テーマ:ココロ(1186)
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もう1ヶ月で、またあの日が来る... 出張の移動の合間にも、時々そんな事を思い返して、気持ちが散漫になったり、去年のあの日の事を思い出したりしていた。 去年、あの日と同時刻に、部下のエリカは砂天狗を伊丹に連れて行き、プアゾンの香りを自ら身に纏って荒療治をしようとした。 そんなエリカの術数にハマって、不覚にも一瞬、エリカが25年前の8月12日に、伊丹に降り立つハズだった彼女本人に見えてしまった。 少なくとも、25年前には遂に彼女にいえなかった『おかえり』の一言を、極自然に、当たり前のように、エリカを介して伝えることができたような気がした。 エリカにすれば、悪意や特別な意図があった訳ではない。 もしかすると、自分を見出し、抜擢した砂天狗に対する恩義か忠誠心だったか、それとも、人づてに聞いた砂天狗の過去の話に何か心に思うところがあって、一緒に彼女を弔う気持ちが湧きあがったのかも知れない。 ともあれ、砂天狗はエリカのお陰で、失っていたあの懐かしいプアゾンの香りとともに恋人の思い出と再会して、25年間積りに積もっっていた心の整理ができたのだった。 けれども、昨年の伊丹からの帰路、エリカには一旦約束をしたものの、やはり御巣鷹へまでは足を運ぶことはできなかった。 そんな、砂天狗の心境を知るエリカは、『仕事が終わってから一緒に観ましょう』と『沈まぬ太陽』のDVDを差し出した。 エリカに、半ば強引に促されてブリーフィングルームでDVDを観た。 何も言葉が出ず、無言で部屋を出る砂天狗に、『あたしがお供しますから、今年は行きましょう』と、エリカは残酷な提案をした。 『わかった』と答えるまで、エリカは毅然と譲らなかった。 エリカのサマースーツから、プアゾンの香りが漂っていた。 ほんのかすかだけど、砂天狗が決して抗えない香りだった... お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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