テーマ:本のある暮らし(3190)
カテゴリ:うた
父方の祖父は、本を読むのが好きな人でした。
祖父の家には本があふれていました。土間を上がりこんだところにはスチールの棚が4つあって文庫本がめいっぱい入ってました。一冊一冊、うらの白い広告のちらしを折り込んで作ったブックカバーをかけて、筆でタイトルと作家名を書きいれて、50音別に並べていました。 廊下においてある本棚には、円本の赤い表紙もちらほらと。古い岩波文庫のハトロン紙のはりはりした覆いは日にやけて、陽だまりの色に変わっていました。手に取ると、かわいて花びらのように落ちる。 その横には郷土資料と太平洋戦争もの。「きけ、わだつみの声」が何冊もありました。版が変わるたびに買い換えていたようでした。 寝室には植物辞典がならんでいました。植物記。きのこの本。私はここの本棚が一番好きで、小学校からかえると毎日のようにこの部屋に遊びにいって、寝転がって図版を眺めていたものです。 高校に入学したとき、プレゼントだって小学館の「日本古典文学大系」をくれたっけ。大八車にのっけて、二人して2軒先の我が家まで運びました。母親が「どこにおくの?」とあきれました。 祖父が亡くなったとき、お葬式の準備の大掃除で里帰りした叔母が祖父の蔵書を捨てようとしました。必死で止めました。蔵書一代は解っているけど、せめてお葬式が終わるまで待って。 「おじいちゃんの夢だったの。自分の買った本を全部並べてみてみたいって。」 祖父の棺に入れる本を親族を代表して一冊選びなさいといわれました。漱石の「こころ」を選びました。何の気なしに、祖父のお手製のブックカバーをはずせば、何の手習いだったのか、「静かな心」と筆がありました。この本でよかったのだと思った。本を棺にいれ、カバーは祖母の手に残しました。今は仏壇に供えられています。 叔母は本を捨てることかなわず暮らしにもどり、根性なし掃除べたの祖母と孫とは、古本のなか、にこにこ笑って話をします。 「人はお墓へ はいります、 暗いさみしい あの墓へ。 そしていい子は 翅が生え、 天使になって 飛べるのよ。」 金子みすず。繭と墓。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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