電脳蕎麦屋@信州

霜田誠二 in NY


前略
いきつけになった近くの安食堂でアメリカンブレックファーストをとっていると、ラ
ジオから「イマジン」が聞こえて来る。
これほど観光客の少ないニューヨークも初めてだ。
ニューヨーク・タイムスには犠牲者の死亡通告が載っている。
「彼はタフガイで、詩人だった。いつも詩を書いていたわけではないが、特別の日に
は詩を良く書いた。例えば2年前の結婚式の前の日に書いて、妻に贈った。10ヶ月
前の初めての娘ニコラスの誕生の時にも書いた。『幼いニコラスよ、目を開けなさ
い。目を開けてお前の周りの世界の様々な色を見てみなさい。幼いニコラスよ。身を
寝返りしなさい。身を寝返りしてお前を待っている日の光を見てみなさい。幼いニコ
ラスよ、這いなさい。這いながらお前を待っている体験の果てまでみつめなさい。幼
いニコラスよ。歩きなさいーー』詩はここで途切れていて、残された妻はそれがちょ
うど彼の娘の発育を見えたところまでだったと言った。」
このタフガイの若い父親は娘が歩くところまでは見る事が出来ずに、9月11日にワ
ールド・トレード・センターで死んだ。
町のあちこちに、特に病院などには、多くの行方不明者の安否を訪ねるカラー写真付
きのチラシが張ってある。そして既にみやげ物やでは、記念品がゴッドブレスアメリ
カの文字と共に多く作られ売られている。
ここまでは日本にいた時の情報通りだ。
そしてさほど反戦運動も表面化していないと言うのも聞いていた通りかも知れない。
でも、これはこちらに来てから満足に出歩いている時間もなく、リハーサルやらアジ
ア・アーティストの小道具の買出ししかしていない私にはなんとも言えない。でも1
0年前の湾岸戦争時も戦争犯罪の集会が最も活発化して行ったのは、私が2ヶ月間い
た戦勝パレードの時からだったと思う。
ワールドトレードセンター跡地近くまで行ったアジア・アーティストからは、物凄い
複雑な匂いと砂ほこりと大勢の人々が集まっている事を聞いた。町のあちこちには、
まだ車止めがされ、自由に車が走っていた当たり前のニューヨークに戻るのはいつな
のか。地下鉄に乗っている人々のあいだにも心なし重い雰囲気が流れている。
今爆弾を受けている下で死んでいくアフガンのタフガイの父親の死亡通告は、もちろ
ん今この町にはなく、何があの新たに作られている瓦礫の下で起きているのかは想像
力の届く範囲ではない。

ジャパン・ソサイティでの2日間の「アジア・パフォーマンス祭」が、大盛況で終了
した。ディレクターのポーラ・ローレンスは「セイジさん、2本めのホームランです
ねー」と言って、早くも次の企画の話に入りそうだ。
今回も様々な観客が来てくれた。もちろん日本人は数えるほどしか居なかったが、2
日間で500名ほどの観客は最後まで熱心に見てくれた。あの9月11日を体験した
彼等の感性は、パフォーマンスアートを受け入れるほどに出来上がって来たというこ
となのだろうか。

しかし今回ほど彼等のビザを取る事で大変だった事もなかった。ベトナムのホアンリ
ーの為に外務省から法務省、そして入国管理事務所まで電話をしまくり書類を送っ
て、ぎりぎりで間に合ったかと思ったら、ミャンマーからのエイコーがバンコクの空
港で成田行きの飛行機の搭乗を断わられた。トランジットビザなのに日本のあとのア
メリカビザを持っていないと言う理由で。その事はヤンゴンの日本大使館には何回か
の国際電話で事情説明をして書類も作って送り、今回のテロの影響で移民局の仕事が
大幅に遅れ、アメリカビザは東京のアメリカ大使館で取る事になっていたと言うの
に。その解決のために20時間と数多い国際電話を使い、やっと東京の出演日当日朝
に到着したエイコーの出番が始まり、音楽が流れ始めたら、私は泣けて来た。

彼の町ヤンゴンに漂う空気が私の体を包んで、今年3月に行った時にマンダレーまで
の夜行列車に一緒に乗って話したこの10月の約束をやっと果たせたからだ。彼はニ
ューヨークに来てからあちこちに電話をして、あの88年の突然の虐殺時に国から逃
げ出した活動家の友人と13年ぶりに再会できて本当に嬉しそうだ。アーティストに
とって必要な経験とは、たぶんこんな事だろう。パフォーマンスを続けていたから、
可能になったこと、その喜び。ホアンリーの幼友達はダラスから飛行機で駆けつけ
た。5歳の時に親と一緒にアメリカに来たと言う。20年ぶりだと言う。

そして私たちは明日の朝の飛行機に乗って、名古屋芸大と滋賀県の「びわ湖アジア芸
術文化祭」に、このニューヨークでパワーアップした6名が向かう。お近くの方は是
非顔を見せて下さいね。待っています。
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◆名古屋芸術大学アーティスト・トーク
◯10月24日(水)午後5時、アジアアーティスト「アジアのアートの現在」
 10月25日(木)午後1時、霜田誠二トーク「表現のありか。そのモチベーショ
ンをアジアや世界各国の状況を例に」

◆成安造形大学アーティスト・トーク+ビデオ上映
◯10月26日(金)午後6時半、「アジアのパフォーマンスアートの展望」

◆びわ湖アジア芸術文化祭アートプログラム「アジア・パフォーマンス・アート」
◯10月27日(土)28日(日)午後1時~、入場無料
◯出演;1、ホン・オボン(韓国)2、チュンポン・アピスック(タイ)3、エイコ
ー(ミャンマー)4、アラフマヤーニ(インドネシア)5、ホアン・リ-(ベトナ
ム)6、霜田誠二(日本)
◯会場;滋賀県立近代美術館(JR琵琶湖線・東海道本線「瀬田駅」下車TEL
077-543-2111)
◯近年、アジア各国の現代美術に対する注目が高まっている。それと共に、その美術
家達が表現の一手段として当然のように積極的に用いているパフォーマンス・アート
の活況が知られるようになった。世界的に見ても、この10年間のこの分野を取り巻
く動きは目覚ましく、最初は東欧各国がその中心となったが、ここ数年はアジアの動
きが目を離せないほど面白い。今回、招待する計6カ国6名の芸術家は、タイ・イン
ドネシア・韓国・日本からは、それぞれの国のパフォーマンス・アートの活況を作り
だした芸術家であり、ミャンマー・ベトナムからは、これからその動きを作り出そう
とする実力のある芸術家たちだ。滋賀県立近代美術館を会場とする彼等の作品に注目
していただきたい。
◯ウェブサイト;http://www.biwa.ne.jp/~sg-kinbi/

以上です。では、また。
Seiji Shimoda/Nippon International Performance Art Festival (NIPAF),
Platform of Asian Performance Art (PAPA); 2-8-15, Nakagosyo, Nagano,
Nagano, 380-0935, JAPAN Tel & Fax +81-26-224-0748




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