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カテゴリ:西忍寺道場
きのうの稽古日誌を書きます。
きのうの柿崎のお天気は晴れ。 しかし、気温は低く、寒い一日でした。 桜は散って、葉桜となっていまいた。 今回のメンバーは、N師範、O大師兄、私の3人でした。 最初は基本の定歩崩拳、馬歩穿掌、握拳。 次に太極拳対練を行いました。 最初は行気~打擠。 今回の私のテーマは、自分の背中の後方からワイヤーで引っ張られているという イメージを使って技を行うこと。 こうすると前に進もうとする力と後ろに引っ張られる力が拮抗して、中立で いられるからです。 また、相手は攻撃するときにこちらに圧力がかかりますが、こちらの後ろへ 引っ張られているというテンションを感じると、無意識に後方に止まる力が働き ます。 つまりお互いに前と後ろにテンションがかかったままつり合う形になります。 お互いがバランスをとったまま攻防を繰り出し、こちらが主導権をとっていくと、 相手は球体の一部となって回らざるをえなくなり、結果として崩れたり飛ばされたり しやすくなります。 予想通り、相手は大きく崩れやすくなり、吹っ飛ばされやすくなりました。 次は琵琶勢。 これは相手の右中段突きに対して、歩法で左に躱し、右前腕でかきわけるように 受け流すのですが、歩法を行う時に、丹田が先に移動して、手足がそれについていく イメージを使い、さらに重心を丹田に集めながら、自ら右斜め後方に崩れるように してみました。こうすると、相手の攻撃した右腕にこちらの重心が乗ることになり、 相手の重心は下方に崩れます。 そして、相手は態勢を崩しながら、左中段突きを打つわけですが、この時丹田を左斜め 前方から、右斜め後方に移動させます。これは自分の態勢が崩れているので、しかた なく立て直すという自然な動きです。 この自然な動きの中で相手の拳を後下方に引き、肘関節を極めます。 このとき、左手で相手の左手を後下方に引くときに、手首を掴んで引くのが基本ですが、 今回は触れているだけでつかまずに相手を後下方に崩すことができました。 これは自分の態勢を立て直すための動きのなかで、相手の腕を導いたもので、いわば、 「しかたない動き」です。 「しかたない動き」は動き始めもこちらの意図も相手は察知できず、「しようがなく」 技にかかってしまいます。 次は攬雀尾。 相手の右上段突きをこちらは右螺旋掌で斜めに切り上げるようにして受けるのですが、 自分と相手の間に大きなボールがあって、その上に自分の両腕を乗せるようなイメージから 受けると、相手は、こちらの腕の重みに耐えられず、大きく崩れます。 このとき、左右の肩甲骨を浮かべるのが先生の技の特徴だと思うので、このイメージは常に 持つようにしたいと思いました。 次は双履双按。 これも同じようにボールの上に腕をのっけて、肩甲骨を浮かべた状態から左右に腕をかき わけると、すばやく重い受けができます。 次は単鞭。 鉤手で相手の攻撃を受けるとき、小指と薬指を立てた鉤手で受け流すとスムーズに相手の腕 を巻き落とことができます。 次は左搬攔。 これは後ろからワイヤーで引っ張られているイメーで行うと、相手を手玉にとるような感覚 になります。 午前の部は終わりです。 いつもは私は午前中で帰り、午後はN師範にお任せするのですが、今回は久しぶりに午後も 稽古をすることにしました。 昼食を食べながら、先生のお話を聞きました。 お寺のお御堂で、こうやって3人で先生のお話を聞くのも久しぶりです。 先生はお話が終わると、「まあ、ケガのないようにやってね」と言ってお部屋に戻っていかれ ました。 午後の稽古は、N師範が先週、私が帰ったあと先生から習った技を教えてもらいました。 八卦掌の用法でした。 四苦八苦しながら稽古をしていると、先生がやってきて「お、先週のやつやってるな」と 言って、お手本を見せていただきました。 「八卦掌はね、太極拳とちがってスピードが大事。いかに力を抜いてスピーディーにパパッと やるかなんだよ」と解説していただきました。 最初の技は相手の右上段突きに対して、こちらは右螺旋掌で受ける。 すかさず左跳掌で相手の腕を上方に跳ね上げ、右足を相手の両足の前に進めながら、右掌で 相手の胸を押す。相手は、後方にひっくり返る。 最初、先生がN師範に技をかけました。 しかし、なぜ、胸を押しただけなのに後方にひっくり返るのかわからない。 N師範が先生の顔をたてるためにひっくり返ってあげたのか? いや、N師範はそんな素直でかわいらしい性格ではありません。 先生は引き続きO大師兄に技をかけました。 やはりN師範と同じように後方ひっくり返されました。 O大師兄も先生だからといって遠慮するような性格ではありません。 それに何より体幹が強いのです。 そのO大師兄がのけぞりながらひっくり返るのです。 そして私にも技をかけていただきました。 私は先生より上背があり、体重も重いのですが、胸を押されただけなのに見事にひっくり 返されて倒されました。 まったくわけがわかりません。 普通、胸を押されたなら、後ろに飛ばされるならわかりますが、その場でひっくり返された りはしません。 しかも、何の抵抗もなく胸から上が天井を向いてしまうのです。 こうなると、わずかな力で、頭から落ちていくしかありません。 しかし、何回か先生の動きを見ていくと、跳手で相手の右腕を跳ね上げたあと、その腕を 巻き落としながら相手の右外側後下方、相手のわきの下がおよそ45度くらい開く程度の所 に移動させていました。 このとき相手の右腕には、こちらの左腕の内旋した螺旋が伝わり、巻き落とされた時には、 胸から上がのけぞってしまうわけです。 しかし、ここで左手で相手の右手首を掴んでしまうと、相手の上半身に力みが生まれ、相手 はのけぞらなくなってしまいます。 ところが相手の手を掴まないで、触れるくらいにしておいて、自分の浮かべた肩甲骨から肩 の動きが螺旋状に手に伝わって、胸から上だけがのけぞるという現象が起きます。 そののけぞった胸に右掌を柔らかく当て、やや下方に力を加えると相手は支えきれずに、頭 から落ちていきます。 このへんのところを先生はこう説明されました。 「この左手ね。これ掴んじゃいけないんだよ。掴む風(ふう)でなきゃね。」 名言だと思いました。 次に先生は同じ動きで、今度は相手を後方に吹っ飛ばしてしまうやりかたを見せていただ きました。 N師範もO大師兄も私も、放たれた弓のように後方に吹っ飛ばされました。 さきほどの技と違うところは、左手が相手の右腕を巻き落とさずに、空間に浮かべている こと。右掌を相手の胸に当てるときに、右足を少し高めに挙げて、相手の両足の間にふみ こむところです。 しかし、この掌の当て方が、私の理解を越えていました。 よくブルースリーがワンインチパンチと称して寸勁を披露している動画を目にします。 相手に電話帳みたいなものを胸に当てさせて立ってもらう。 そこにブルースが左腕を伸ばして、電話帳と自分の左こぶしの間にわずかな空間を作る。 ブルースの腰が瞬間的に回り、その力が肩肘腕を通して拳に到達し、電話帳を打つ。 こうすると相手は後方に大きく飛ばされる。 寸勁というものはこういうものだとだれもが認識していると思います。 それに対して明勁。 明確に相手との距離をとり、遠くから飛び込んで打突の瞬間に発勁する。 いずれにしても拳や手首に瞬間的な力みを見ます。 しかし、先生の掌打の瞬間にはまったく力みを感じません。 指先が、太極マークの陰陽を分ける曲線をなぞるように相手の胸に接近すると、打突 の瞬間に加速することもなく、動き出したときと同じ速さで相手の胸に届く。 そう、それは当てるのではなく、届くという表現が適切だと思います。 それくらい自然で等速な動きです。 そして、先生の掌がこちらの胸に届いたら、何の抵抗もなく後ろに吹っ飛びます。 いや、後方に身体が放たれるというべきか・・・・。 先生が説明されました。 「みんな動きがね、遅いんだよ。こんなふうにパパパッと素早くね、やるんだよ。 力はだめだよ。力を抜いて、パッとやるんだよね。」 名言ですが、これはさすがに私の理解の範疇を越えていました。 当面の研究課題です。 頭をひねって何回やっても上手くいかないので、次の技に移りました。 相手が右上段突きで来たところを右螺旋掌で受けます。 その相手の腕を円を描きながら巻き落とします。 同時に右足を相手の右足の外側に進めて、左に向けて馬歩になります。 巻き落とした相手の腕の肘内側をこちらの右肘外側で軽くひっかけ、腰を左旋させて 相手の右前腕を抱えるような形にすると、相手はのけぞり、捻り倒されることになります。 これも相手の手首を掴んだり、肘を抱え込んだりしません。 少しひっかけたり、触れたりするだけで相手を倒します。 これは繊細な技ですが、理解はできました。 次の技。 相手が右上段突きで来たところを右螺旋掌で受けます。 その相手の腕を円を描きながら巻き落とします。 同時に相手の右足外側のこちらの右足を進めます。 同時に右螺旋掌を相手の右外側後下方の空間に突きこみます。 このとき、こちらの螺旋掌が下方に突きこまれる瞬間、相手の右肘内側と、こちらの 右肘外側が触れます。 つまりこちらの螺旋掌が相手のわきの下の空間を通過するときに、相手の右肘を相手の 後下方に連れていってしまうのです。 こうすると相手は右肘が自分の体幹を離れて後下方に連れられていってしまうので、 バランスを維持することができす、後頭部から落ちていってしまいます。 これも繊細な技ですが、理解はできました。 次は相手が右上段突き。 これに対して右螺旋掌で下方に押さえるように受けます。 このとき、小指を少し外側に張りながら押さえると、相手の上半身は前下方に崩れます。 そして右腕は内旋させられ肘が上を向くことになります。 左足を相手の左足の前に進め、同時に左手で相手の肘上から抑えると関節技が極まります。 関節を極めたまま、左手で相手の右肩に向けて押し、そのまま前下方に向けて押し放つ ようにすると、相手は顔から床に突っ込んでいくことになります。 これは不思議な動きでした。 先生に右螺旋掌で受けられただけで、こちらの右腕はねじられて棒のように真っ直ぐに なります。 そして、そのひっくり返った肘の上から左手を乗せ、相手を前下方に押していくのですが、 その左手の動きが、なんとも言えず独特でした。 まるで、大人が子供の前で大袈裟な動作をして笑わせるかのような動きです。 先生が説明されました。 「右手で受けたときには、もう技かかっちゃってんだよ。鎌、かかっちゃってるんだよね。 あとはどんなことしたってやられちゃうよね。」 これも名言です。 私の解釈では、右螺旋掌で受けた時に、肩甲骨が浮いていて、小指を外側に張ることにより、 相手の腕全体に、こちらの肩甲骨から腕にかけての重みが乗ります。 それで相手の腕にも螺旋がかかり、捻じられながら下方に巻き落とされる。 もうすでに腕は棒のようになり、左手はどんな動きをして相手の肘にのせようが、関係ない。 相手は避けようがないわけです。 なので、子供が笑うような大袈裟な動きをしても、相手には見えないし、逃げようもない。 ・・・・というふうに解釈しました。 先生の小指が外側に張るのを見逃さなかったので、なんとか理解できました。 以上で午後の稽古は終わりです。 あらためて先生の技の凄さを思い知りました。 技をかけられていても、まったく力がぶつからない。 手ごたえが有るようで無い。 無いようで有る。 とにかく動きが自然で柔らかい。 脱力して、ぶらぶらしたり、ひねりくねらせて鞭のようにしたり、そういった無軌道な 動きではなく、なにか動きの枠組みがしっかりあって、それでいて触れると抵抗感を 奪われる。 速さも一定で、急ぐことがない。 平面的な動きが一切なく、色々な角度から力が作用するので、対応できない。 見ていても、なんでそうなるのか簡単には理解できない。 理解できても、真似できない。 私ひとりがいかに理屈をこねくりまわしても、こんな技の使い方を思いつくはずもない。 今日は先生の凄さを、まざまざと見せつけられました。 八卦掌という武術、相手を掴んだり押さえつけたり、抱え込んだり、押し込んだりしない。 風のように相手の身体をすり抜けていき、いつのまにか倒されている。 この繊細で軽やかな武術の魅力も再発見しました。 みなさん、お疲れ様でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.04.10 20:00:51
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