8月17日付 編集手帳
将棋のタイトル戦前夜、両対局者が立会人などを交えて会食したときという。故・大山康晴十五世名人は料理を一人前たいらげてステーキを追加注文し、それを食べながら「明日の朝は鰻(うなぎ)がいいね」と言って、対局相手の内藤国雄九段をげんなりさせた◆内藤さんが本紙で回想している。大山さんがのちに講演で明かしたところでは、前夜の宴席には常にわざと腹をすかせて臨んだそうで、旺盛な食欲も相手を圧倒する戦術であったらしい◆相手を呑(の)んでかかるか、呑まれるか、勝負とは何によらず厳しいものだと、つくづく思う◆夏休みも終わり、きょうから仕事という方も多かろう。棋士ならぬ身にも、記録破りの猛暑という手ごわい相手が待つお盆明けである。夏バテから濁点をとれば「夏果て」で、夏の終わりを指す季語になる。夏バテが先か、夏果てが先か、ここしばらくが濁音と清音のせめぎ合う終盤の難所だろう。大山流でステーキも、よし。鰻、またよし◆…と、ひとをけしかけておいて無責任だが、〈炎天へ打つて出るべく茶漬飯(ちゃづけめし)〉(川崎展宏)の句に心はひかれる。名人の足もとにも及ばない。
(2011年8月17日01時37分 読売新聞)
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最終更新日
2011.08.17 09:33:09
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