった。しかし、これは、この規則が出来た時には、スクーバのことなど考えなかったから、33条でヘルメット式と特定しないでも、潜水と言えばヘルメットかマスク式にきまっていたからで、スクーバダイバーとしては良い迷惑だと考えたものだった。 例えば、インストラクターは、潜水士だからさがり綱を使わなければならない。そのインストラクターのお客は潜水士ではないから、さがり綱を使わなくても良い。それに岸からのエントリーの場合はどうする。いくつもの矛盾がある。このことに限らず、潜水士のテキスト、そして、規則は矛盾ばかりだ。論理的な思考ができる人は、迷ってしまって合格しないかもしれない。 そこで、潜水士の国家試験準備講習では、「潜水士テキストに書いてあることは、実際の潜水とはちがうことが書いてあるかもしれないけれど、これは、潜水士ワールドでのことであり、国家試験もこの潜水士ワールドの中から出題される。」しかも、潜水士ワールドは、現在と、40年前がごっちゃになっている世界だと前置きしてから講義をはじめるようにしている。 しかし、ヘルメット式潜水のさがり綱はそのままスクーバに使うことはできないが、潜降索は、スクーバダイビングの安全確保のためにも重大な役割を果たす。できることならば、潜水士のテキストでも、スクーバダイビングのための潜降索を別に定義してほしい。 スクーバダイビングのことを知らない人がテキストを書きなおすと、またまた混乱になるが、最近の問題集などみていると、誰だか見当はつくけれど、スクーバを知っている人が執筆している。少しは期待ができるかもしれない。 テキストが改訂されるまで、こちらはこちらで、目印ブイも、ダイビングポイントでボートが捕まるブイも、そして、ダイバーが水面に上げるシグナルブイも勝手に潜降索だと拡大解釈して、潜水士であるインストラクターも、潜水士ではないお客も潜降索を使って潜水をしているということにしよう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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