Sさん 3(最後)
「Sさん」、「Sさん 2」の続き。彼女の家から帰ってきて、後悔のまま一夜を明かす。また一人ぼっちの生活だなと。私の対話の相手はやっぱり本だけなのだと。上品な家のお嬢様で、学校でも話を聞いてれば友達が沢山いて学校生活を楽しんでいる彼女、それに比べて私と来たらなんだろうかと。彼女に「仲良くしてもらっていた」のだと。そして、それを自分からぶち壊したのだと・・・その夜、本すら上の空で手がつかなかったように記憶している。翌日、彼女と少々顔を合わせるのが気まずかったが、バスを待っていると彼女から声をかけてきてくれた。そして、彼女とミスタードーナツで他愛無い話や本の話に明け暮れた。一見変わりなかった。そして、卑怯な私は「昨日はごめんなさい」の一言が言えず、彼女の優しさに甘えてまたいつものごとくお喋りしていた。その次も、その次も・・・だが、あの日を境に何かがお互い変わってしまったのは間違いなかった。話が途切れがちになるのである。本の話題で宗教的な問題等になると特に。丁度その頃から、私の生活が大きく変わる。学校でのいじめが再び酷くなってきていたのだ。教室に入れてもらえない生活。学校にきても、単位などそっちのけの連中が私を玄関から通してくれない。あっちは大勢で日替わりでいたが、私は一人。そうやって授業についていけず、私は学校に皆と同じ9時に通うのを諦め、朝は必ず遅刻して、帰りも早退する事が多かった。何故って、朝遅刻すれば学校には入れるから。だが、ほぼ毎日遅刻や早退をしていれば授業はついていけなくなる。また、授業中も妨害は酷かった。それでも授業中はまだ「安全」であったのだが・・・そうやって、私は何時の間にか学校よりも近くの大きな川原で勉強をし、本を読む生活ばかりを送っていた。(大学には進学したかったから)それを聞きつけたバイト先の店長が「その間働かないか?訳のわからない場所よりはマシだ」と心配してくれたとバイト先の人がこっそり教えてくれた。私はバイトに明け暮れる生活となる。そうやって、彼女とは段段合わなくなり、普通の高校生活を送っている彼女の話を聞くのは私にとって辛くなったのもある。そうやって私は彼女から遠ざかっていった。きちんと、彼女の部屋に訪れた日に私が無遠慮な言葉を発した事を謝罪する事もなく。何時の間にかミスタードーナツも行くこともほとんどなくなったが、バスで時々あえば一見仲良く談笑しながら帰ってきた。彼女は短大へ進学。私は経済的な理由で就職。そうやってお互い完全に時間がバラバラになった。高校を卒業して以来、彼女とパッタリ会わなくなった。母も、その頃は部署が変わり日曜日はお休みなので、Sさんの家族を見かけなくなったようだ。だが、彼女が短大に進学して2,3年たってから、Sさんの家族は近所でもほとんど見かけないという話であった。高校を卒業して4,5年位だろうか。Sさんの家族を家の近所で見た事がある。だが、Sさん家族(親、子供二人)以外にも5,6人の人たちと共に行動していた。私とSさんは目があった。だが、そこにはもうお互いの過去に共通点はないと私は感じた。お互い、しばらくなんとなく意識したが、どちらから声をかけるともなく、Sさんとその団体は去っていった。後日、母に聞いたら、その日はキリスト教の人たちが勧誘に家にやってきたとの事だった。「エホバの証人ってさ、輸血しちゃ駄目なんだよね。自分や家族が事故にあったらやっぱり輸血を拒否する・・・?」今思えば・・・彼女は「考えた事ない」ではなく、結論は出ていたのではないかと思う。「彼女にとっての信仰とはなにか」の意味がわからなくともだ。だが、それは当然私に答える必要などない。そもそも、私のあんな不躾な質問と宗教論に真摯に答える必要など全くなかったのだから。彼女の家族はその後ひっそりその土地を去っていったと聞く。彼女ともう会う事はないと思う。そうやって、私は大事な人を無くし、大事な人に今の今まで謝る事もなく生きてきている。いや、謝る機会もないだろうし、今あっても私はやっぱり「謝れない」気がするのだ。私が謝った所で、私はやっぱり神など信じれないし、宗教というものを必要としない。理解していない。理解しようと心底思っていない。だから、私が謝罪しても、その謝罪は通じないと思う。無理解ゆえの謝罪という事で。彼女と出会ってから20年近くが過ぎ去ろうとしている。<あとがき>2007/06/19、ニュースで「妊婦が輸血拒否で死亡/「エホバの証人」信者のニュースを見た。なんとなく彼女の事を書き留めておきたいと思った。