2007/02/27(火)19:31
「ねえ、わたし、あなたの何?」
キャンペーンにつかったその売り出し前の女優気取りの女が、安手のカバンからタバコを取り出して、情事の終わったBEDのうえで、斜めの角度でふうっと吐き出した紫煙の行方を見ながら、そういった。
僕はその様子の自己憐憫に襲われた、仕事関係の女と酔っ払って、こんなことになるたびに、もう仕事関係の女とそんなことになるまいと、ひそかに誓うが、打ち上げの終わった寂しさが、また、安手の女と、本命とはこないような、西新宿のやたらネオンが、閉めたカーテンからもれるような、情事用の部屋に、また、そういった雑念の沈静の時間の無意味な、非常に危険な、業務上横領な、色恋沙汰に、あいまいに、答えをさがしていた。
「そうだね、むりだよ」
「なんで、てるちゃんならできるじゃん」
「ぼくがてがけたひとは、みんな田舎にかえっちゃったよ」
「いおり ゆうこ は?」
「あれは、ぼくがやったわけじゃない」
「うそ、彼女いってたのよ、てるちゃんになんとかしてもらいなって」
「いおりの 推薦か、、うれてどうするのさ」
「なんかね、いい感じのまいにちにするの」
「いま、いいかんじじゃないの?」
「だって てるちゃんいそがしいじゃん」
灰皿にたばこを、下品につぶして、
「ねえ、わたし、あなたの何?」
やけにはなしの飛ぶ女だ、おれはお前のなんなんだ。
「恋人さ」
すかさず素で答える、むしろそれは条件反射だった。
「あのね、彼氏とわかれたの」
彼氏がいたのか?
「そう」
「そうってなに?」
ワイシャツを着ながら、振りかえると女が泣いている
「今夜も仕事なの?」
「うん、貴之とさ打ち合わせ」
「うそ、飲みにいくんでしょ、わたしもいく」
ざんねんだが、はずかしくてつれていけない、貴之は光学機器メーカーのCMが内定した女とつるんでいたから。
「ああ、今夜はPRODUCERがあつまるから、危険だよ、電話するね」
「てるちゃん、電話するって、電話くれたことないじゃん」
なにかしら、古女房のような会話が、くつろいだ情事のあとの、うざい親近感にみちた、ああ、もういや、こんな生活と思いながら、自縛的に、なぜこういった愛情のない情事をするのか?と思った、いっそ三軒茶屋のジムで筋肉でもつくってればよかったと思う昼下がり。
彼女を残して、外に出ると、学校帰りの、少女たちが、走り去っていく、テルの娘は、いまごろあのくらいの大きさになっているのだろうか。
風が吹いて、路上の新聞紙を、運んで行く。
俺はどこにいくのか、タクシーに乗り込みながら、真剣に思った。