戦争賛成の八人のなかの一人が元帥に、「待て、多数決では八対三でわれわれが多かったじゃないか。なぜそれを無視するのか」と言う。すると元帥は、「多数決とは、良い意見が多い場合に多数決と言うのだ。戦争を回避したほうが国の利益になるという判断は非常に正しくて優れている。その意見が三票も入ったのだから、これはやめるべきだ」と言ったんです。 つまり、取るに足らない意見は決に入れない。だから八対三じゃないんだ、という。
南場 小説のディテールは、どのくらいが先生の創作ですか。 その裏切る顔をしている というような話は、史料にあるんですか? 宮城谷 その話は『史記』の原文にあります。難しいのは、こうした内容をストレート に使って、面白さが本当に出るかという点なんです。歌舞伎でも、役者は右を向こうと する時に、まず左を見てぐるりと顔を右に移していく。すぐ右を向くわけではありませ ん。少し外した方が、観客の感情移入の速度と合って、間として良くなる。 |