蕎麦 みちこ
東京、武蔵五日市の奥にある払沢の滝は日本の滝100選らしい。初めて見に行った。沢登をやる者にとって、多くの大滝を見てきた目で捉えてしまうため、日本を代表する滝にとは映らない。滝を見て車に戻ってきたら、ちょうど昼食にいい時間で、看板に浅間峠に蕎麦屋があることを知る。見晴らしもいいらしい。「車で15分」蛇行する山道を車を走らせる。どん詰まりには車が数台置かれていて、峠の茶屋みたいなのが一軒ある。大岳山の山稜の眺めがいい。しかし蕎麦屋はさらにここから山道を歩いてゆく。5分ほど歩いてようやく行き着いたのが、「みちこ」という山の一軒屋の蕎麦処。桧原村の秘境。苔むした年代モノの水車が回っていて、これは現役で石臼を挽いているようだ。囲炉裏のある伝統的日本家屋の作りで、たいそう高い縁側から直接上がりこむ。客間は床の間のある部屋と、その手前の部屋をぶち抜いて作られ、炬燵が入っている。炬燵に足を入れると、そのまま寝転がりたくなるほどくつろげ、自分のうちにいるようだ。蕎麦は石臼挽きの天ざるを頼む。付き出しのカボチャ、芋や、こんにゃく、フキの煮物が先ずウマい。その上、いつだったかずっと前にたまたま飲んだお茶以来の、なんだかおいしいお茶。てんぷらは山菜で、軽め、蕎麦もいい。外にはなんだか知らないが爺さんが行ったり来たりしていて、その向こうには紅葉が始まりかけた深い山がある。何もかもが懐かしいような、日本の田舎を感じさせる空間。そしてまた、どこかネパール・ヒマラヤのトレッキングをして、茶屋で休んでいる気分になる。囲炉裏の燃える煙の香りが郷愁を醸し出すのだろうか。とくに行きたくて、狙って訪れたわけでもなく、たまたま立ち寄った程度なのだが、期待値が低かったせいか、最高の気分が味わえた。