トカトントン 2.1

2005/10/30(日)20:17

エターナル・サンシャイン / ミシェル・ゴンドリー

映画(239)

■失恋の経験ですか?そりゃ、何十年も生きていれば、ひとつやふたつありますよ。きっかけは些細な事であることがほとんどで、熟考と度重なる議論の末、別れるに到った、なんて経験はない。 ■ごめん、言い過ぎた。悪かった、あの時何も言えなくて。そんな言い訳も悪いタイミングの時は、どう言っても通じない。結局、一緒になれなかったというわけさ、なんて諦めてしまう。でもさ、その踏ん切りをつける時って、色んな思い出が胸に突き刺さってこない?ふたりがうまくいっている時の、あんな場所、あんな会話、あんな手紙、あんなやりとり。 ■”記憶”は時が経つにつれ失われていくものだけど、”思い出”ってやつは時間の経過と共に段々と、鮮やかに輝いてきてしまう。そのうち、当人はそれをますます美化してしまって、しなかったことも、したかのように、無かったものさえも、あったか(暖ったか)のように頭の中で脚色してしまったりする。 ■恋人との記憶を消してしまおうとする男と女の話だ。原題は「Eternal Sunshine Of The Spotless Mind」、「一点の曇りもない心の永遠の太陽」。そう本編でもこのタイトルのクレジットが入るまで20分かかっていた。 ■冬の海岸のシーンが素敵だ。砂浜は恋人達の場所だと思う。部活で走るそこと彼女と戯れて走るそことでは足どり自体が違うものだ。どちらも筋肉痛がその記憶を呼び起こすのだけどね。(笑) 凍った湖のシーンが素敵だ。もしかしたら、割れてしまうかもしれない氷の湖面を彼女が滑る。冷たい氷の上にふたりで仰向けに寝転がり、星座を眺めるんだ。「あれが獅子座だ」そしてそんなふたりの横の氷にはひびが入っているように見えるんだ。すごく象徴的だと思う。 ■ケイト・ウィンスレットの髪の色が何度も変化する。時系列を意識的に混乱させたこの映画を見直す時には、彼女のヘアカラーがひとつのヒントとなる。オレンジ、ブルー、イエロー。ビビットなそれらの色が冬の景色に映えると共に、この女性の強烈な個性を印象づけているわけだ。一方のジム・キャリーはうだつのあがらない髭面のまま。笑わないし、笑わせない彼の押さえた演技がこの作品を一見悲劇なのか喜劇なのかわからないものにすることに一役かっている。きっとこれは両方の映画だ。 ■頭にお椀みたいなものを被せられて、パソコン画面を見ながら記憶を消去する方法って、ラクーナ社って意外にローテク?名作「ミクロの決死圏」を思い出してしまったじゃないか。ただ、自分の記憶の中に入り込んで隠れ場所を見つけようとするというような入り組んだ脚本を映像化した手法はお見事。ラストの海辺の家の崩壊シーンはちょっと息を呑んでしまったよ。ああ、我が家も近々濃密な記憶と共に崩れ落ちるのだな、なんて感慨が。 ■先にサントラを聴いていて正解。予想通り、あのテーマ曲のメロディは私の頭の記憶から消えない。そしてBeckの「Everybody's Gotta Learn Sometimes」のかかるタイミングの良さ!そうか、あそこで流したかって感じね。風景というよりも会話に被せて流れるJon Brion音楽の使い方も独特で見事でした。で、このDVD、ミュージックチャプターとして音楽の流れるシーンだけを繋いだ特典映像つき。BGVとしてお徳ですよ。 ■想像通り、自分の中でのスマッシュヒット。音楽、キャスト、シナリオ、映像、どれをとっても好みがいっぱい。レンタルにも出始めているので、是非ご覧になってください。 PS ■ケイト・ウィンスレットはもし消せるとすれば、「タイタニック」に自分が出ていたという記憶を消して欲しいんじゃないかと思えるほどはまっていた。逆にイライジャ・ウッドはできれば、この映画にあの役で出ていたことは観客の記憶から消して欲しいんじゃないかと思った。

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