恋のような 愛のような

2007/03/30(金)18:37

「浴室」 3

  ある日、浴室の、夢をみた。僕はいつもの浴室でいつものように壁をながめていた。その白い壁には、なにも意味がなかった。ただ白い壁を浴槽でながめているわけではない。 その白い壁をながめている視野の、片隅にちらちらと湯女の、手桶に泡立てている資生堂石鹸の泡が、ソフトクリームのように、むくむくと肥大化していくのが、見えた。  見えたと書いたが、それはあるはずのないソフトクリームのようなもので、やがて、白い壁の風景を飲み込んで、白い壁の風景のなかのブリザードのなかに遭難している状況になった。 僕はその白い泡につつまれて、すこし、その白いものを、そっとなめてみた。 なんかバニラの味のような気がした。  気がしたと書いたが、たべたわけではない。そしてたべてみることにした。 バニラアイスのなまぬるい味がした。  すこし僕はこわくなって 「だれかいますか」 と いった。 「だれもいませんよ」 湯女がこたえた。 「だれもいないということは、あなたとわたしふたりきりですか」 と きくと。 すこしためらう気配で、「いいえ、あなたひとりきりですよ」と答えた。「あなたはだれですか」と聞こうか迷っていると目がさめた。 そこは、ソファの上で、たべかけのバニラアイスをさがしたが、どこにもなかった。念のため、浴室をみたが、そこにはただ白い壁があるだけだったし、バニラの匂いもしなかった。ふと人の気配を背後に感じたが、僕はこわくなって、ふりかえらないでいた。 「どうしたの」 だれかの声がしたような気がしたが、ぼくは聞こえないふりをした。    

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