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guinn's booze ...in a mellow tone

[本] カテゴリの記事

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惰眠惰読

　もう一週間以上も風邪がぬけず、昨日の夜は「ついにダメか！？」な症状にもなったので、今日はまる一日布団のなか。　実家から借りてきてる池波正太郎や藤沢周平の時代小説など数冊を枕元に並べて、ななめ読み・・・のつもりがすっかり集中しちゃって、これじゃかえって良くないなあ。　なので『文人には食あり』という、山本容朗（文芸評論家）が数多くの作家の食に関するエピソードをまとめた本や、檀一雄の『檀流クッキング』をパラパラめくるも、めずらしく食欲がない状態は改善されず、たのしめない。まだ前者は吉田健一、開高健、遠藤周作ほか30人弱の作家についての筆者のみが知りえる逸話が多くて興味深いんだけど、檀流クッキングはモツの大鍋料理や世界のガッツリ系料理が満載で（キンピラとかオクラのおろしあえなども載っているけど）、今日の体調では敗北感を味わうことに。　う～む。　寝るか。

Feb 17, 2008

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ほしよりこ　と　かこさとし

　うちの茶の間には、いただきものの「きょうの猫村さん」の壁掛けカレンダーがかかってます。２月は節分。ほしよりこさんが描く絵は「猫村さん」も「僕とポーク」（これもおもしろかったなあ）も鉛筆でシュシュッと。シンプルというか雑然というか、そこが味なのだけど、このカレンダーの絵は水彩で色づけされてて、少々よそいきっぽい。　ぺらぺらとめくってたら、子供ころによく読んでいた加古里子（かこさとし）さんの絵本を思い出しました。作風が似ているわけでもないと思うけど、ふたりとも描くキャラクターが可愛いすぎず、巧すぎず。なんだかほっこりとします。　加古さんの作品は、本当に夢中になって読んだなあ。「だるまちゃんとてんぐちゃん」とか「からすのパンやさん」が有名だけど、僕が大好きだったのは「とこちゃんはどこ」と「あなたのいえ　わたしのいえ」。両方とも昭和40年代半ば、僕がガッツリ幼少だったころに出版されました。　　　「とこちゃんはどこ」は、元祖「ウォーリーをさがせ」。動物園でもデパートでもお祭りでも、出かける先でトコトコとひとりで動きまわっては両親たちとはぐれてしまうとこちゃん。赤い帽子を目印に、どこだろう・・・と探します。　　　「あなたのいえ　わたしのいえ」は、家の大切さと、どのように家がつくられているかをわかりやすく描いたもの。屋根ができて、壁や床ができて、お風呂やトイレができて・・・。このトイレの話に添えられた「わらってはいけません」という文章を鮮明に憶えてます。幼稚園くらいのときの子供って、なんであんなに「うんち」とかで大喜びするんだろ。僕もキャッキャと大騒ぎしてたような。この本の影響からか、子供のころは家の絵をたくさん描いてました。ここはおもちゃの部屋、ここは寝る部屋・・・もちろん、すみにはトイレをけっしてわすれません。意味も分からずドアには「ＷＣ」の文字を。　この２冊、子供の想像力をやたらと掻き立てるものがあったなあ、と思います。かなり影響受けてるはず。福音館書店のロングセラー。

Feb 8, 2008

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しろい虹

『しろい虹』　石田千　（KKベストセラーズ　2008年）　2004年に出た最初の単行本「月と菓子パン」から毎作品チェックしている作家、石田千さんの最新刊。懐かしいような、あたらしいような。なめらかなような、ゴツゴツしたような。エッセイというよりは随筆といいたい感じ。「トリ」「マメ」「カミ」・・・カタカナ２文字のタイトルが10数篇。日常の些細な出来事から、懐かしい思い出や人の心の動きについての話へとひろがっていって・・・。冒頭の数話は、ちょっと文章表現の習作っぽいというか、ひねりすぎかな？と感じたところもあったりしたのだけど、あいかわらずの石田さんワールド、満喫しました。　　もともとはKKベストセラーズのweb上で連載されていたものを1冊にまとめたものだそう。現在、白水社のHPでも連載中の随筆「店じまい」があって、こちらも楽しい。はやくまとまった形のを読みたい。

Feb 7, 2008

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気になる・・・的こころ

　ちかごろ気になる御仁、小沢昭一さん。俳優、エッセイスト、ラジオパーソナリティ、歌手、芸人？、芸能研究家、俳人・・・。どの活動も気になります。図書館にいっては著作や対談集を借りてきて、読みふける毎日なり。画像は「小沢昭一的新宿末廣亭十夜」（講談社）。2006年に新宿の寄席「末廣亭」での10日間の定席興行に出演したときの高座の記録。表紙を1枚ペロンとはがすと、中はこんな装丁です。この本は、その時に「随談」として昔の寄席や落語家の思い出などについてしゃべったのを、そのままを活字にしたもの。う～ん、味わいぶかい。毎晩最後にはハモニカ吹いて・・・。この10日間は長い末広亭の歴史でも一番の観客数だったとか。人気のほどがうかがえます。TBSラジオ「小沢昭一的こころ」でのちょっぴり粋でちょっぴり懐かしい独特の語り口がお気に入りの先輩方も多いことでしょう。平日の夕方だから僕は聞けないな～・・・と思ってたら、さすがはこの情報化社会、インターネット上でその週の放送をいつでも聴くことができるのでした。　へ～っ！と思ってさっそく聴いてみたら・・・たしかに面白いのだけど、やっぱりあの夕方の時間、たとえば営業車とかタクシーとかの中だったり、夕飯の支度中だったり、ちょっと早い時間の赤ちょうちんだったり・・・そんな状況でAMラジオからふんわりと漂ってくるのをなんとなく耳にする、というのがいちばん楽しい気がいたしますなあ。　そのほか、廃れ行く日本の大道芸や放浪芸を紹介する仕事もすごく興味深いし、柳家小三治や永六輔らと30年以上活動している句会の話も面白いし（小三治の名著「まくら」などにも登場します）ほんと、いちいち気になる人です。昭和ひとケタ生まれには、おもしろい人たちが多いなあ。

Feb 6, 2008

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久世さんの百鬼園小説

『百けん先生月を踏む』久世光彦著　（朝日新聞社　2006年）※百けんの「けん」は"門構え"の中に"月"　ドラマの名演出家にして小説家、久世光彦氏の最後の長編。季刊の小説雑誌に連載されていたが、最終回を前に久世氏は2006年に急逝。この単行本は未完のまま発表されたもの。　興味深く、一気に読んでしまった。小説家、内田百ケンへのオマージュといって良いものかどうか分からないけど、百鬼園センセイ好きにはたまらないだろうな。はい、たまりません。　終戦後、家族や借金取りから逃げ、小田原にある知り合いの古い寺の離れでひとり息を潜める百鬼園先生。息を潜めるとはいいつつも、寺の小坊主・果林と街の娼家に繰り出したりしながら小説や随筆を書いている。　そうした先生と小坊主、住職や近所に住む貧乏小説家とのやりとりの話に、短編小説が１５篇ほど挿入されている。それらは「作中の」百鬼園先生が書いたもので、実際は著者の久世氏による短編。百鬼園先生が実際に書いた小説集『冥土』などを髣髴とさせる世界。日常の世界から突然異界へ紛れ込んでしまう、そこに漂う不気味さと恐怖とかすかな可笑しさ。「黄色い月」「セルの着物」「狛犬ほどの大きさの獣」などなど、キーワードも百鬼園小説に登場してきたか、いかにも登場しそうなもので、当たり前ながら引き込まれる。　それ以外の、先生と小坊主とのやりとりなどでも、読んだことがある実際のエピソードが随所に散りばめられているし、「先生のああいった作品は創作というより、実際に見た夢をそのまま書いているんでしょう？」と小坊主が先生に問うたり、それに対する先生の受け答え方なども「そうだったかもなぁ」と思わせるものがあって楽しい。日常と非日常、生と死が境目なく混じりあう世界。天変地異や人の死を極端に恐れていたらしい先生。こんな夢を見ていたのかなぁ・・・。　実際には、先生は戦前戦後を通じて小田原に住んだことはなく、したがって小坊主の果林とのやりとりというのはフィクション。ただこの物語の時期は、先生は小説は発表せず当時当たっていた随筆を多く書いていたとのこと。だからこのような未発表の短編があっても不思議はないかも、という想像をするのもまた一興。フィクションとノンフィクションが混じりあいながら、物語は昭和23年久々に発表する『サラサーテの盤』へとつながっていく。結末を知ることはできないけど、未完でも十分に堪能できる一冊。

Jan 20, 2008

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銀座二丁目の角から

　『二丁目の角の物語』　子母澤寛著　　（文藝春秋新社　昭和38年）　以前誰だかの本を読んだときに、この「二丁目の角の物語」を強く薦める文章があって、気になってメモしていた。文庫にもなっていないようだし、検索しても本屋では手に入らなそう。で、こないだ図書館にいったときに思い出して問い合わせたら、書庫の奥からボロボロの一冊がでてきた。　子母澤寛（1892～1968）は新撰組に関する小説や「父子鷹」などで有名な人（といいつつ、僕は「父子鷹」しか読んだ事がないけど）。この本は、彼の前半生を綴ったものらしく、大正のはじめに奥さんと２人の小さな娘を連れて北海道から夜逃げ同然に上京するところから始まる。知り合いの紹介で銀座二丁目の角にある小さな商社に勤めたはよいが、そこがまったくオハナシにならないインチキ商売で何も売れず給料もでず、副業で文章を書く仕事を始めて（といっても人気小説の場所や名前をかえて焼き直すというもの）・・・といった様子。のちに新聞記者となり、さらに新聞への連載小説で身を立てていくことになる、というところまでのおはなし。　かなり切迫した状況に何度も身をおかれるのだけれど、時代がそうだったのか、あえてそのように書いているのか、非常におおらかな雰囲気が漂っている。ちょっとくだけた独り語りの文章も味がある。実話かある程度の脚色があるのだか・・・どちらにしても、ところどころでつい顔がほころんでしまう。インチキ商社の面々にしても新聞社のお偉方にしても、キャラクターが濃くって。「私」も妻も、いきあたりばったりの毎日をこともなげに暮らしている。「今の時代ではこうはいかないだろうな・・」とは思いつつ、読み終わってしばらくするとまた開きたくなる本。　しかし、この本を薦めた文はだれの本に載ってたかなぁ・・・というのがなかなか思い出せない。色川武大だったか吉行淳之介だったか、、、あれこれひっぱりだして探せどもみつからない。あきらめてこの本の画像でも探そうと思って検索したら（借りてきたのは表紙もないものだったので）、綺麗な装丁の本がでてきて、それは伊丹十三氏の手によるものだった。そこで、この本に触れていたのは伊丹氏の「日本世間噺大系」だったことを思い出した次第なり。「生きる希望がわいてくる本」というように評していたなあ。ふ～。こういうのにはムキになってしまうのだよなあ。「あの曲が入ってたレコードはどれだったかな～」とか。・・・で、この画像はとあるところから拝借させていただきました。すみません。　

Jan 19, 2008

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七郎さん

　『言わなければよかったのに日記』（深沢七郎著　中公文庫）　深沢七郎（1914～1987）。風変わりなようで、生真面目なようで、子供のような無垢な心をもった人？　・・・とらえどころのない人。　姥捨伝説を描いた『楢山節考』が有名だけど、僕の中では作家名と作品名はずっと結びついていなくて、初めて意識したのは「モンドミュージック２」という国内外のストレンジ・ミュージックをとりあげた本の中に、深沢氏のレコードジャケットが載っていたのを目にしたとき。もともと氏はギターの名手でもあって、日劇ミュージックホールなどでリサイタルも開いていたひとなのです。このレコード、どんな内容かは分からないけど、ジャケットに写る氏の表情がインパクトあって、忘れられなくなってしまったのでした。なんなんだ、このオッサン・・・。　それから何年かたって、武田百合子の『富士日記』を読んだときに、大岡昇平らとともに深沢七郎との交流も描かれていて、それがまた作家っぽくない雰囲気で、ふらりと立ち寄ってはギターを爪弾いたり。武田百合子とはウマが合うわけだ・・・などと勝手に思ったりしたのでした。（「富士日記」おもしろいです。未読の方は、ゼヒ）　この『言わなければよかったのに日記』は、「文壇のことはおろか世間の常識すらもよく知らない」のに小説「楢山節考」が文学賞をとってしまい、一躍時の人になってしまった深沢氏が、身の周りに起こる出来事や、親しくなった先輩作家などとの交流に一喜一憂するさまが書かれています。大人たちの中にいきなり放り込まれた子供のように警戒したり、ビクビクしたり、ちょっと褒められてウレシクなってしゃべりすぎて、後に後悔してうなだれたり。そんなこんながごく自然体に書かれてて、最初はクスクス笑いながら読んでいるのだけど、だんだん引き込まれていって、こういう人が書く小説だからそりゃ面白いのだよな～、という感じがしてきます。この本を読んだ後に「楢山節考」を読み返したら、姥捨という伝承の残酷さよりも、それを当たり前のものとして受け入れているお婆さんの明るさや力強さが前に出てくる印象で、違った感慨がありました。　尾辻克彦による解説で、「幼児期にはまわりの空気感が透明で、ありありと物が見えていたのに、大人になると自分の体臭が自身について、そのことに気づかないうちに感覚が麻痺して周囲のものがだんだん見えなくなってくる。それが、この文章のこだわりもなく振るうメスの力によって、一点一点透明になっていく。そのメスを持つ（深沢の）手が、まるで幼児の手つきなのだ」　といったようなことが書かれてて、思わず納得。

Nov 30, 2007

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猫と庄造と二人のおんな

　『猫と庄造と二人のおんな』　谷崎潤一郎著　新潮文庫　このところ主に移動中に読んでいた本は「蝉しぐれ」（藤沢周平）、「町奉行日記」（山本周五郎）、「剣客商売」（池波正太郎）など、時代小説の超メジャー作品ばかり。ハードボイルドやクライムノヴェルなど、一度ハマるとつい同じ傾向のものばかりを読み漁ってしまうのだけど、時代小説漬けになると、なんとなく日常生活でも「うむ」とか「さよう」とか言い出しかねないので、合間に軽く読めるものを・・・と本屋を物色。「ありのすさび」という佐藤正午氏のエッセイ集（光文社文庫）を手にする。長崎県佐世保で執筆活動を続ける小説家とのことだけど、僕はまったく読んだことなかった。映画化されてる作品も多いみたいですね。さておき、このエッセイはなかなか楽しかった。日々の執筆生活や佐世保のことなどあれこれ。　そんななか、筆者が３ヶ月ほど猫と同居することになったという話もでてくるのだけど、その項で「これから猫を飼おうと思っている人はぜひとも一読すべきである。ただし、猫好きの男を夫に持つ女性は、夜中に読むと眠れなくなるおそれがある」として取り上げていたのが、『猫と庄造と二人のおんな』。谷崎潤一郎が昭和９年に発表した中篇小説。　老雌猫リリーを溺愛する庄造と、姑と折合いが悪く半ば強引に離縁させられながら、夫への未練からリリーを利用しようとする前妻、猫ばかり可愛がる夫に嫉妬する今の妻。３人それぞれが一匹の老猫に翻弄されて生活の歯車が狂っていくさまを、どこかユーモラスに描いている。とりわけ、文豪！谷崎（僕などは名前を聞いただけで畏れ多い感じがして必要以上に敬遠してしまってたのだけど）が描写する猫の仕草は目の前にリリーがいるようで。甘えたり、素っ気なかったり。登場人物たちが話す関西弁の響きも読みなれてないからか新鮮だった。「夜中に読むと眠れなくなる」かどうかはわからないけど。

Sep 5, 2007

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読みごたえ、あり

　雑誌『暮しの手帖』。今までなんとなく興味を持ちつつも、なんとなく自分で買うことはなかった（あたりまえといえばあたりまえかも、だけど）。長い歴史をもち（昭和２３年創刊だって）、時代じだいの人々のくらしに密着した話題を、同じ視線の高さで取り上げ続ける唯一無二な雑誌です。別冊ものとか、石井好子さんのエッセイなどは手にしたことはあるけれど、レギュラー版（？）をじっくり読むのは初めて。ミカコサンが買ってきたのだけれど。陶芸家ルーシー・リーの記事があったからかな？　　ざっと目を通すと、その読みどころの多さに驚きます。きれいな写真ももちろん豊富だけど、なにより字が多い！そして広告がない！けっして読書家ではないけれど活字大好きな自分はもうそれだけで嬉しくなります。自家製ふりかけの特集や、夏の病気対策、ウォーターシューズ履きくらべ、などの特集も良いけれど、随筆の執筆陣も充実。松浦弥太郎、武田花、牧野伊三夫、常盤新平などなど・・・。加えて、それ以外の編集スタッフが書いた小文や一般読者が寄せた投書なども、なぜだか味わい深い名随筆のように感じさせてしまう・・・というと褒めすぎかなぁ。　長年にわたって培った「ぶれない視点」があるからこその安心感や存在感なのだろうなぁと思います。装丁や文章などクラシカルに見せつつ、しっかり今の時代を見据えてる。「喰ゥ寝ル」とか結構いままで手にしてきたけど、スタイル本位と実質本位とは比べようがないものだな（あちらの「ひと月で食べたものの日記」とか大好きだけど）。「広告がない」というのもスゴイことだと思うし。しかし、もっと前に手にしてたらよかったな・・・「何をいまさらわかりきったことを・・・」とか言う声がきこえてくるような。そして、自分、どこに向かってる？とこの日記を読み返して思ったり。

Aug 27, 2007

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プチ里帰り

　実家に。昔自分の部屋だったところもずいぶん変わったなあ。レコードやオーディオは減り、父の本棚が移ってきてる。ちょっと前の日記で、時代小説読み始めたというようなことを書いたけど、やはり父の本棚はお宝ザックザクだった。とりあえずいろんな作家のを１冊ずつ拝借。佐伯泰英、山本一力、藤沢周平、山本周五郎、池波正太郎・・・。はて、どれから始めるか。あ、こないだ下北沢でのお知り合い、りゅうさんに「読んじゃだめだよ」といわれた浅田次郎の「天切り松闇語り」３巻、禁を破って？読みました。感想はまたいずれ・・・でも、ドキドキワクワクなエンターテインメント、そしてグッとほろりとな展開にもうハマってしまいました。りゅうさん、ありがとう。　で、今日は自分の本棚にあった『ペイパーバック・ライフ／常盤新平』（1990年新潮社）を拾い読み。どういうきっかけで買ったのかはまったく記憶にない。主にアメリカ文学の翻訳家として有名な著者が1980年から1989年まで雑誌『波』に寄稿していた文章を集めたもの。ペイパーバックといえば、洋書の普及版。手軽に読めるもの。日本でいう文庫本みたいなもの。・・・違う？　この本は、洋書ペイパーバックと日本の文庫本（主に当時の新刊モノ）の話題を交えた随筆。買った当時はちょっと洒落た海外文学のエッセイという印象だったのだけど、今回読み返したら、やたらに時代小説が出てきて「おやおや？」だった。ちょっとお洒落っぽい装丁にやられたか・・・。考えれば翻訳家も外国語が読めるだけでなく、それを日本文学として言葉にしなければいけないのだから、大変な仕事であるなあ。。。そういえばジャズやフランス映画などにも造詣がふかかった植草”ＪＪ”甚一氏も池波ファンだったし・・・。叙情性とか美的感覚とか、深いものがあるのだろうなぁ・・・ということで、「ペイパーバック・ライフ」に出てくる時代小説をさらに父の書棚から拝借、という流れでございました。

Aug 18, 2007

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貴重な寄席の記録写真集

　　　　昨日はキムチ鍋を食べて寝て、汗かいてグッスリ・・・と思いきや、未明に点(ネコ)のセミ捕り報告にたびたび起こされ、今朝の体調も今ひとつ・・・でも朝からキムチ鍋の残りを雑炊にして食べ、こんだけ食欲あれば大したことはなかろう、といった塩梅。　このところ寝床や茶の間で眺めている本。　『写真集　高座のそでから』　橘蓮二　2006年、ちくま文庫。　今現在高座に上っている落語家、芸人たちの高座や楽屋での姿を収めた写真集。米朝、仁鶴、春團治ら関西勢も何人かは載っているけど、関東で活躍する師匠たちが主な被写体となっている。この写真集が貴重で素晴らしいのは、小朝、歌丸、円楽、談志といった有名どころはもちろん、普段テレビなどメディアにはほとんど出ることがない、寄席に行かなきゃ噺や芸に触れることができない師匠たちが多く取り上げられているところ。その数150組余。落語に浪曲、講談、曲芸、マジック・・・現代寄席芸人たちのドキュメント。志ん橋（右画像）、さん喬、ぺぺ桜井、順子・ひろしなどなどお気に入りの人もいれば、見たことはないけれど興味を惹かれる表情の小柳枝や正雀など、なかなか見飽きることのない一冊。ごく一部の人以外はDVDにもCDにもならない世界。こうして写真でも残されるということは、意義あることと思う。そして、小三治はなんというか最も噺家らしい雰囲気を漂わせているなあ、と思う。

Aug 14, 2007

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禁断の世界？へ、ついに

　長いこと興味を抱きながらも、一度足を踏み入れると絶対にハマってしまいそうで、その存在が目に入らないかのように意識的に避けていた世界・・・なんていうとかなりオオゲサですけど。　時代小説、初めて読みました。『日暮れ竹河岸』　藤沢周平著、文春文庫。　土曜の横須賀の花火大会のとき、場所取りして時間つぶすのに手ごろな本ないかなぁと物色してつい手に取ってしまった一冊。短編小説よりもさらに短い「掌編小説」ともいえる物語が全19編。どれも江戸の市井に暮らすひとびとの話。職人とかその女房とか。どの登場人物も心に影があるというか、わけありな状況なのだけど、ドラマティックな展開はほとんどない。彼らの日常そのままをを丁寧に描くことで、心の機微だったり街の風景だったりがありありと伝わってくる。小説を読むというより、江戸時代のスケッチブックを眺めているような印象。さらりとした読み口で、何度も繰り返し楽しめる本だと思う。武士モノの時代小説より、こういった町人の生活を描いたものの方が今は読みたいかも。あ、やっぱりハマってしまうかな・・・扉は開いちゃったかな・・・。実家には池波正太郎や山本周五郎の文庫がかなり揃っているようなので（父が好きらしい）、少しずつ貸してもらおうかな、とか思ってマス。

Aug 6, 2007

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漱石

　『文鳥・夢十夜』　夏目漱石著　新潮文庫　文豪・夏目漱石。坊ちゃんも三四郎もたしか読んだけど、「読まなきゃイケナイ」義務感みたいなものがあって、いまひとつそのときは楽しめなかったような気がする。本も音楽も接したタイミングで印象は変わる。今読んだら面白いかな。でも感受性の高い少年期に読みこむべきものだったかな、やっぱり。　この一冊もずいぶん前に手元にあったけど（今書店に並んでるのは表紙も違うし・・・）、なかなか通して読む機会がなかったもの。ここ数年、内田百ケンなど読むうち、その師であるところの漱石にも少し興味が出てきた。で、読んでみたら、結構面白い。・・・なんていうとシツレイか。友人のすすめで飼うことになった文鳥との日々とその顛末を細かく巧みに描写した「文鳥」や、現実と虚構が混じりあうような奇妙な夢の話「夢十夜」、そのほかいくつかの小品が収められている。大真面目に書いているようで、見え隠れするユーモア。お酒のグラスを片手に読むのもまたいい感じです。僕はサントリー角瓶で。　

Jul 26, 2007

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深々と、行間

　『部屋にて』　　　石田千著　2007年　角川書店　石田千さんの今年２冊目の単行本は、月刊文芸雑誌「野性時代」にこの２年間連載されていたのをまとめたもの。そのころから忘れなければ読むようにしていたのだけど、こんなに早く単行本になってびっくりした。　あ、この「野性時代」には、お友達、石黒由紀子さんのゆるゆる街歩きエッセイ「さんぽ」が今もすてきに連載中です。見かけたら、手にとってみてくださいね。　この『部屋にて』。「電球」「ボタン」「ねじ」「りんご」、、、と部屋の中にある身近なものを題材にした小編が２４収められています。過度に女性っぽくなく、なんとなく「湯上りのこざっぱりとした感じ」が今まで石田さんの書いた文章に抱いていたイメージだったんだけど、今回はタイトルからも内容からも、内に向かうというか、自分と対峙しているというか、そのような印象を覚えました。湿度感が増したような気がするのは、今まであまり書かれていなかった色恋にまつわる話も登場するからかな。随筆？私小説？どちらでもよいのですが、石田さんの世界、深化してる。　ひらがなの多い独特な文章に油断していると、グサリとやられます。読み手の状態によって自在に伸び縮みする行間。じっくり読もうとすると全然さきに進めない。昔あったできごとや、人の心の機微などについてじつに淡々と書いているのだけど、こちらの気持ちは波が立ったり凪いだり、不思議な感じ。読むたびに違ったおもいを抱くのだろうなぁ。　　佐々木美穂さんの絵も好いです。　

Jun 7, 2007

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おサカナ好き必読！

『百魚歳時記』　岩満重孝著　中公文庫BIBLIO　お魚大好き日本人。この本は、四季それぞれの旬の魚たち130種類をとりあげ、名前の由来、風貌や生態から地方ごとの別名、さらには旨い食べ方などなどをさらりと気持ちの良い文章で綴ったもの。タイトルに「歳時記」とあるように、それぞれの魚を詠んだ有名無名の俳句も添えられています。見開き2ページで1種類を紹介。画家でもある著者による魚のスケッチも楽しい。カラーだったらさらに良いなあ。　釣りや山歩き、お酒、食べ物が大好きなこの本の著者は、じつは僕の大叔父（母方の祖母の弟）です。僕が子供の頃、同じ敷地内に住んでいたこともあるのだけれど、旅に明け暮れててたまに帰ってくるこの叔父さん、フシギな存在でした。もう長いこと会っていないけど、元気かな。僕は、釣りや山登りとは縁遠いけど、食いしん坊の血は受け継いでしまったようです。。。最近、本屋の食に関するコーナーにこの本が平積みになってたのを見つけたので、思い出して読んでみたのでした。一冊通して読むのは初めてかも。面白かった。どのページを開いても楽しめるので、眠る前とか移動のときに手元にあると重宝します。ほかにも『絵筆ほろ酔い味紀行』とか『京の和菓子』など多数の著書があるので（多くは絶版だけど・・・）、少しずつ読んでいこうと思ってます。

May 29, 2007

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昭和初期の東方見聞録

　『東京に暮す　1928～1936』　　キャサリン・サンソム著　　岩波文庫　イギリスの外交官の夫とともに昭和初期の東京に暮らした英国人女性による、日本の印象記。昭和初期といえども、鎖国が解けてからまだ5～60年。西洋文化の流入による急激な変化に対応しつつも、古くからの日本独自の習慣や伝統も色濃く残っていた時代。そんななか、サンソム夫人は、文化の上っ面でなく庶民の暮らしぶりや慣習などに強い興味を抱き、使用人家族（当時の外交官は今以上にVIPでした）をはじめ様々な日本人たちと付き合い、いろいろなところに出かけ、驚き、笑い、呆れ、感動しています。一般に人付き合いが得意でなく（でももてなし好き）、はにかみ屋で、派手さを嫌い、個人よりも「家」を重んじる日本人。のんびり明るく質素に暮らしているが、西洋の文明や文化を採り入れることに秀でていて、昨日はじめて見たものが翌日にはすでに自分のものになっている、と記しています。個人主義の西洋とは、結婚制度にしても、子供の育て方や仕事上の対人関係についても全く異なった伝統を持っているので、とまどいや苛立ちを感じたこともあったようです。でも、全体を通してこの極東の国を親しみや敬意をもって見つめ、自国の読者に伝わるように書かれています。なにより、高い教養とユーモアを持った著者の文章に惹かれます。頑固一徹な老庭師の見事な仕事ぶりや、庶民も裕福な者もすべての日本人が持つ美的感覚のすばらしさ（オリエンタルなものに対する筆者の憧れもあるのかも知れないけれど）。日本アルプスや富士山など、自然の美しさや、登山の際に立ち寄った茶屋や温泉、農家でのひととき。百貨店にやってくる田舎からのお上りさんや、普段はのんびり屋で善良な人たちがラッシュの電車やバスだと豹変するさまなど。つい笑ってしまう場面もたくさん。ちなみに、刺身や佃煮など和食は大体において口に合ったようだけど、タクアンと海藻（ワカメ）はダメだったみたい。　サンソム夫妻が滞在している間に、日本は国際社会で孤立するようになり、ついには戦争へと向かっていくことになり、夫妻もイギリスへと帰国。しかし、戦後、夫のサンソム卿（外交官のかたわら、日本の文化や歴史に関する研究者・著述家としての一面もあった）が極東委員会のイギリス代表となったため再び来日したりと、夫妻と日本との関係は生涯続いたようです。この本に描かれた時代から、7～80年。日本人も他の国の人たちも生活はさらに劇的に変化したけど、著者が感じ取っていた日本人の内面的な良いところ、そうでないところ、どんなふうに残っているかな？

May 25, 2007

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慕い慕われ

　『師匠噺』　浜美雪著　　2007年　　河出書房新社　12人の落語家たちが、それぞれの師匠との出会い、入門、稽古、現在の想いなどを豊富なエピソードで語るインタビュー本。弟子も師匠も個性際立つ面々。この師匠にしてこの弟子あり。笑いつつもホロリとさせる極上の人情噺となっています。笑福亭松鶴と鶴瓶、柳家小さんと柳亭市馬、桂文枝とあやめ、古今亭志ん朝と志ん五・・・稽古を熱心につけてくれる師匠やまったく教えてくれない師匠、弟子のしくじりへの叱咤とフォロー、芸に対するそれぞれの厳しい取り組み方や生じる悩みなど・・・。赤の他人が突然家族になって、無償で一から育てていくという世界。しかも育て方は師匠次第で千差万別。その時は理不尽な扱いと思いつつも、後々になってわかる親心。師匠を愛し、いつまでも超えることのできない存在と思いながらも、少しでも近づきたいという思いはそれぞれ噺家に共通したもののようです。弟子もキツイけど、師匠もタイヘンだ。個人的には、存在自体が大好きな故春風亭柳昇とその弟子の昇太のホノボノ・のびのび師弟関係と、近頃の寄席でのお気に入り、柳家さん喬とその弟子の喬太郎が取り上げられていたのが嬉しかった。談志と志の輔なんかも取り上げられているけど、各所で取り上げられている師弟だけに、いまひとつ目新しい内容ではなかったかな。まだ自分の興味は談志イズムまで到達していないようです。

May 17, 2007

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救われてるのか？

　『人生を救え！』　町田康・いしいしんじ著　（角川文庫）　町田康が毎日新聞紙上でおこなっていた人生相談と、町田氏といしいしんじ氏の対談をおさめた本。相談は、週刊誌などではなくて新聞の日曜版への連載というところが面白い。「何をやっても続かない」「明るい性格になりたい」「家事が苦手」といった一般的なものから「哲学にハマっている夫」「俳優さんに会いたい」「美人なのにふられる」など、ちょっとインパクトのある質問にも、町田氏は丁寧に（あの）独自のスタイルを変えることなく、時に突き放し、時に放り投げ、時にうっちゃります。相談者は本当に悩んでるのか、それともどんなふうに答えてくれるかを楽しみにしているのか、そのあたりもナゾ。まじめな読者からの反響はどうだったんだろう。でも、結構突き放しつつも毎回本質をつく文章であったりするので、読み物としても面白かった。町田康の文章はその独特な文体ともども、心にちょん髷を結ったパンク侍な感じで、ハマると抜け出せないものがあります。詩集も小説も日記もよく読みました。町田町蔵（INU）の頃の音は聞いてないけど。　後半のいしいしんじ氏との対談は、浅草やお台場などをブラブラ歩きながらあ～でもないこ～でもないと目についた物などをネタにユルく雑談してるもの。町田氏といしい氏、書いているものやキャラクターなど対照的な印象もあるけれど、ほぼ同年代で大阪出身のふたり、それぞれマイペースながら、ときおりのぞかせるアナーキーな雰囲気は意外と共通しているのかも。

May 8, 2007

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JJ氏の東京

　『ぼくの東京案内』　植草甚一著　　晶文社　晶文社創立４５周年記念として、2004年から順次復刊された『植草甚一スクラップブック』全40巻＋別巻1。もともと1976年から1980年にかけて発刊されたもので、古書店でも人気があったシリーズです。映画、音楽、小説など幅広い分野で数多くの文章を遺してきたJJこと植草氏の集大成となっていて、僕も音楽ものを中心に何冊か持ってます。そういえば子供の頃、大叔父の部屋にあったのを今思い出しました。本だらけの部屋の隅で（大叔父は文筆家です）このシリーズにかけられているビニールカバーが直射日光でベトッと溶けかかってたような。　この『ぼくの東京案内』は、植草さんが生まれた明治末から大正・昭和初めの日本橋あたりを中心とした昔の東京と、その後（昭和50年前後）の今（発刊当時）の東京のことを書いた文章を集めた一冊。植草さんはいつでもその時その瞬間を謳歌している印象があるので、昔をふりかえるような文章を書いていることに少し違和感があったけど、いろんなことに興味を持った氏ならではの面白い話がいっぱいでした。明治生まれの江戸っ子なんてイメージはなかったなぁ。海外文学にドップリとつかり、東宝の社員となって映画のプログラムを編集したり、50歳目前にして突如ジャズに目覚めて若者たちに紹介したり、宝島の創刊にかかわったり。ミンガスにケルアックにフランク・ザッパに池波正太郎etc・・・この人の頭の中はどうなっているんだろうと不思議になったりもするけど、散歩と買い物が好きだった植草さんなのできっと音楽でも文学でもその他の雑学でも、思いつくまま気の向くままに散歩感覚で貪欲に吸収していったのでしょう。欧米の文化や風俗を紹介し続けた氏の影響を受けた人はたくさんいるんだろうなぁ。かくいう僕も、「コラージュ日記」などをワクワクしながら読みふけっているわけです。

Apr 25, 2007

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「行きつけの店」を巡る一冊

　『山口瞳の行きつけの店』　山口正介著　（2007年　ランダムハウス講談社）　『行きつけの店』という本がある。「江分利満氏の優雅な生活」「居酒屋兆治」などの著者、山口瞳（1926～95）が書いたもので、僕もときどき引っ張り出しては拾い読み・・・のつもりが、いつも読み耽ってしまう。タイトルからはグルメ本、名店紹介本のような印象を受けるが、そういう内容とは一線を画していて、それぞれの店を通して、そこを訪れるときの著者の心持ち、従業員の接し方の気持ち良さやそれをつくりだす店主や女将の人柄などを著者ならではの視点で綴っている。もともといろいろな店を食べ歩く習慣はなく、ここと決めた店があったらひたすらに通いつめるという。そのため、店の人たちとは家族ぐるみのつきあいになる。酒や料理について紹介するのではなく、頑なに人について、店について語っている一冊。　で、今回読んだ『山口瞳の行きつけの店』は、瞳の一人息子である正介氏（小説家、エッセイスト）が父のいきつけの店について、子供の頃に連れて行ってもらったときの思い出や、当時の瞳や山口家をとりまく状況などを綴っている。東京都内をはじめ、後半生を過ごした国立の店、旅のおりに訪れた各地の宿など、『行きつけの店』に収められたもの、収められなかったところのことが記してある。本人が決して書かなかった事柄やこだわりなど、なかなかに興味深いエピソードもあるけど、結局これを読むとおおもとの方を読みたくなってしまう。山口瞳の人とのつきあいかた、物事のとらえかた、文章の魅力に触れたくなってしまう。というわけで、『行きつけの店』をぜひ読んでみてください。新潮文庫から。

Apr 19, 2007

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ぽっぺん

　『ぽっぺん』　石田千著　（新潮社）　石田さん４冊目の単行本。前３作と同様に、日々の生活や子供の頃のことを綴った随筆集です。僕はこの人の書く文章が好きです。ドラマ性はない日常的なお話だけど、日々を丁寧に暮らしているのが伝わってきます。言葉の選びかたや、淡々として少しだけ乾いた視点。ちょっぴり懐かしさも覚えます。「ぽっぺん」は、薄いガラスの玩具。半球型にストローのような細長い管がついた形をしていて、息を吹き込むと「ポコン」「ペコン」とガラスが鳴ります。僕も子供のころ吹いた記憶があるけど、なんだか繊細で割れてしまうのではないかとオッカナビックリだった。物事にはいろいろな見方があって、ふとした機会に、今まで持っていた自分の価値観が変わったりします。そんな時には心の中のぽっぺんが「ポコン」「ペコン」と鳴るような気がする、というようなことが書かれています。いろんなことがひっくりかえる。その時は気づかなくても、後でふりかえると「あの時に鳴ってたんだな」というように。お料理をしたり、銭湯に行ったり、酒場に行ったり、スワローズを応援しに行ったりしながら、石田さんはそれらを優しい言葉で、でも誰にも真似できない独特の素敵な文章に仕立てていきます。さらりと読めてしまうけど、ゆっくり読んだほうが楽しめて、何度も読み返したくなる。そんな一冊です。

Apr 15, 2007

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野菜を干すっ・・・

　魚の干物用に買った一夜干しネット。　お魚はまた挑戦するとして、ほかの活用法はないかな？シイタケはやったし、お肉干すのもいいなあ・・・とかぼんやり考えつつ、本屋の料理本コーナーでこんな本を見つけました。　『干し野菜のすすめ』　有元葉子著。文化出版社より。　日常使い慣れた野菜たちをカタッパシから天日干しに。大根、ニンジン、ナス、キャベツ、きゅうりに白菜、トマトにアスパラなどなど、なんでも半日ほど日光にあてるだけ。半干し状態で、ずいぶん縮んでしまうようだけど、水分が少ないぶん炒め物や揚げ物では時間も短縮、煮ても崩れにくくなるのだとか。なにより野菜本来の甘みがギュッとでるというのが、へ～という感じ。そういえば去年江ノ島で花見パーティやったとき（雨で室内だったけど）、セミドライトマトを作ってもってきた人がいて、たしかに甘くて美味しかったな～・・・。週末なにか干してみよっ。そのうちガッツリ干して乾物なんかもやってみよ～。　　ちなみにこの本、立ち読みのみでまだ購入してないのだけど・・・。レシピもたっぷり載ってます。そういえば有元さんは乾物料理の本も出してます。人気の先生だけど、結構地味で滋味な素材も扱ってるんだなぁ、と勝手に好感度アップ。

Apr 11, 2007

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ガイコツ新聞

　『学術小説　外骨という人がいた！』　赤瀬川原平著　　（ちくま文庫）　明治時代を中心に「滑稽新聞」や「スコブル」などの新聞雑誌を発刊し、卓越した風刺と反骨精神、それに絵・言葉遊びなどのユーモア精神を紙面で発揮し続けた宮武外骨（本名です）。この本は、ある日古書店でガイコツの雑誌を手にしてその魅力にとりつかれた赤瀬川氏が、その可笑しさ、トンガリ具合、シツコサや不屈っぷりを、豊富な現物記事や図案・写真を用いて解説しているものです。1985年に出版された本なので、80's独特のやや軽めの展開や文体が多少気になるものの、それを補って余りある充実の内容となっています。外骨さんはなによりエネルギッシュ。人を食っていて過剰なほど遊び心があって、でも不当な権力行使や制度に対してはトコトン糾弾する。しかも極上な風刺を効かせつつ。とはいえ時代は明治。今とは比べようのない強権体制です。発禁・罰金刑は当たり前、投獄も４回ほど。しかしガイコツ、めげません。それらも格好のネタとして記事を書き続けていくさまは痛快であります。引用されている当時の記事はもちろん旧字体で組まれているし、活字も小さくて正直読みづらいんだけど、それがかえって可笑しみを増しているようにも感じられます。小説と違い、ある意味使い捨て文学ともいえる新聞や雑誌の世界で、今なお関心を持たれる外骨の刊行物の普遍性や新鮮さもすごいけど、当時の人々がこれらを読んで実際どのような反応を示していたのか、赤瀬川氏同様気になるところです。　宮武外骨や滑稽新聞という名前や、外骨が蒐集した風変わりな絵葉書コレクションのことはなんとなく知っていたけど・・・今まで読まなかったのが少々悔やまれます。この本以外にも伝記その他関連する書籍はいろいろあるようですが、取っつきやすさや楽しさからいったら本書が最適な気がします。タイトルについてる「学術小説」というのもちょっとパロディっぽい響き。

Apr 9, 2007

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酔顔鑑賞

『夕べもここにいた！』　なぎら健壱著　　毎日新聞社　わが心の兄ィ、なぎら健壱氏の新刊。　本屋をぶらついてたら平積みされてるのが目に入って、気づいたら手にとってレジに並んでた。　サンデー毎日に連載されていたものを集めた本らしいです。　東京下町を中心に、なぎらさんが日ごろ良く顔を出す飲み屋さんを紹介したもの。といってもよくある居酒屋ガイドではありません。なぎらさんの視点で語られているので、この本を持って掲載店をめぐってもあまり参考には・・・。ノンベエゴコロをくすぐる店が多いことは確かですが。酒場の紹介というよりは、なぎらさんとその酒場とのエピソードを江戸っ子口調で問わずがたりな感じで綴っています（なぎらさんは銀座・旧木挽町の生まれ）。　深川、月島、森下から中目黒、吉祥寺なども。古くから通ってる店だけでなく、最近知った新しいところも取り上げられているところが、タイトルの「夕べもここにいた！」な感じがよく出てて、楽しめます。　でも、この本のどこが見どころかというと、なんといってもほぼ全ページで見ることができるなぎらさんのゴキゲンな呑み顔。なんでここまで！というほど豊富なカラー写真。どのページを開いても赤い顔してイイ調子。たまりません。こちらもなんだかソワソワしてきちゃう。　疲れたとき、行き詰ったときにはこの本を開いて・・・とまではいかないか。　なぎらさんの軽妙な文章をたっぷり味わいたい向きには『東京酒場漂流記』や『下町小僧』なども、ゼヒ。名著です。いずれもちくま文庫より。　あと、なぎらさん関連では月刊誌「食楽」に連載してる、古きよき時代の食堂や喫茶店などを訪ね歩くのもあって、そちらも楽しいので見つけたらとりあえず立ち読みでも（失礼・・・）。そして、そのキャラとかけ離れた？澄んだ歌声も、ゼヒ。「イッポンでもニンジン」以外でも、ゼヒ。。

Mar 23, 2007

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旦那の意見

　『旦那の意見』　山口瞳著　中央公論社　1977年　代々木上原の古本屋で引越し前に購入。今から30年前に出版された山口氏初の随筆集。地元国立での生活、川端康成との思い出、田中角栄を通して見る戦後の日本、、、約15年間あちこちに書いた文章を集めたもの。クスクス笑いながら読めるものからグイと引き込まれる勢いのあるものまで幅広い内容です。この人の書いたものを読むと、戦中戦後の混乱やその後の経済成長期の雰囲気が一生活者の視線でリアルに伝わってきて、さりげない一文に胸が詰まったりします。書かれているのは非常に個人的なことなのだけど、そういう経験を当時みんながしてきたんだなぁというのが伝わるのです。文章も簡潔でいて人の心を掴む。強気と弱気、内に持つ熱さとコンプレックスの微妙なバランス、そのすべてを吐露してしまおうという覚悟が山口瞳の大きな魅力になっている気がします。　山藤章二の装丁が秀逸。襖の向うにいるのはしかめっ面の旦那かと思って表紙をめくると・・・。　　　　　　

Mar 5, 2007

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憧れのヒルトップ

　『山の上ホテル物語』　常盤新平著　白水Uブックス　　神田駿河台の東京都心では珍しい高台に建つ「山の上ホテル」。三島由紀夫、池波正太郎をはじめ数多くの文筆家に愛されたホテルの魅力を、創業者吉田俊男氏をはじめとする従業員たちのエピソードや、宿泊した作家たちが記した文章でつづった一冊。規模も大きくなく、設備も最新とはいえないが、それだけにすべての宿泊客に目が届き、心地よいサービスが提供できているのだという。また、宿泊定員のわりに洋食、ステーキハウス、中国料理、天ぷら、バーなど飲食施設が多く、どれもがすこぶる評判のよい名店となっているのも、吉田俊男の精神があらわれているみたい。人間味ある手作りの宿。ホテルは旅館とはまた違った客との距離感が重要だけど、そのところにおいて非常に「程のよい」のが山の上ホテルだったようだ。普段はあれこれ構わずに、なにか必要事があるときには迅速に的確に対応する。従業員たちには初々しさがあり、ここで働けることに喜びを感じているようでいつ訪れても気持ちよいサービスを受けられるという。山口瞳や池波正太郎などの随筆に度々登場していて「どんなところなんだろう」と気になっていたけど、この本を読んでずいぶん「知った」気になってしまった。いつかいってみたい。barだけでも。

Feb 26, 2007

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こだわりの世間バナシ

『日本世間噺大系』（1976年）　伊丹十三著　新潮文庫　不思議な本だ。。。小説でもなく、エッセイでもなく、笑いに走るでもなく、教訓めいたことを語るのでもなく・・・でもそのどれにも当てはまるようでもあるし。架空だか実在だかもわからない、整体師や塩田労働者、地方選挙の票集めの実力者やドイツの博物館に魅せられた人たちなどがインタビューや座談会形式で次から次へと登場。怪しい方言丸出しだったり、やたら事情通だったり。すべて伊丹氏の創作なのだろうけど、まったくのデッチアゲなのか緻密な取材に基づいたものなのかもよく分かりません。「プレーンオムレツのつくりかた」を徹底取材した項を除いては、知っていても何の得にもならないものばかり。そういう事柄を徹底的に仔細にこだわるというのがこの作品のテーマのようです。のちのちの映画作品の雰囲気もチラリとうかがえるような。読後感もこれまた不思議でありました。「・・・で、なに？」て感じで。なにが「大系」なのか・・・。そこがまた、よいのだけれど。伊丹版「ほら吹き男爵」か？

Feb 20, 2007

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昭和喜劇史

　『日本の喜劇人』　　小林信彦著　　（新潮文庫）　３～４年前に拾い読みして、ほとんどわからなくて放置して、今度わりとしっかり読んでみて、やっぱりほとんどわからなかった本。戦前・戦中の古川緑波（ロッパ）、エノケンから森繁、伴淳、トニー谷、フランキー、脱線トリオ（由利徹！）、渥美清、クレージー、萩本欽一。大阪では古くはエンタツ・アチャコから藤山寛美・・・。名前は見聞きしたことはあってもリアルタイムで体験したのは欽ちゃんぐらい（しかもコント55号解散後）という自分のような世代には分かりようがないのが当然。知りたいという欲はあるけど、活字で読んでも空しさがつのるばかり。実体験しないことには、ねぇ。。。著者・小林信彦氏は昭和16年、小学生のときにロッパの喜劇舞台をみて衝撃を受け、その後笑いの世界にのめりこんでいく。すごいのは氏が日記に残してきた膨大な記録。いつどこで誰がどんな演目でやったかはもちろん、細かいギャグまで克明に記してあるようで、のちに放送作家を経て大衆芸能のアンソロジーや小説も数多く手がけることにもなるのだが、人生を一貫するこの熱の入り方は尋常じゃない。舞台から映画、そしてテレビ、それぞれの栄枯盛衰。細かい事柄をひたすら積み上げて書いてあることにより時代の大きな流れを感じることができる。喜劇役者で売れたのち、ある程度キャリアを積むとシリアスな芝居を目指すもの、変わらず笑いに徹するもの。数多くの喜劇人の姿を通して、昭和の空気を伝えています。あと、「アチャラカ」と「ドタバタ」の違いについても触れられていて、同義語で使わている言葉だけど小林氏は「こまかい計算によるタイミングよい動きで見せる喜劇がドタバタ、きちんとしたルールから脱線してゆくのがアチャラカ、という風に私は峻別している」と書いている。へぇ。　スカパーの「日本映画チャンネル」とかに入ると、いいのがたくさん観れるんだよなぁ。。まだしばらく机上の想像で空しき日々を送ります。

Jan 25, 2007

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とりつかれる男、ジュゼッペ

『トリツカレ男』　　いしいしんじ著　新潮文庫　いしいしんじ氏の著作を読むのはこのひと月で３冊目になります。一人の作家が気になると、ついつい・・・。この本は、大人も子供も楽しめる中篇の物語小説。ゆっくり読み進めてもでも一日で読み終えてしまいます。でも、繰り返し開いてもその都度楽しめそうな、噛みしめ甲斐のある味わいがあります。ちょっとココロくすぐられる人物や情景の描写。「トリツカレル」ということの純粋さに、こそばゆいような、うらやましいような。。。　次から次へとじつに色々な物事にのめりこんでしまう「トリツカレ男」ジュゼッペと、外国から来た表情にどこか「くすみ」がある少女ペチカ、そして人間のコトバをしゃべるハツカネズミ。物語の筋はどこかできいたことがありそうで、でもやっぱり独特な「いしいワールド」です。なんとなくエーリヒ・ケストナー（「点子ちゃんとアントン」や「飛ぶ教室」を書いた人）を思い出します。読み手の世代を選ばないところや、読み手との距離感の心地よさとか。たまには、こういう読み物も。　ツイストのレコードをかけてダンスの練習に余念のないギャングの親分とか、いいキャラ出てくるんだよなぁ・・・。

Jan 22, 2007

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暗がりのなかの美

　『陰翳礼賛』（いんえいらいさん）谷崎潤一郎著　中公文庫　近頃読んでいた「俵屋の不思議」ほか、何冊かの本の中で触れられていて気になっていた一冊。谷崎潤一郎の書いたものは、いかにも「文豪」な重厚なイメージにビビッてまったく読んだことがなかったけど、これは随筆あるいは「日本人の美意識に関する論文」ともいえる内容でした。　能、歌舞伎や文楽などの古典芸能から、食器や屏風などの室内用品のしつらい、そして鉄漿（おはぐろ）や眉剃りなど女性の身だしなみまで、古来より日本人が愛でた美しさは、すべて微妙な陰翳のバランスで成立していた、というような話。現代のような電灯のまばゆい明かりのもとでは、闇から浮かび上がるような光や色気、あるいは闇の濃淡を感じることはできない。西洋人が太陽光線が重なり合った磨き上げられたような輝きを求めるのに対し、日本人の好むのは闇の堆積であると。「美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える」。たしかに、金で飾られた屏風や仏像などでも直接光をあてず、うす暗いなかで浮かび上がるようにぼんやりした光を発する雰囲気は日本的な美しさだと思うな。　この文章が発表されたのは昭和８年。その後日本はますますギラギラと蛍光灯的な光に溢れるようになった。いまの生活で「真っ暗闇」を体験することはまずないでしょう。高校生の頃鎌倉の友達の家にいくときに近道だといって裏の山道を通ったとき、前後左右も上下もまったくわからない漆黒の闇で（月もでてなかった）、ああ、ほんとに真っ暗だと思ったのはそのときぐらいだなぁ。　衝撃を受けた！というような話ではないけど、うなずける部分多し。あと、数十年前の日本語のボキャブラリーの豊富さにあらためて気づかされました。僕たちが使っている語彙は確実に減ってきているなあ。美しい日本語の文章にもっと触れてみたい、と感じたり。

Jan 18, 2007

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伝統とモダニズム

　『俵屋の不思議』　村松友視著　幻冬舎文庫　京都で300年続く老舗旅館「俵屋」。その女主人である佐藤年さんを中心に、俵屋にかかわる人や場所を丹念に取材した村松友視が、読み応えある一冊に仕上げています。　京都は、そこ以外に暮らす者にとって非日常な物事が日常の生活とまじりあって独特の雰囲気をつくり出している場所。伝統の技をもとめる需要が京都にはまだあるので、その注文に応えられる本当の職人がかろうじて残っているのだそうだ。そしてもっとも厳しくそして的確な眼力をもっている注文主が俵屋の年さんであると、取材を受けた職人さんたちは異口同音に答える。大工、植木、表具、畳、和紙・・・。素材や製法などへのこだわりと自信。どの世界も先行きは楽観できないようだが、年さんのような厳しくもあたたかい施主がいるかぎりは大丈夫かもしれない。　頑なに伝統にしがみついているのが俵屋かというとそうではなくて、宿泊客が心地よく過ごすことが何よりも大切という強い思いがまず第一。そのために普通ほとんど目に付かないような細部への徹底したこだわりが生じているのだろう。年さんのご主人の故アーネスト・サトウ氏は日本人の父とアメリカ人の母を持ち、写真家・芸術全般の教育者だった人。彼が提唱していたのは「よきモダニズム」であったらしい。日本伝統の様式美と西洋の現実主義的なセンスの融合。それは俵屋の精神として今も生きているという。古いものの中の新しさ、新しいものの中のなつかしさ。絢爛豪華ではなく、洗練されていて「わかる人にはわかる」こだわりがあって。でも誰もが気持ちよい最上の時間が過ごせる場所。　もちろん僕は泊まったことなどないけれど、いつか自分にも訪れる資格があるかもっ！と思える日が来たら、その雰囲気を味わってみたいものです。

Jan 10, 2007

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とん、たたん

　『麦ふみクーツェ』いしいしんじ著　（新潮文庫）　大人も子供も楽しめる物語。もっと早く読んでおけばよかった。　とある島（大きい島のようです）の港町に暮らす、人一倍身体の大きな男の子（愛称「ねこ」）と数学教師の父、町の吹奏楽団の監督役の祖父の３人家族を中心に、彼らや町全体に起こる悲喜劇。いつのころからか主人公「ねこ」の耳の中で鳴り続ける"とん、たたん"という麦ふみの音。　物語の登場人物たちは、身体がばかでかかったり、盲目だったり、手足がガクガクとしていたり、何らかのハンデやコンプレックスをもっている（「へんてこ」たち）。みな明るい表情で前向きで、なかには悲しい最期をむかえる人もいるけれど、自分のやることに誇りをもって、やりとげている。・・・「へんてこ」でよわい者たちは、あつまりたがる。ひとりだと目立って、ひどいめにあいやすいから。でも結局ひとりなのに変わりはない。その「へんてこさ」に誇りを持ちつづけるためにそれぞれの"わざ"をみがく・・・。読んでいて元気になる一冊。架空の国の突拍子もない物語のようでいて、じんわりと心にしみます。そして、音楽や合奏することのすばらしさも伝わってきます。

Jan 6, 2007

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屋上がえり

　『屋上がえり』　石田千/著　2006年　筑摩書房「月と菓子パン」「踏切趣味」に続く、石田千さんの単行本第三弾。今回は、さまざまな建造物の屋上にのぼり、そこから見える景色やそこに居合わせた人や物のようすを、石田さん独特の視線・文体で綴ったエッセイです。筑摩書房の月刊誌「ちくま」に連載されていた20篇プラス書下ろし1篇。屋上訪問は、デパート、病院、新聞社、大学、博物館、古書店、バッティングセンター、などなど。自身の思い出なども織り交ぜつつ、見えているものを淡々とそして丁寧に描写しています。つねに対象物とある程度の距離をたもって客観的に書いているようだけれど、落ち着いたあたたかみが感じられて、こちらも一行一行丁寧に読み進めます。屋上からの眺めは、下の通りを行き交う人だったり、向かいの雑居ビルの屋上に墓標のように並ぶ空調の室外機だったり。そして、屋上にやってくる人たち。おじさん、おばさん、家族連れ。劇的なことはなにも起こらないけど、普段の暮らしでは目に留まることもない瞬間瞬間が切り取られていて、文章からその光景がとても具体的にみえてきます。ことばの選びかたや例えかたも、日常的だけどはっとさせられるような意外性があって、かみしめつつ読了。さっぱりした読後感。年の瀬やお正月、ゆっくりとページを繰るのに最適な一冊です。　表紙デザインは★☆☆。　今日は午後に思い立ってブラリ三崎港へ。久しぶりです。路地を歩いて、海南神社を拝して、中華料理たべて、かえってきました。気持ちのよい港町でした。

Dec 29, 2006

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いしいさんの三崎だより

『いしいしんじのごはん日記』（新潮文庫）　作家・いしいしんじ氏のHP日記が文庫化。神奈川・三浦半島の先端、三崎の港近くに居を構えた氏の日々の生活（2001.9.12～2002.12.31）が綴られています。僕と同世代（氏はひとつ年上）。大阪出身で京都の学校卒。上京後、三崎に住むまでは浅草で暮らし、現在は三崎と信州・松本を行き来しているのだそうです。「ごはん日記」というタイトルだけれど、食事のことばかりが書かれているわけではありません。創作やら、お茶の稽古やら、出版社での打ち合わせやら、日常の出来事ぜんぱんを。でも、やっぱり気になるごはんのこと。三浦半島近海のそれはそれは新鮮な魚介やとれたて野菜が毎日の食卓に普通にのぼっていて、それはそれは美味しそう。三崎は港町で、いわゆる「向う三軒両隣」の隣組の習慣・制度がしっかり根付いていて、お向かいの子供やら隣のスナックのマスターやら、近所づきあいも濃ゆそうです。そしてなにより、いしい氏の暮らしぶりが気持ちよい。実に自然体。もちろん自分の心身の生活ペースや創作のペースを大切にしていて。・・・ほんとはこの日記も創作なのかっ？　なんて。　「まぼろしの猫」「素潜り」「かます塩レモン」「赤むつ」・・・気になったら、書店で手に取ってみましょう。巻末に収められてるのは、作者と三崎の魚店の主人との対談（！）。おもしろすぎ（魚屋さんが）。こんな本、そうそうないよ。　この本を読んだあと、さっそくいしい氏の物語小説「麦ふみクーツェ」に取りかかろうと思うも、本屋で石井千さんの新刊「屋上がえり」（筑摩書房）をみつけ、とりあえずこちらから読み始めます・・・。いろんな建造物の屋上に上ってはあれやこれやを書きとめる、という趣向の雑誌連載原稿をまとめたもの。さっぱりと気持ちの良い、湯上りのような文体がお気に入りの作家さんです。彼女もまた同世代（氏はひとつ年下）。　しっかし、今日は朝から深夜まで、東京はがっつり雨降りです。　

Dec 26, 2006

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百鬼園写真帖

『百鬼園写真帖　内田百間集成24』　ちくま文庫　※（「間」は正しくは「もんがまえ」の中に「月」）　久々の百けんセンセイ。といってもバッグの中には常に「御馳走帖」とか「百鬼園随筆」などが忍ばせてあるのだけど。今回読んだ『写真帖』は、全24巻からなるちくま文庫の「内田百間集成」の最終巻。タイトルのとおり、百鬼園先生（1889～1971）の幼少期から晩年までの豊富な写真に書簡や、自宅の間取りまで収録。文章は、代表的な著作からの引用が写真のテーマに合わせた形で挿入されています。大きな頭に丸眼鏡、口をへの字に結んだ、いかにも癖のありそうな先生の写真は見飽きることがありません。失礼ながら。　この本をさらに楽しくしているのは、石田千、久世光彦、阿川弘之の三氏が文章を寄せていること。石田千さん（「月と食パン」や「踏切趣味」の著者で、僕のお気に入りの作家さん。同年代。）が先生と愛猫のノラやクルツについて書いたものはついついホロリとさせられるし、久世さん（演出家・作家）は百間先生の「サラサーテの盤」の世界に迷い込み、阿川さんはセンセイと共通の趣味、陸海空の乗り物についても触れながら、作品の印象などを語っている。この一冊もバッグの中の常連さんになりそう。　ただ、ちくま・岩波・新潮など今出ている文庫版は中公文庫を除いて、仮名づかいや漢字が現代のものに直してあるのだけど、旧かなづかいで作られてる本のほうが読んでいて味わいがあって良いなぁ、と近頃思っています。ぜひオリジナルな形で出版してほしい。

Nov 21, 2006

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飲めば天国

「美酒楽酔　飲めば天国」世界の名酒事典・編集部編　2006年　講談社　タイトルと、和田誠氏による表紙からして当然の「ジャケ買い」。ワインやウィスキーをはじめとする、日本で手に入るありとあらゆる洋酒を年鑑形式のムック本で世に紹介する「世界の名酒事典」に寄稿された文章や対談を集めた一冊。事典は立ち読みしたことがあるくらいだけど、この本は目次を立ち読んで衝動買い。阿川弘之と開高健の対談、遠藤周作、赤瀬川原平に埴谷雄高らのエッセイ、他にも吉行淳之介、陳舜臣らの作家勢や、醸造やワイン流通などの専門家たちによる”雑多”な読み物集。寄せ集めのような文章たちだけど、一編一編は読み応えがあり、不思議と充実の読後感です。個人的には丸谷才一・小田島雄志・和田誠の対談が楽しかった。文学や演劇や女性の話を軽い感じでお酒を交えてキャッキャと盛り上がりつつ話しているさまがなんともいえない。読んでもあまり「お酒が飲みたいっ！」という気持ちにはならなかったな。読むだけで酔えたのかな。　僕のPCは「のむ」と打つと「飲む」より先に「呑む」と変換されます。たしかに憶えあり。

Nov 8, 2006

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The Black Dahlia

『ブラック・ダリア』ジェイムズ・エルロイ著、吉野美恵子訳。文春文庫。　もうすぐ公開となる映画「ブラック・ダリア」の原作。「LAコンフィデンシャル」「ビッグ・ノーウェア」「ホワイト・ジャズ」へと続くジェイムズ・エルロイの通称”暗黒のLA四部作”の一作目。一時期この作家にはまってしまい立て続けに読み漁ったんだけど、また久々に読み始めてしまった。一冊のボリュームがかなりあるんだけど、読み出したら止められない。息をつかせぬ展開と、全体を支配する暴力や絶望感にクラクラしつつ、かなり感情移入しながら貪り読む。　舞台は1940年代後半のロサンジェルス。実際に起きた、女優志願の女性の惨殺事件を軸に、元ボクサーのロス市警巡査の視点で描かれている。迷宮入りとなっているこの事件、エルロイは緻密な調査と卓越した構成力・筆力で極上の小説に作り上げている。登場人物はみな心に闇の部分を持ち、保身や嫉妬など、キレイゴトではない屈折した感情をを抱えて行動していて、暴力シーンも多いけれども過度に残酷に感じられないのは、そうした人物描写が素晴らしいからだろうな。　この作品の後、話はロス市警や地元ギャングたちの汚職・癒着も絡めて大きく膨らんでいくのだが、、、。読み出したらしばらくの間はこれに没頭することがわかっているからなぁ。タイミングを計りつつ、結局ズブズブ睡眠不足になっていくのでしょう・・・。　でも映画を観るかはわからないなあ。

Oct 8, 2006

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『点子ちゃんとアントン』

　むか～しから親しまれているエーリヒ・ケストナーの少年文学。僕も子供のころから何度も読んでます。数年前に映画化もされたし、見た人も多いかな？　ケストナーといえば『飛ぶ教室』とか『ふたりのロッテ』なども有名だけど、僕はこの『点子ちゃんとアントン』が好きだったなあ。読んだタイミングとかかな。児童文学とか少年文学とかいわれるけど、ケストナーは読者を子ども扱いすることなく、ひとりの人間として敬意を持ちつつ作品を書いていて、そこらへんが当時も嬉しかったような気がしたし（わからないなりにも）、年を経て今読んでもとても楽しめる作品になっているのだなあ。高橋健二氏の訳も、時代を感じさせる文章でもあるけれど、それがかえって新鮮で、皮肉っぽいユーモアの記述など、かえって生き生きと感じられる。物語の内容はここでは触れないけど、主人公の点子ちゃんは本名はルイーゼという名前がありながら、2～3歳まで一向に大きくならなかったので「点子」というあだ名をつけられて、学校に通うようになって大きくなったいまでもやっぱりそう呼ばれているんだとか。しかし「点子」って大胆な訳し方だなあ・・・。というわけで、こないだ我が家にやってきたチビ猫の名前は、彼女にあやかって「点（テン）」となりました。テンちゃん、テンすけ、テン坊、テムテム？　呼び名は変わるかもだけど、基本は「点」ということで。まだ体調が安定していないので心配なところもあるけど、つかず離れずお互い良い関係でいきたいものです。

Sep 4, 2006

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『わたしの台所』

　昭和～平成を通じて名脇役として活躍した女優、沢村貞子（1908～1996）のエッセイ。自称「下町生まれの明治女」の著者が、家事もてきぱきこなす主婦としての視点、そして女優として人前に立つ者としての視点も交えて綴る日常のあれやこれや。豪華な暮らしでなくても、こざっぱりと気持ちよく生活することに幸せを感じている、というか、当たり前のようにそう暮らしているのが文章を通して伝わってきます。読んでいるだけでスッとする感じ。女優としての役どころはちょっとお節介で嫌味な姑の設定などが多かったようだけれど、そういう部分も醸し出しつつ、根っこにある優しさも感じられるような一冊。身だしなみ、掃除から人付き合いに台所仕事など、話題はさまざま。女優という不規則な仕事をしながらも家庭のことも決してないがしろはしないというのは、今ではあまり考えられないことかも。もちろんそこは「下町生まれの明治おんな」、時代は変わったもの・・・といいつつ、「でもね・・」とついついお節介が・・・。僕は祖母や曾祖母と暮らしていたので、なんだか分かるなあ、という部分もところどころあって、楽しく読みました。内容も文章もキリッとしていて、爽やかな読後感。光文社文庫より。　　しかし昔は海外モノのクライムノヴェルとか読んでたのに、このごろ渋いものばかり選んでるなあ。どこへいこうとしてるのやら。

Aug 22, 2006

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『幇間（たいこもち）の遺言』

　悠玄亭玉介著（聞き書き・小田豊二）。集英社文庫。　明治・大正・昭和・平成に生き、「最後の幇間」と呼ばれた悠玄亭玉介（1907～94）が病院のベッドで語る思い出話の数々。たいこもちという仕事を振り返る「幇間一代」、大正・昭和の歌舞伎役者の思い出や印象を語る「名優伝」、落語家や講談師などのエピソードを綴る「芸人魂」、そして玉介師がたいこもちの気構えを通して人生の過ごし方を語る「教訓」からなっている。聞き書きという形態をとっているので、軽妙な江戸言葉がテンポよくポンポン飛び出してくる。「たいこもち」というのは、お座敷でお客さまと芸者さんの遊びを盛り上げるのが仕事。なによりも気遣いが大切で、お客にも芸者にも見番にも巧みな話芸やヨイショを駆使して気持ちよくさせなきゃいけない。昔はお客も粋な御仁が多く、遊び方もお金の使い方も今ではありえない感じだったみたい。戦後は会社の接待などがお座敷の中心となり、それも衰退の一途をたどり、幇間の人数も今やヒト桁とか。寄席などに出演する芸人とは違い、僕なんかがその芸に触れることは一生ないんだろうな。玉介師は、歌舞伎の声色で芸人となって、落語、常磐津、日本舞踊と幅広い芸を身につけた人。子供のころ、テレビで襖（ふすま）を使って一人二役で笑いを取る「フスマ芸」を見たことあったけど、玉介師だったかも知れない。楽しく読めてタメになる一冊。あ、色気の話も満載です。　夜、下北沢のbar lounge altotoの6周年パーティ。なんだかもっと昔からあるような印象。大勢集まって、盛り上がった。よい音よい人よいお酒。今後もお世話になります！

Aug 12, 2006

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BRIGHT MOMENTS

『ローランド・カーク伝　溢れ出る涙』John Kruth：著　林建紀：訳原題 "BRIGHT MOMENTS : The Life and Legacy of Rahsaan Roland Kirk"　伝説的なMUSICIAN、ラサーン・ローランド・カーク（1936～1977）の生涯を追った伝記本。昨年の出版だけど、定価4200円ということもありなかなか手が出せずにいたら、先日図書館にあることが分かり、やっと読めた！　やっぱりエライぞ、図書館！　2週間延長した上に数日間延滞までしてしまって、すまなんだ、図書館！　300ページ超で２段組み、かなりの読み応えでした。　ラサーン・ローランド・カーク（以下RRK）はsaxを中心にfluteやその他様々な管楽器を操るマルチプレイヤー。"Jazz Musician"とよばれる事を嫌い、"Black Classical Music" の向上を訴え続けた。３本の楽器を同時に加えて吹く盲目（２歳の時に病院での投薬事故により失明）の黒人。評論家やジャズファンからは「道化だ」「曲芸だ」「ギミックだ」と言われ続け、その度にRRKは口をつぐむことなく、圧倒的な音楽や、あるときは説法ともいえるMCで抵抗し続けた。身体全身が音楽な人。どんなスタイルの音楽にも即座に対応でき、限りなく美しいバラードを歌い上げたその直後には循環呼吸で何十分も息を途切れさすことなく荒々しいフレーズを吹き続けたり。圧倒的なテクニックと幅広い知識は、気が遠くなるような努力の結果で、音そのものに耳を傾けると（←そのことをRRKは求め続けていた！見た目でなく、音だと！）、意外とストレート・アヘッドだったり。「今の人たちは自分達のルーツを知ろうとしない」ことを嘆き、先人達から続く"Black Classical Music" の伝道師として驚異的なパワーでライブをし続けた。黒人地位向上運動と時期的には重なったけど、RRKの言動は全て彼の個人的な動機によるものだという気がする・・・実際に彼の音楽を聴きながらこの本を読むと、グイグイと彼の世界に引きずり込まれていくようで、興奮状態に。　実に98名ものミュージシャンや関係者へのインタビューとRRK本人が残した言葉が、時系列とは無関係に解体・再構築されていて、訳に多少の読みづらさはあるものの、濃厚な内容。ジミヘンやザッパとの交流にも触れられています。『ラサーンは「立ちはだかる障害を決して黙認しない」強靭な精神と、「法外で遠慮のない個性」をもって、「独自の宇宙を、音楽的に、精神的に、美意識的に創造した・・・・それはたいていの人々には重すぎたのさ」』

Jun 28, 2006

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大江戸漫画

『大江戸　酒道楽　～肴と花の歳時記』「ときめきJAZZタイム」などのジャズ漫画や「酒の細道」などの酒漫画（？）の第一人者、ラズウェル細木氏の漫画。木棒かついで酒を売る商人の大七とおかみさんのお富久を主人公に、正月から冬至の頃まで、江戸庶民の１年の生活を描いています。なんだかんだと理由をこさえては酒を呑んでる大七さん。酒の肴はアンコウ、白魚、初鰹、シャコにネギマ鍋にべったら漬・・・。旨そう。他にも花見や七夕、朝顔市といった江戸からの風物や、当時の屋台や居酒屋などの話など、興味深いネタが満載。酒呑みゴコロをくすぐる一冊です。リイド社から。　江戸つながりで、もう１冊。『滝田ゆう落語劇場（全）』滝田ゆう著。「湯屋番」「二階ぞめき」「芝浜」など実に38篇もの古典落語を漫画化したもの。風情あるタッチ、卓越した構成力・・・滝田ワールド全開の大作です。ほんのり笑い、じんわり泣ける。ちくま文庫から。

Jun 3, 2006

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『ジャズメンとの約束』

　中山康樹著。ミュージシャン達はもちろん、プロデューサーやレコードレーベル関係者、ジャズクラブのオーナーなど、ジャズに関わる様々な人たちの、主にニューヨークを舞台としたエピソードを綴った本です。マイルス、スタン・ゲッツ、ビル・エヴァンスからビル・ラズウェル、ジョン・スコフィールド、さらにはフィル・スペクターやアルフレッド・ライオンも登場。著者は、ジャズ雑誌「スイングジャーナル」の編集長を務めていた人で、アーティスト達との交流も深い。自分が直接目の当たりにしたことや、人づてに伝わってきた話などを交ぜながら、さらりと乾いた感じで書いてあって、読みやすい。説明的な文章でなくて、行間を読ませるような感じでもあるので、それぞれの登場人物の風貌や音やイメージがわかっていると、想像力が膨らんで、とても楽しめます。ビル・クロウが書いて村上春樹が訳した「さよならバードランド」や「ジャズ・アネクドーツ」も読み応えがあって面白かったけど、こちらはジャズ小咄集のような軽さがあって良い感じ。音楽聴きながらお酒チビチビ舐めつつ読むのに最適かも。表紙や装丁には正直ピンとこないけど。個人的にはジョー・ザビヌルやギル・エヴァンスの話が面白かったな。あまりプライベートが見えてこないミュージシャンの生活は覗き見したくなるものです。河出書房新社より2002年刊行。

May 23, 2006

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喰いたい放題

　去年～今年と、食べ物に関するエッセイばかりを読んでいる気がする。内田百鬼園モノを除いて。でも百けんセンセイの「御馳走帖」がひとつのキッカケにもなっているから、流れがそっちに向いたのも自然なのかも。吉田健一や獅子文六や檀一雄など。ちょっと古い時代の人たちの文章が読んでいて心地よい。今日読み終えたのはちょっと新しい（といっても故人ですが）『喰いたい放題』色川武大著（光文社文庫）。安佐田哲也の名前で「麻雀放浪記」を残している人でもあります。この本は、戦前の少年時代の食卓の記憶や戦後の食糧難の時代、壮年になってからの睡眠発作症（ナルコレプシー）という奇病やその他諸々の成人病と付き合いながらの食事などに触れつつ、筆者の好きなもの、嫌いなもの、などを綴ったもの。食べ物のハナシが中心ではあるけれど、一緒に旅をしたり、家に訪ねてきたり、雀卓を囲んだりする登場人物たちも魅力的に描かれていて、ググッと引き込まれてあっという間に読み終えてしまった。グルメというより、食いしん坊。強靭な胃袋の持ち主。すぐに眠りにおちるが睡眠が続かないというナルコレプシーのため、１日に７～８回ほどにもなったという食事。しかも毎食しっかり。大変な闘病生活であることが想像できるが、本人はその状況をあまり嫌ってはいないと書く。　いろいろ印象に残ったところはたくさんあるけど、一番グッと来たのは浅草の甘味処「梅むら」の豆カンを絶賛しているところ。以下抜粋・・・「浅草三業地検番そばの"梅むら"。豆かんはここに限る。下町の老舗のお汁粉屋さんでは、チラリホラリ豆かんをやっているところもあるが、総じて赤豌豆が固めで、つまり蜜豆の中に入っている塩茹での赤豌豆と同じような感じで、どうもいけない。"梅むら"のは豆の皮があってなきがごとく、口の中にいれると寒天と同じ柔らかさで下の上でとろけてしまう」　昔っからの超有名店らしいけど、未訪です。蜜豆と豆かんのエンドウ豆は茹でかた違うの？　近いうちいかなきゃ。　・・・あまり人が読んで参考になるようなブックレビューじゃないわな。

Apr 27, 2006

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寝床で檀流クッキング

　今日未明から吐き気と腹痛に襲われて、トイレと布団をいったりきたり。夕方には発熱も加わる三重苦でした。明日は治っててもらわんと。　そんなこんなで早くから布団にもぐりこんで、ここんとこ読んでいた「檀流クッキング」(檀一雄・著)を読了。昭和40年代半ばにサンケイ新聞に週１度連載していた文章をまとめたもの。食に関する文章では超メジャーな１冊です。檀一雄氏は文壇随一の食いしん坊＆名料理人。「この地上で、私は買出しほど、好きな仕事はない」と言い切ってます。日本各地はもとより、中国、スペイン、ポルトガル・・・と世界を旅して食べ、作り方を盗んできた料理を指南。その数90種類以上。モツ料理にステーキ、キンピラゴボウにボルシチまで、実に幅広く取り上げていて、もちろんすご～く美味しそうな文章でレシピを綴っているのです。今から30年以上も前に書かれたものだけど、今でも十二分に楽しめます。この本の良いのは、細かい分量や調理時間などについては一切触れず、作る側に委ねられているところ。そのとき手に入る材料で臨機応変に作ればよい・・・想像力がふくらみます。結構手間ひまかけるものから、ササッと出来るものまで、今日は食欲無いけど、近いうち何かつくってみようかな。こんなのありました。

Apr 4, 2006

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阿房列車物語　百鬼園回想

　今月初旬に図書館から借りてきて、貸し出し延長しつつ、最近一気に読み終えた本。平山三郎著（論創社）。内田百けんの唯一の弟子といわれるほど近しい存在だった平山氏が、センセイの思い出を綴ったもの。あまり叙情的にならず、百けん先生自身の文章に照らし合わせつつ淡々とその時々の様子を記しています。鉄道好きの先生が、何の目的も持たずただ列車にゆられて出かけ、そして戻ってくるだけの旅を書いた「阿房列車」シリーズで、つねに行動を共にしていた「ヒマラヤ山系」とはヒラヤマ氏のこと。その道中の話や日頃の暮らしぶり、作家としての姿など、とても楽しく興味深く読めました。最晩年、亡くなる直前のころ（昭和44～5年）の話は少し胸が詰まる思いがしたなぁ。元気で頑固で、真面目がオカシイ百鬼園先生ばかりを読んでいたからなぁ。平山氏による百鬼園先生関連の随筆本は何冊も出版されたようだけど、今はすべて絶版。世田谷の図書館にはこの１冊しかないみたいだし、古本屋でめぐりあえたらいいなあ。・・・って、マニアじゃないんだけど・・・きっと。

Mar 21, 2006

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小説も濃ゆいなぁ

　昨年は内田百鬼園センセイの著作にハマっていました。といっても、旅や猫などにまつわる随筆ばかりだったような。で、去年の終わり頃から最近にかけて、もう一本の柱である、短編を中心とした小説を読んでました。岩波文庫から出ている「冥土・旅順入城式」と「東京日記　他六篇」。一篇のボリュームはさほど無いのだけれど、読み応えありました。こういうのを奇譚というのかな？　現実と虚構が混沌としていて、何かが起こりそうなむんむんとした気配を感じつつ、いつまでたっても大きな事は起こらずに、その「気配」にずぶずぶ溺れていくような。普通の路地を歩いていたのが、気付かぬうちに、あるいは一つ角を曲がった途端に異質な世界に入り込んでしまっていて、でも自分ではそれに抗う事ができず、むしろその状態が心地よかったりしているようにも感じられます。人間も獣も周りの風景も、何か得体の知れないものによって混ざり合ったり闇にのまれたり、伸びたり縮んだり。この読後感は独特です。何だか怖くて薄気味が悪くて、でも少し可笑しい。　「私は頭から水を浴びた様な気がして、髪の毛が一本立ちになった」　「私は坂の中途に立ちすくんだ儘、前にも後にも動けなくなった」・・・何の引用？って感じだけど、こんなフレーズがよく出てきて。やたら頭から水を浴びてるようになる主人公（センセイ？）なのでした。　どれも、夢には出てきて欲しくない話だけど、このちょっとした現実とのズレ感が、まったくもう夢に出てきそうな雰囲気なのです。　鈴木清順監督の代表作「ツィゴイネルワイゼン」は「東京日記」に収められている「サラサーテの盤」が原作になっているらしく（最近知った）。今観ると大分印象変わるかもしれないなぁ。

Jan 18, 2006

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「東京漫才」列伝

　今日のお昼のNHK総合テレビ「笑いがいちばん」の出演者は、おぼん・こぼん、あした順子・ひろし、横山ホットブラザーズ、昭和のいる・こいるの４組。う～ん、なかなか充実のラインナップ！と期待してたら、見始めるの忘れちゃって、横山ホットブラザーズの途中からしか見れんかった。「お～ま～え～は～ア～ホ～か～」のノコギリ芸、やったんだろうな。見たかったな～。　ついこないだ本屋で衝動買いしちゃった本『「東京漫才」列伝』（内海桂子監修、富澤慶秀著。東京新聞出版局）には、上の４組のうち横山ホット兄弟を除く３組をはじめ、青空球児・好児、Ｗモアモア、コロムビア・トップに内海桂子など、東京の寄席・漫才界で現在活動している30組ほどの芸人の素顔や芸歴が綴られています。実際の芸をみたこともなければ、名前すら聞いたこともない芸人も結構いて、良く分からない内容だったりもします。彼らは結成70年になる東京の漫才師の集まり「漫才協団」に所属している芸人たちで、東京の寄席や地方営業などが主な仕事場。テレビで顔を見ることが出来るのは、今日の「笑いがいちばん」に出ているような一握りの人たち。でも、何度か寄席に足を運んだときに番組表（プログラム）で見たことのある名前をこの本に見つけたりして、ちょっと興味が湧いてきた。上方漫才や若手人気コンビの活躍に隠れている感じだけど、ひっそりとチェックしてみようかな。ひっそりと。　今、つけっぱなしのテレビでは「課外授業　ようこそ先輩」の再放送中。松尾スズキが小学生相手に空回っている。いや、それが狙いか？

Dec 18, 2005

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『わが食いしん坊』

　獅子文六著。角川グルメ文庫なるところから先月発売された本。過去に出版されていた「飲み・食い・書く」（1961年）と「食味歳時記」（1968年）という随筆集を再編集したモノ。獅子文六は明治26年生まれの小説家、劇作家、演出家。岸田國士らと共に文学座の設立にも関わった人。でも僕は小説などの著作は読んだ事はありません。何年か前の雑誌に、どこかの洒落た貸本屋の書棚の写真が載ってて、食べ物関係の書籍の背表紙が並んでいる中に「食味歳時記」という題と、「獅子文六」なんていうちょっとインパクトのある名前を見つけて、なんとなく気になっていたのです。だから今回発売されたのは良いタイミングでした。　中味は、明治の終わりから大正そして昭和の戦後あたりまでの時代に、著者が食べたり飲んだりしてきたものの思い出や、それを通して70歳になろうかという現在（執筆時）感じている事などを綴ったエッセイ。今読んでもワクワクさせられる話が大盛りです。明治後期の横浜の西洋料理屋やシナ料理屋のことや、大正時代、今から80年以上も昔にパリに演劇留学して暮らしていた頃の料理やワインなどのこと。もちろん日本の飯や魚などのことも。　～～だからこれが好きだ、とか、～～だからこれがウマイんだ、ということに常に明確な考えを持っているので、ウンチクぽい事をいっても厭味っ気がない。「しかし、いい年をして、飲み食いの本を出すなんて、多少、気がヒケないでもない。（中略）ほんとは、黙って飲み、黙って食うのが、一番なのである」なんて、かわいいことも、いってる。　本の内容もさることながら、なんだか気になったこと。文章の語尾で、通常「～であることを知っている」とか「～に決まっている」というところを「～であることを、知ってる」「～に、決まってる」みたいに「い」の字を抜いていることが多くて、わりと古い時代の文章なのになんか新鮮に感じられた。実は正しい文法なのか、それとも茶目っ気なのか・・・。どうなのでしょう。子どもの頃、テレビで永六輔が「『食べれる』とか『見れる』とか、『ら』抜きの言葉が溢れているけど、あれは良くない。ちゃんと『食べられる』といわなきゃ」というようなことを言ってたのを思い出した。こんな細かい事、なんで憶えてんだか、自分でも不思議だ・・・。

Nov 17, 2005

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時代は進んでいたのね・・・。

　実に十何年ぶりかで、図書館に行きました。資料を探しに行くというm.yamに付き合って、羽根木公園脇にある梅丘図書館へ。静かな館内を「あんまり充実してないなあ・・・」などと思いつつウロウロ。でも、このところハマっている内田百鬼園センセイ関係の本があったので、この機会に利用カード作って借りることにしました。世田谷区の図書館を利用するのは、学生時代に砧図書館に通って以来。そんな古い建物でもないのにちょっと薄暗い雰囲気がなんだか似てる。図書館は大体そんな感じだったっけか・・・。申し込むときに「インターネットでの利用時のパスワードを発行しますか？」などと言われて、ハア？と戸惑いつつ、お願いする。プリントを読むと、自宅にいながらにして、保存庫を含む区内の図書館の蔵書の貸し出し予約が出来て、最寄の図書館で受け取れるらしく・・・。そうか。この時代、情報化社会と図書館がつながってないワケないか。世間では当たり前であろうことに昂奮してしまいました。よぉし、これからは図書館に限らず公共のモノはドンドン利用し倒してやるぞ！と小さくガッツポーズ。　借りてきたのは「新潮日本文学アルバム　内田百けん」。小さい本ながら、写真や原稿、書簡など百鬼園先生にまつわる資料が満載。住んでいた家の間取り図やら、愛猫ノラが行方不明になったときに配ったビラなど、著作を読む際に副読本として手元に置いておくと楽しさ倍増な一冊。

Oct 29, 2005

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