カテゴリ:北朝鮮
今日の午後、金英男氏が急遽会見を行った。
直接テレビ中継を見ていたのだが、少し違和感を感じた。 金英男氏の発言に対してではなく、横田夫妻ら拉致被害者家族会の言動と、日本マスゴミの対応に対してだ。もちろん金氏は北に娘を人質に取られている以上、北嘲鮮のスポークスマンとして北の都合のよいことのみを述べざるを得ない。だから彼の発言内容も嘘がてんこ盛りサービス状態なのだろうが、そんなことは北嘲鮮発の情報ならば当たり前、という前提で一連の報道を見てみると、また違った論点が透けてくる。 金英男氏の会見の要旨はだいたい以下のような内容だった。 一、仕事で必要な日本語をめぐみから習っていた。そのうちに異性として親しくなり、86年8月に結婚した。つつましい女性だった。 一、最初の3年間は幸せに暮らしたが、めぐみはうつ病になり、94年4月13日に病院で自殺した。めぐみは結婚前から、幼い時の事故で脳に大きな損傷を受けた記憶があると話していた。 一、日本政府がめぐみの「遺骨」を偽物だとするのは自分とめぐみに対する侮辱であり、耐えがたい人権じゅうりんだ。 一、一部が私と私の家庭問題を政治化、国際化し、北朝鮮を攻撃するために利用している。日本は良好な南北関係にくさびを打ち込み、対決させようとしている。 一、娘の本名はウンギョン。めぐみの問題が大きくなり、私生活が公開されるのは良くないと考え、幼名のヘギョンを使った。 一、ウンギョンはめぐみの娘であると同時に私の娘だ。今の日本の状況を考えると日本には送りたくないし、本人も行かないと言っている。 一、自分は78年8月、韓国全羅北道の仙遊島に遊びに行った際、海辺にあった小舟で眠ってしまい海に流され、北朝鮮の船に救助された。拉致されたのでもなく、自らの意思で越境したのでもない、偶然の出来事だ。 一、今は特殊部門、具体的には統一部門の仕事をしている。朝鮮労働党の胸に抱かれ、幸せに暮らしている。 一、娘は金日成総合大学に在学中。息子は小学校に通い、妻は党の学校で勉強をしている。妻の父は平壌市人民委員会の副委員長を務めている。 黄色い文字になっている部分が重要だ。過激な文面に惑わされて、あたかも彼がデタラメを言っているように今の日本人には聞こえてしまうかもしれないが、この部分は一抹の真実を含んでいるだろう。日本政腐にとっての拉致問題は体のいい政治の道具なのだという主張は、ある意味当たっていると考えている。ネットで見た限りでは、なぜか大マスゴミはこの部分をスルーして報道している。それが証拠だと考えるのは、あながち間違いでもない。 いや、言い方を変えれば、拉致問題自体ではなく、「北嘲鮮(≒中国)」という「日本人にとっての分かりやすい敵」を設定しておくこと自体が、アメリカの軍産複合体にとっては、「ミサイル防衛システム」や「海兵隊移転(=米軍隊内で、人力よりハイテク技術を優先させる=ハイテク軍事部門の企業がぼろ儲け)」という巨大な公共事業(費用負担は日本がかなりを占める)、つまり飯のタネを実現するには不可欠な舞台演出用の道具なのだ。本来は人権・国家主権の問題であるはずの拉致問題は、日本人の対北嘲鮮憎悪感情を煽ることでそういった「演出」実現を手助けするための装置に成り下がっている感じがする。先日、「テポドン2号が発射準備か」という情報が流れてちょっとした騒ぎになったが、あれはアメリカ国防当局発の情報で、外部の人間にはその真偽を確かめるすべはなかった。(このときも、正面切ってこの情報の真偽に疑義を呈した日本のマスゴミはなかった。)はっきり言って、専門家の間では「今の北朝鮮には核弾頭をミサイルに搭載する技術はない」という意見が大半だ。「専門家」と呼んでいても時には「浅門家」と言い換えたくなる類の人間の発言をいつも簡単に信じ込んでしまうのは問題だけれども、この件に関しては、北の経済状況を勉強すれば、ある程度は信用してよい見方だとわかるだろう。 重要なのは、北が核弾頭搭載技術を持ちえていないことがほぼ確実視される状況なのにもかかわらず、アメリカが「発射準備中」と、ミサイルの発射を臭わすようなことを大々的にアナウンスしたせいで、日米、特に日本の国民にセキュリティ不安を感させるような土壌を作ってしまったことだ。日本は制度上は民主主義国家だから、国民の声はダイレクトに政策に反映されやすい。結果的に、北は「ひょっとしたら僕は危ないものを持っているかもしれないよ……」という脅しの材料としての心理的外交カードを手に入れてしまったことになる。ミサイル発射は延期されたけれども、この先北は折を見て何度もこの種の脅迫を行うことができるようになってしまった。多くの国民が騙されて、「北を攻撃しろ」「経済制裁も辞さない」と主張し始めるだろう。それ自体は結構なことで、心情的にはむしろ支援したいことなのだが、まったく腹立たしいことに、これをチャンスと見てアメリカが間違いなく、海兵隊の移転費負担やミサイル防衛構想への参加を持ちかけてくる。この件に関するアメリカの一連の行動は、日本国内の二流親米派が言うような「アメリカは北朝鮮を押さえ込もうとしている」という前提に立って考える限り、軍事常識や外交常識に反した駄々っ子のような振る舞いにしか見えないが、「北朝鮮の脅威」で日本をびびらせ、日本に武器を買わせるための策略だったのではないかと考えると、意外と筋が通っている。 ここで、元の拉致問題の話に戻しておこう。 日本のマスゴミは、あいも変わらず「金英男会見ではめぐみさんの死についての言及が不可解」「北朝鮮は信用できない」「北は拉致問題の幕引きを狙っている」などと、当たり前のことをずっと言い続けている。他の一切について彼らが語らないのは白痴でしゃべる能力がないからなのか、それともマリオネットのように黙らされているからなのか、非常に気になるところだ。 では、他の論点とは何か? 北嘲鮮が日本側に送ってきた「遺骨」が、日本側の行ったDNA鑑定の結果、横田めぐみさんとは別人のものであると判明した、という動きがあったが、これがどうやらかなり怪しいものらしいのだ。横田めぐみさん拉致事件に関する日本側の北嘲鮮非難は、全てこの「DNA鑑定」の結果に依拠しているから、これが覆るとなれば大事件だ。しかし、残念なことに、疑う余地は十分にある。 まずは、科学学術誌の世界的権威である英誌『Nature』から、この問題を裏付ける記事を抜粋しておく。原文は有料なので、下には訳文を載せておく。 (訳文) 政治対真実 日本の政治家たちは、それがどれだけ不愉快であろうとも、科学的不確定性を直視しなければならない。彼らは北朝鮮との論争において外交的手段を用いるべきであり、科学的整合性 を犠牲にすべきではない。 日本の内閣総理大臣 小泉純一郎氏は、日本のある大衆週刊誌によれば、先月のネイチャーのニュース記事のためフラストレーションで頭を抱え込んでいる。 1977年に13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさんがまだ生きているかどうかが争われている。2002年、北朝鮮は13人の日本人を拉致したこと、彼らの幾人かを海岸から連れ さったことを認めた。それ以後、北朝鮮の拉致被害者に関する情報提供の不熱心さが両国間の紛糾を招いている。(ネイチャー433号、445号参照) 横田さんを含む拉致被害者の殆どが死んだという主張は信じ難い。北朝鮮は昨年日本に送った遺骨は彼女のものだと言っている。しかし日本の鑑定はDNAは誰か別人のものだということを示し、北朝鮮軍は彼女をまだスパイ育成のため使っているのではないかという疑惑を生んでいる。 日本が北朝鮮のすべての声明を疑うことは正しい。しかしDNA鑑定の解釈は科学の政治干渉からの自由の限界を踏み外している。鑑定を行った科学者へのネイチャーのインタビューは、遺骨が汚染されていて、当該DNA鑑定を結論の出せないものにしている可能性を提起したものである。 この提言は北朝鮮が欺瞞の権化と映って欲しい日本の政治家にとって快いものではなかった。 日本政府はこの記事に対し鋭敏に反応した。伝えられるところによると、内閣官房長官細田博之氏は記者会見において、ネイチャーの記事は“不適当な表現”を含んでおり、科学者の発言を 誤って書いていると主張した。細田氏は記事のなかの意見は“一般論”であって、当該ケースについて述べたものではないと語り、このことは科学者にも確認していると付け加えた。一方、その科学者自身は、見るところ、もはやインタビューにも応じられない状況にある。 遺骨は汚染されていたかもしれないということは避けようのない事実である。この悲惨な出来事中に、骨がどんな経路を辿ったかを誰が知り得ようか。北朝鮮によれば、遺体は発掘前、2年間埋められ、1200℃で火葬され、その後、小サンプルが日本に送られる以前、女性の夫の家に保管されていた。北朝鮮がうそをついている可能性は大いにありうる。しかし日本が期待するDNA鑑定がこの問題を解決することはない。 問題は科学にあるのではなく、政府が科学の問題に干渉していることにある。科学は、実験、およびそこから生じるすべての不確定性が精査に開放されるべきだという前提の上に成り立つ。鑑定はもっと大きなチームでなされるべきだという他の日本人科学者の主張は説得力をもつ。日本はなぜ一科学者だけに鑑定を委ねたのか。そして彼はもはや鑑定について語る自由さえ失っているかに見える。 日本の政策は外交的失敗―より正確には、日米安保体制の失敗―の穴埋めのための必死の努力のように見える。安保体制は日本の安全及び極東における国際平和と安全の維持と引き換えに不人気 な基地を日本におく権利を合州国(原文ママ)に与えるものである。 日本はUSの支持のもと、北朝鮮に対して別のレバーをひくことができたであろうか。答えは明確ではない。しかし別の問い方もできる。もしもある全体主義国家がスパイに言葉を教えるために 25年間、US市民を海岸から拉致し、そして送り返してきたとしたら、ジョージ・ブッシュあるいは他のUS大統領はDNA鑑定結果で言い争いつつ、遺灰の袋をもってそこにたたずんでいるであろうか。 日本の政治的、外交的失敗のつけの一部が、科学者にまわされようとしている。実験から結論を導き、実験に関する合理的な疑問を呈することを仕事とする科学者に。しかし、北朝鮮と日本の間の紛糾はDNA鑑定では解決されないであろう。同様に、DNA鑑定結果の解釈は両国どちらの政府によっても決着がつかないであろう。北朝鮮と交渉することは確かに面白くない、しかしそのことは科学と政治の分離のルールを破ることを正当化するものではない。 (訳:野田隆三郎氏 引用終わり) 本文中で「鑑定を担当した研究者」と匿名扱いされているのは、当時帝京大学医学部法医学教室付講師だった吉井富夫(当時49歳)である。そして、この男は、その後なぜか警察庁科学捜査研究所(科警研)の法医科長として警察組織に招聘されている。警察組織が外部の人間を管理職に据えるのは異例の事態だが、ネイチャー誌が「彼はもはや鑑定について語る自由さえ失っているかに見える」「一方、その科学者自身は、見るところ、もはやインタビューにも応じられない状況にある」と表現した状況は、このことを示している。 字数が足りなくなったので、すぐに続記事を書くことにする。 http://www.sankei.co.jp/news/060629/sei073.htm お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.06.30 21:48:52
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