愚か者めが 凸(ーーメ
(小生の最近のコラムから) 去る12月16日に平成23年度税制改正大綱が決定された。結論から言うと一昨年、政権交代時に打ち出された新機軸はすっかり陰を潜め、『財源漁りに終始した、税に対する理念のかけらもみられない酷い大綱』に成り下がってしまった。 税制改正法案は『予算関連法案』に位置づけられる。果たしてこんな『酷い』法律が国会で可決、成立するのだろうか?具体的にコメントしてみよう。 (大綱より引用)イ 基礎控除及び税率構造格差固定化の防止、相続税の再分配機能・財源調達機能の回復等の観点から、基礎控除を「3,000万円+600万円×法定相続人数」へ引き下げるとともに、高額の遺産取得者を中心に負担を求める観点から最高税率を55%へ引き上げるなど税率構造を見直します。 これは前回コラムでもコメントした『相続税の大増税(=基礎控除の引き下げ)』についてである。実は財務省も認めるように、このテーマは長年、侃々諤々の議論がなされてきた曰く付きのお話。 上の図表をご覧頂きたい。相続税の主要な改正について解説するために財務省が作成したもの。平成12年7月14日付けの政府税調の答申に盛り込まれているものである。 この資料で注目すべきは上から2段目の記載の『抜本的税制改革(昭和63年12月)』。他にも同答申には『(相続税の)課税最低限については資料の通り、昭和63年の抜本的税制改革を含めて……』と記載されており、こと相続税の税制改正を論じる場合、昭和63年の水準が財務省の基準になっていたことが伺える。 この答申が作成されたのは今から11年前、日本の経済状況はどうだっただろう?とうの昔にバブルは終わり、地価は相変わらず『超低空飛行』、金融危機におののくデフレ不況のまっただ中ではなかったか。 今回の大綱では『法人税減税等の財源』としてこの相続税の基礎控除(課税最低限)が狙い撃ちされた。昨年11月25日の税調で説明資料として財務省により作成されたものが次の資料である。 ●相続税の基礎控除の引下げによる相続税額への影響(個別的な計算例) 小生が慄然としたのは上表の(考え方1)と(考え方2)の基礎控除の水準である。現行の5,000万円を3,000万円あるいは3,500万円と引き下げるとの『増税試算』である。本表は非常に作為的であり、かつ過去の財務省の認識を大幅に変更する爆弾が仕掛けられている。 前段で解説した11年前(あるいはそれよりもずっと以前)からつい最近まで財務省が保持していた『相続税の昭和63年の抜本的税制改革』という『基準』を無視した内容となっている。繰り返しになるが、従前の財務省の認識は『基礎控除を4,000万円に戻すべき』というものであって、上表の(考え方1=3,000万円)あるいは(考え方2=3,500万円)ではなかった筈だ。 思うに、官僚が『ダメ元』で『税制に疎いがプライドだけは高い』税調メンバーの民主党の先生方に根回ししたところ、官僚の深慮遠謀に気づきもしない先生方が、本来、検討すべき(考え方3)=抜本的改革=4,000万円、あるいは(考え方4)=4,500万円を看過したのではないか。 おそらく今回の結論(=大綱)に一番驚いたのは、財務省の官僚達ではなかっただろうか。 曰く『考え方1を採用してくれるのぉ?まじっすか?』と。 愚かさを証明する発言が記者会見録(昨年11月25日の税調)に残されている。そのままを引用しよう。 ○ 五十嵐財務副大臣相続税につきましては、所得の再配分機能が衰えてきている。そして、土地価格の上昇に基づいて基礎控除額を上げてきたけれども、反対方向に向いているので、それに対応する措置が必要ではないかと。特に4%の人しか適用されないということで、それは課税ベースを拡大する必要があるのではないかという観点です。○ 五十嵐財務副大臣もともと相続税に関してはゆがみを直すというのが趣旨で、これで増収を図ろうという意味ではございません。税額的には大した増収効果ではないと判断していますが、数字はありますか。○ 尾立財務大臣政務官もともと全体で、今、1.3 兆円ということですので、そんなに税収増効果は見込めないと思っております。 官僚答弁ならいざ知らず、この人達には、現在の経済状況(土地価額が暴落したのはいつのこと?)も、増税の痛みも、税そのものの仕組みも、長年積み重ねられてきた税制改正の議論も、はたまた財務省の理論構成も何もわかっていないということがよくわかる。 『土地価格の…反対方向に向いているので、それに対応する措置が必要』 『税額的には大した税収効果ではない』 『1.3兆円…そんなに税収増効果は見込めない』とは何事か。すべては、前回コラムの『ペイアズユーゴー』の呪縛と、与党政治家の見識のなさと、官僚のしたたかさに帰結する。ただの『政治家主導ごっこ』。 丸川珠代議員の言葉をお借りしたい。『この愚か者めが (-_-#)』(※文中引用部分は内閣府のHPで公開されている内容を原データのまま記載しています。又、意見に関する部分は筆者の個人的見解です。)