行動遺伝学の多くの研究によって、
社会がリベラルになるにしたがって遺伝の影響が強まり、
男女の性差が大きくなることが一貫して示されている。
これは考えてみれば当たり前で、
「自分らしく生きられる」社会では、
もって生まれた才能を誰もが開花させられるようになるが、
知識社会に適応する能力にはかなりの個人差がある。
キャンセルカルチャーの特徴は、
キャンセルされるような地位についた者が攻撃の対象になる一方で、
同じことをしていても、キャンセルできる地位になければ無視されることだ。
それでもわたしたちには、あくまでも議論によって合意を目指す以外の選択肢はない。
だが近年のさまざまな社会現象が示しているのは、
議論では問題は解決しないばかりか、
状況をますます泥沼化させるだけだ、ということだ。
なぜなら、
イデオロギー対立では、
双方ともに相手を「論破」することにしか関心がないから。
60に及ぶ前近代社会を対象にした調査で、普遍的と思われる7つの美徳が明らかになった。
① 家族を助けること
② 自分の属する集団を助けること
③ 恩を返すこと
④ 勇敢であること
⑤ 目上の者に従うこと
⑥ 資源を公平に分けること
⑦ 他人の財産を尊重すること
近年の脳科学が発見した不都合な事実のひとつは、
不道徳な者を罰すると報酬系が刺激されて快感を得るように脳がプログラムされていることだ。
警察も法律もなかった人類史の大半において、
巧妙な進化は、共同体の全員を「道徳警察」にすることで秩序を維持するという卓抜な手法を編み出した。
不道徳な者はたちまち集団で吊るし上げられ、
子孫を残すことなく遺伝子のプールから消えていっただろう。
わたしたちは、なにかにアイデンティティ融合することで快感を覚えるようにプログラムされている。
人類史の大半において(すくなくとも100年ほど前までは)、
その対象は部族や国のような共同体だった。
それが「推し活」に変わったのは、社会がゆたかで平和になったことで、
一人ひとりに「自分らしい」アイデンティティ融合が可能になったからだろう。
そのように考えれば、
個人の努力によってステイタスを上げる「成功ゲーム」「支配ゲーム」「美徳ゲーム」のほかに、
もうひとつ重要な戦略があることがわかる。
帰属する集団のステイタスが上がれば、それにともなって、
自分のステイタスが(心理的に)上がり、自己肯定感が高まるのだ。
──このことは、2023年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での侍ジャパンの活躍によって、多くのひとが実感しただろう。
この世界が地獄になるのは、得体の知れない「陰謀」のせいではなく、その方が都合がいい者がいるからなのだ。
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