2006/04/28(金)23:13
TO BE
螺旋階段に夥しい女があざやかなドレスを着飾って壁の女になっていた。彼は目を伏せたままその螺旋階段を降りた。
ステージがしつらえてあるロビーは高い天井を強いレーザービームがゆれていた。
レザーのソファが一列に並んで、紳士淑女が、夜の会話をたのしむ空気を、彼は一瞬で止めた。
愛を失った迷い子の避難場所、ここにはなにもない、だから、ひとときの仮面舞踏会。
ここでは愛という言葉は意味をもたない。
ワイングラスの放列に反射する間接照明。
やがて彼のテーブルは淑女の坩堝となって、いたいけな社交の特急列車で、大人たちは本題にはいっていく。
愛のない世界の価値は、まわりくどい確証もないかわりに、逡巡するためらいもない。
そこにあるのは、ほしいか、ほしくないかだけだ。
なにもみえない、明日と今日の間に、かわされる会話のむいみな迎合の期待の台詞。
もうにどとあうこともない気安さで、求めて与えるだけの、大人の恋の世界は、乾くことのない真実を、虚飾でぬりかためて、癒えることの限界をもとめて、そんなものどこにもないのに。
さあ やがて 朝が来て 名前さえわすれ かえる場所のないことに気づくのに。