テーマ:本のある暮らし(3190)
カテゴリ:うた
今日読んでいたのは、楽譜。
ソナチネアルバム2に入っている、ハイドンのSARABANDE。 ピアノの前に座るのは、ときどき億劫。だけど、一度座って鍵盤に触れると、ふわり、さらわれる。同じフレーズを一時間弾き続けて、あきないときもある。 弱く。強く。あ、最後の音、雑になった。 もう一回、ていねいに。 ちょっと歯切れよく。 違うね、しっとりと。 遠くに響く感じ?近くに届く感じ? それとも、天に昇る。 言の葉はいらない。音色だけ、響け。消える音、どこへ? 一つの楽器で和音を奏でることのできるピアノは、孤独な楽器だと思う。 けれど、一番、好きな音。 音楽で好きなエピソードふたつ。 晩年の宮沢賢治。故郷花巻で、体力のおとろえた彼は、蓄音機に枕をつめて音楽を聴いたという。大きな音に耐えることができず、それでも音に憧れて、賢治は震える手で枕をつかんだのだろうか。背中を丸めて布団をかぶり、蓄音機を抱え込むようにして音を聞く賢治が、見える気がする。 そしてもう一つ。 後悔に沈んで花巻に居を移した、やはり晩年の高村光太郎は、花巻の谷でブランデルブルグ協奏曲を聴いたという。協奏曲は、谷にこだまし、幾重に響いて天に昇っていったという。 賢治に届いただろうか。千恵子に届いただろうか。 ピアノを弾く。手首がはねる。肩のうしろ、筋肉が収縮するのがわかる。 (あ、) そして指先から生まれる音。 かみさま、かみさま。 呼ぶ声がする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[うた] カテゴリの最新記事
|
|