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ライター大元よしき             “創意は無限”  

ライター大元よしき “創意は無限”  

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2005年06月28日
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カテゴリ:小説
今夜から十五夜連続で小説を連載します。
物語の舞台は湘南の鵠沼です。
第一夜は三話掲載したいと思います。
どうぞみなさま、十五日間お付き合いくださいませ。
それでは第二話の幕開けです。


小説 オータム~未来への風が吹く~
“秋の風 ”の2章

ケイは斜め横に突っ立っている、和哉の右手を引いて、
自分の横に座るよう促した。
和哉はニコリともせずに、ミネラルウォーターのボトルをケイに返し隣に座った。

和哉とケイは長身の部類に入る。二人とも黒を基調としたウエットスーツに、和哉は青、
ケイは赤のラインが鮮やかだ。
和哉は筋肉質で、一見精悍な感じではあるが、表情が乏しく神経質そうな顔が、
この男の内面を物語っている。

この無駄肉の無い体型からも、容易に想像できるが身体能力は高い。
中学、高校時代には、バレー、バスケットなどのチームスポーツのクラブにも入っていた
ことがあったが、どれも長くは無かった。

しかし、体を動かすことは、毎日欠かさなかった。
それは、成長期にあるエネルギーの発散という、能動的なものとは少し違ったようだ。
和哉はただ、クタクタに成りたかっただけだった。
毎日めまいの中で運動し続けた。
それはまるで自分で、自分を苛めているような姿だった。
周りの友人たちは、そんな和哉を不気味な存在として、徐々に遠ざかっていった。

和哉より2歳年上のケイは、サーフィンを始めてから9年になる。
兄の影響を受け、初めてサーフィンをしたのは高校2年の時だった。
何事にも移り気なケイは、それまでスイミングクラブに通っていた以外長続きしたものはなかった。
そのスイミングも選手になるとか、記録などにはまるで興味がなく、そんなことは無縁の世界だと思っていた。

ただ水と同化することが、最高に楽しかっただけだったのだ。
そんなケイだから、サーフィンにはまるまで時間はかからなかった。
ケイ自身も不思議に思うくらいサーフィンに惹かれていった。

「この海岸いいな」
ぽつりと和哉は言った。
言ってはみたものの、自分でもなぜなのかは解らなかった。
ケイと出会ってから、九十九里をはじめ勝浦、鴨川、または西湘の海にも入っている。
どこへ行っても、このような感じを受けた事はなかった。
和哉はこの海岸だけに抱いた、不思議な気持ちだった。

「へー、そうなんだ。今までいろいろな海に入ったけど初めてね、そんなこと言ったの。
感想もなにも無かったものね。
ここはね、鵠沼よ。そうね、ここは景観が最高にいいかな。
私の中ではね、ここが一番『湘南』というイメージに近い気がするな。
でも今日はあまり波が無いし、和哉にはどうかなと思っていたんだけど、来てよかった…
でもさっき言っていた景色って、江の島?それとも海岸線、もしかして富士山かしら」

「気のせいかもしれないから、もういいよ」
和哉はくどくど聞くなとでも言いたげな口調で応えた。
「そうよね、好きならそれだけで、理由なんていらない。『好き』は感じるものだものね」
ケイはその言葉を口にしたあと、それは自分に向けた言葉だったと気が付いた。
そう自分自身の納得のために。
 
風が少し強くなってきた。
富士も完全に雲の中に隠れてしまった。
時折風に乗った砂が和哉の頬を指した。
和哉は瞬きもせず、ただ一点をぼんやりと見つめていた。

波打ち際では若い母親と幼い娘が砂遊びをしていた。
小さなシャベルでお城のようなものを作っていた。
波が来ては崩れ、また二人で砂を積む。それは浜辺によくある光景だ。

しかし和哉には、ガラス越しに見るような感覚だった。
実感のわかない遠いものであるような気がした。
まるでこの二人だけに与えられた、特別な時間と空間。
外界とは隔絶された、二人だけの世界に入っているような感じに見えていた。

ケイは和哉の視線が、波待ちするサーファーや波に向いていないことに気が付いていた。
その和哉の心を探るように口を開いた。
「いい気持ちね、海ってただ居るだけで良いのかもしれない。波乗りしない海って和哉はどう?」

しばらくは何も反応がなかった。
ケイの視線もぼんやりと波間に注がれていた。

「俺はいつも波に挑んでいるつもりだ。そのために海に来ている。今日だってそのつもりだった。
海は俺にとってそうゆう対象でしかないよ」
長かったのか、短かったのか、ケイからの問いに対して、和哉から答えが返ってきた。

「和哉どうかしているよ、いつも『俺は仕事でも波乗りでも一番になりたい』とか言って目を吊り上げちゃてさ、波乗りは私にとっては遊びよ。勝負事でもなんでもない。
ましてや仕事とは別物だわ、人によっては、人生そのものって言う人もいるかもしれないけど」

「俺は子供の頃からいつも誰かと競っていた。だからと言って打ち込みたいものは見つからなかった。だから高校時代はバイクにはまった、次は車。でも…今思えばどれも楽しいと思ったことはなかった」

「だから海では楽しめばいいじゃない。私、和哉の楽しそうなところを見たことが無い。なんだかいつも寂しそうな目だし、それに海を感じて無いよ、この風を感じて無いよ、この太陽だってさ」

ケイは悲しげな視線を和哉に送った。
しかし和哉の心はここには無かった。
視線をケイに向けることもなく、ただぼんやりとしていた。

<第一夜 “秋の風” 3へ続く…>





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Last updated  2005年08月08日 22時48分47秒
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