ちょっと休憩

2005/06/20(月)18:21

「枯葉の中の青い炎」辻原登

本(127)

「枯葉の中の青い炎」 著者: 辻原登 出版社:新潮社 6編からなる短編集。 先月NHK・BS「週刊ブックレビュー」で紹介されていて、興味を持ちました。 表題作は、300勝達成を目前に苦闘する老いたスタルヒン投手に悲願を叶えさせるため、ひとたび間違えば大きな災いが襲うことを承知で密かに南洋の呪術を使う男の話。 スタルヒンというのは実在の人物らしいです。 つまり、虚実入り混じったファンタジーということ。 そうなると、実在の人物が登場するために、どこまで事実なのか線引きが難しくて、小説なのにリアリティをより強く感じます。 野球の試合描写も克明で、野球に興味がない私もスタルヒンの300勝の瞬間の訪れをいまかいまかと手に汗握ってしまいました。 「ひとたび間違えば大きな災いが襲う」呪術による呪詛返し、これも物語をうまく締めます。 個人的にいちばんおもしろかったのは、1話目の「ちょっと歪んだわたしのブローチ」。 「他の男と結婚が決まった愛人と一ヶ月だけ同棲したい」という夫の身勝手な望みを聞きいれて、夫を愛人のもとに送り出す妻。 妻、夫、愛人の3人の1ヶ月が描かれます。 あらすじだけ書くと、身勝手で横暴な夫、耐え忍ぶ妻、ふしだらな愛人、という構図を想像されると思うけど、小説のカラーはそうなりません。 妻が恐いくらいに冷静で物分りがよくて、怪しい。 彼女はさらりと夫の願いを聞きいれて、ひとつだけ約束させます。 毎晩9時かっきりに自分に電話すること。 これだけの条件なのだが、あとあとボディーブローのように夫と愛人との生活に影響を及ぼす。 だって、どこにいようが、何をしていようが(実際、2人がベッドでいちゃいちゃしていた最中だったこともある)、それを中断して妻に電話しなくてはならない。 そのときは妻の存在を思い出さなくてはならない。 そんなかんじで、さらに物語は進むのだけど、短編ですから、すべてを紹介してしまうと未読の方にはおもしろくないですよね。 最後まで、読み手の想像を裏切って物語が進みます。 ちょっと恐くてミステリアスな小説でした。

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