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カテゴリ:小説
僕が2度目に綾女に逢ったのは5月の連休に入ってからだ。
この前と同じ交差点で信号待ちをしていると、僕の車の前に手を振りながら身を乗り出して走ってきた。 「この間はごめんなさいね、電話出来なくって」 窓越しに彼女の声が聞こえた。 僕は驚いて左側のウインドウを開けた。 「ねえ、乗ってもいい?」 「どうぞ」 僕はロックを上げた。 「ありがとう」 そういうとスルリと言う表現がピッタリ当てはまる仕草で、彼女は車に乗り込んだ。 「あたしあれから毎週土曜の朝ここで待てたのよ。アナタが通るのを」 白いワンピース姿の彼女は言った。 「こっちが電話するって言ったでしょう? でも携帯は壊れるし、手帳は失くすしで連絡できなかったの」 「だから待ってたの。逢えて良かった」 「わざわざそんなこと。良かったのに」 僕は言った。 「でも、エリスには伝えておいたわ。 アナタが探しているって。これこれこう言う訳でって」 「ありがとう。 でも、あれから直ぐに連絡が取れたんだ」 「ええそれも知ってるわ。アナタがダニエルでしょう?」 「何で知ってるの」 彼女の親密な話し方につられて、僕もかしこまった話し方をしていなかった。いつのまにか。 「メールの返信が来たっていってたわ。多分アナタだろうって」 「何でそこまで判るんだろう?」 「女の勘は鋭いのよ」 「ところで僕達は何処に向かっているんだろう?」 「何処だって良いわ。話の出来るところなら」 「了解」 僕は一番近いドライブイン・レストランに入り車を止めた。 店に入りコーヒーを二つ頼むと僕らは向き合った。 「色々気を使わせて悪かったね。礼を言うよ。ありがとう」 「アナタって礼儀正しいのねぇ」 「そうでもないさ」 「ところでこれは僕の憶測なんだけど君はエリスさんの姉妹じゃないのかな? もしかしたら双子の」 「この間は友達とi言ってたわね。確か。随分飛躍したみたいだけど?」 「実はまた夢を見たんだ。君がベッドで眠っているのをもう一人君にそっくりな娘が見つめている。そう言う夢」 「アナタいつもそうやって夢で物事を判断するの?」 「いや違う。ただこの間も夢の直後に君に出遭った。 それにここ何年も夢なんか見たことが無かったんだ。不眠症で薬を飲むからね。 ところがまた君の夢を見た。それも今度は二人も出て来た。 だから、もしやと思ってね」 「ふうん」 面白くもなさそうに彼女は言った。 「で、私がエリスと双子だと何か問題でもあるの?」 「もちろんないよ」 「ならどうだって良いじゃない」 「そう言われればそうなんだけどね、どうも気になって…」 「ねえ、アナタ今日このあと2~3時間暇は無い?」 彼女は僕の言葉を遮って唐突に訊いて来た。 「時間なら丸一日あるけど」 「ちょうど良かった。じゃ映画見に行かない?」 「君と僕が?」 「そう、もし今日もアナタに逢えなかったら一人で行くつもりだったのよ。 付き合いなさいよ」 「いいけど何で僕と?」 「映画なんて誰と行こうが、さして理由が必要なことでもないでしょう?」 「それはそうだけど」 「いいじゃない行こうよ」 あっけらかんとしたオープンな娘だ。 断る理由も見つからないので僕は誘いに乗ることにした。 「OK。行こう」 「あたし前から見たかったんだ。ドッペルゲンガー」 「ドッペルゲンガー?あの自分が二人居るっていう?」 「そう」 「そんな映画やってるの?」 「そうよ」 僕らは新宿まで車を置いて、電車に乗ることにした。 電車の中で綾女は言った。 「あの人、エリスは多分後一年しか生きられないの」 「え、どうして?」 僕は驚いた。 「何か重病なの?」 「理由は言えないけどそうなの。だから今日の映画を良く覚えておいて」 綾女は真剣に言った。 「良く分からいないな。映画と彼女の余命一年て言うのが何か関係有るの?」 「ええ、有るのよ。だからしっかり覚えておいて。それがエリスを救う道なの」 「今一つ理解できないけど、分かったよ良く覚えておくよ」 「必ずそうしてね。あたしはあの人を死なせるつもりはないの」 「うん」 僕らは映画館に着いてチケットを二枚買った。上映まで後十分だった。「だから今日の映画を良く覚えておいて」その台詞だけが僕の胸にこだましていた。 指定席に座るとすぐに予告編が始まった。 その間に僕は買っておいたパンフレットに目を通す・ ドッペルゲンガーを見たものは一年以内に死ぬ。 大きなキャッチコピーが目を引く。 そして役者の紹介と大まかなあらすじ。 主人公のライリーはある日もう一人の自分を見てしまう。 そして伝承に拠れば、自分の分身を見たものは一年以内に死ぬ。 ライリーは自分を救うべく、占い師、悪魔払い師、教会とあらゆる手を尽くして助かる道を探すが、一向に効果的な手が発見できずに時間が過ぎて行く。 そこに有る女が現れ。彼を救う道を教える変わりに100万ドルを要求するそして… と言う話らしい。 場内が暗くなり本編が始まる。パンフレットもの解説通り物語が進んで行く。 そして最初は相手にしていなかった女性の申し出しか、すがるものが無くなり、家族の幸せと自分を守るため ライリーは借金をして彼女に100万ドルの小切手を渡し自分を助けて欲しいと懇願するようになる。果たして彼を救う方法とは。 ドッペルゲンガーと自分自身の全身を鏡に同時に映し聖水を浴びることだと言う。 期限まで後一日と迫るその日彼はドッペルゲンガーを自分自身の前に立たせることに成功する。いよいよラストシーン。 女は大きな鏡を彼らの前に向けるライリーは聖水を浴び、鏡が目映く発光ししドッペルゲンガーは彼の体に吸い込まれて行く。見事合体を果たした彼は呪いから開放され死の呪縛を逃れる。そして家族と平穏な暮らしに戻って行く。八ッピーエンド。 それほど難しい映画ではない。が役者達の演技も冴えそこそこ楽しめるスリラーだった。 場内が明るくなり人々が立ちあがり始める。僕は綾女を促し立ちあがろうとすると、綾女の姿は忽然と消えていた。ずっと隣で座っていたはずだ。立ちあがる気配も無かった。 しかし、彼女は消えてしまった。 「だから今日の映画を良く覚えておいて」その台詞だけが僕の胸にこだましていた。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 夜中の2時に完成しました。11話。です。何かコメント頂けると嬉しいです。 ここまで書いて煮詰まってます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/05/05 04:35:52 PM
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