スティーヴン・キングの名言「魔法は存在する」について
私が最も愛する小説家スティーヴン・キングの名言に「魔法は存在する」というのがある。あまりに印象的な一節で忘れられない大好きな言葉なのだが、その出処については記憶が曖昧なままだった。そこで、ネットで調べてみたところ(こんな曖昧な情報からでも検索できるなんて便利な世界になったものだ)、巨編「IT」(文春文庫、全4巻)の序文に収録された言葉である、ということが判明した。そこで、改めて「IT」の序文を見てみると、ちょっと前段があることが判ったので、そこを含めて紹介しよう。子供たちよ、小説とは虚構(つくりごと)のなかにある真実(ほんとう)のことで、この小説の真実(ほんとう)とは、いたって単純だ―魔法は存在する(できれば英語の原著に当たりたいところだが、取り敢えずはこれでご勘弁を)そしてここまできて、何故この言葉がそこまで私の印象に残っているのかが判った。私の高校時代のとある国語の先生の教えを思い出したのだ。その先生は女性なのだが体は大きく声はさらに大きく、ついた渾名が「大魔神」で、古典文法の「係り結び」を教えるのに「我こそ大魔神なれ」という例文を考案した人である。と、話が逸れた。で、その大魔神先生は現代文も担当していて(確か夏目漱石の授業の時だったかと思うが、ここは記憶が曖昧)、その時にこんな話をしてくれたのだ。「事実と真実の違いは何か? 世の中の事実をすべて集めればそれが真実なのか? 否。小説は作り話であるから事実ではないが、そこに人間の真実が描かれている場合もある」若干脚色したが内容は変えていない。私はこれを聞いたとき、目が3段階くらい見開かされるのを感じたものだ。つまり、虚構の中に真実があると語ったキングと同じことを言っていたのである。しかも、私が「IT」を読んだのと、この大魔神先生の授業は、ともに高1という同じ時。どっちが先だったかは忘れたが、多分相乗効果もあって両方とも印象に残ったのだろう。何せもうあれからウン十年経つというのに、いまだに両方とも忘れられないどころか、大好きな言葉なのであるから。やはり、多感な時期に見聞したものというのは人格形成に多大な影響を与えるのだなと、今改めて思った。と同時に何か長年の謎が氷解したという思いすらする。ちなみに「IT」は映画化もされた名作で、ホラーだけど感動作だ。ただし、非常に怖い。高校時代に軽い気持ちで友人に紹介したところ、彼は「ピエロ恐怖症」にさいなまれることになったほどだ。