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ライター大元よしき             “創意は無限”  

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2005年07月11日
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カテゴリ:小説
この物語の舞台は湘南の鵠沼です。
十五夜連続小説も、とうとう最終夜を迎えてしまいました。

毎日訪れてくださった皆様、ありがとうございました。
深く感謝申し上げます。

それでは第十五夜のはじまりです。
あなたの心にも何かが残ってくれると信じています。



小説 オータム~未来への風が吹く~
“夕日”の章


「混乱してるよ。ちゃんと説明して」
ケイもひかりも梶尾の次の言葉を待った。

「カズヤのお母さんと俺は、ここで暮らしていた。そしてひかりが生まれた。
でもひかりが二歳の時だった。亡くなってしまったんだよ。お母さんは可哀想な人だ。
どちらの子供にも縁が無かった」

梶尾は少し間を置いて続けた。

「お母さんは、親父さんと別れる少し前、カズヤを連れて、しばらく彼女の実家に
来ていたことがあったそうだ。その実家はな、俺のショップから歩いてすぐだったんだよ」

「彼女が親父さんと別れてこっちに戻ってきたとき、いつもカズヤのことを思い出して、
涙を流していた。虚ろな眼差しで、よく浜まで来ていたんだ」

和哉の目から涙が溢れてきた。

「俺は、毎日そんなじゃ体を壊すよって、声を掛けたんだ。
何度も声を掛けるうちに彼女に惹かれていった。彼女もそんな俺をわかってくれた。
いつしか、いっしょに暮らすようになった。そしてひかりが生まれたんだ」

和哉は溢れる涙をぬぐうこともできなかった。

「でもな、彼女との幸せは短かった。『カズヤ、ごめんね』と言ったのが最後の言葉だった」
和哉とひかりの目が合った。
その時、辻堂で初めて出会った、あの時の不思議な気持は何だったのか、その答えを
知ったのである。



和哉とケイ、梶尾とひかりは、鵠沼の海岸に立っていた。
夕日が照り輝き、海面の色を変えようとしていた。
和哉の視線は、遠い遠い海の彼方、いや、もっと遥か遠くを見ているようだ。

「カズヤ、なんだか今日は長い一日だったな」
「カジさん、ありがとう。一生忘れない日になりそうだ。ひかりちゃん、ありがとう」
「忘れない日か…、それならもうひとつ言っておくよ」
「なんです」

「カズヤは親父さんを憎んでいると言ったよな。でもな、憎しみからは何も生まれないぞ。
今日こうして俺達は、新たな出会いがあった。それだって憎しみからは生まれなかったはずだ。
すべては、相手を思う気持ちから発したことだ。

人は誰かのことを思う、その誰かもまた、誰かを思う。どうせなら、良い思いをたくさん伝えて
いきたいじゃないか。
カズヤが親父さんを憎むのは勝ってだけど、しかしな、もしかすると、親父さん自身が、被害者
なのかもしれないんだよ。親父さん自身がカズヤと同じ思いなのかもしれないんだよ。
そして恨みの先がお前に回ってきてしまったのかもしれない。

でもな、憎しみの連鎖はどこかで断ち切らなきゃならん。そんな恨みのバトンは捨ててしまえ。
お前で終わりにしろ。
もちろんすぐには無理だろう。でもな、カズヤにはケイさんがいる。
もう親父さんへの思いに囚われるな、そして、ケイさんと未来を見つめるんだ。
お前の人生はお前のもの。
親父さんの呪縛から早く解かれて、自分の人生を歩むべきだ。

この星の生命に比べれば、人の人生は儚いものだ。ほんの一瞬、星の瞬きのようなものだ。
しかし俺達はこの時代に生を受け、そして出会えたんだ。出会えたことだけでも、奇跡に
近いことなんだ。素晴らしいことなんだ。
この地球という星を舞台に、人は人生を輝かせなければいけないんだ。

いいか、過去を恨んでいる時間は無い。今を、この一瞬一瞬を精一杯生きるだけなんだ。
カズヤ、今を大切にしろよ。
その積み重ねが人生なんだ。未来はな、自分で創るものさ。
幸せになれよ、いいな、もうカズヤは独りじゃない、ケイさんも、ひかりも俺もいる」

ひかりはこんな父親を初めてみた。
父でありながら、父ではないような。
遥か遠くから心に響いてきた声のように感じていた。

夕日はますます海面を染めた。太古より繰り返されてきた、この星の営みも、一度として
同じものは無い。
もし同じことの繰り返しであれば、生命誕生の奇跡も無かったはずである。


「母さん、ありがとう。俺、独りじゃなかった…」
和哉はそこに母を感じていた。
「人っていいね。ケイにも会えた、母さんが愛した人にも、そしてひかりにも。
それに今日は、母さんにも会えた。
今も母さんに抱かれているようだよ。
あの夕日だって、この海だって、この風だって、みんな母さんみたいに優しいよ。
こんな気持ちになれたのは、みんなのおかげ、生まれて初めてだ。
俺はね、母さんの分まで精一杯生きるからね、精一杯…」

風の向きが少し変わった。
母の愛はこの広い天地に生き続けていた。
そして人を結びつけた。

四人の視線は、遙か遠くを見つめていた。
その先にはなにがあるのか。
和哉が受け取ったバトンは、もう心のどこを探しても見つからなかった。

海風が和哉を優しく包んでいた。
和哉はいま初めて夕日の輝きに美しさを感じたのだった。

                        ―完―

<あとがきにかえて に続く…>





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Last updated  2005年08月08日 22時55分32秒
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